複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『ある物語の危機。』 ( No.96 )
日時: 2013/02/28 21:05
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


         「パート3。」



  自宅で身支度を終えた黒川が外に出ると、花狩先生と水島が何やら話をしていた。

  どうやらこれから行く『ジョジョの奇妙な冒険』の話のおさらいの様だった。
  楽しそうな表情を浮かべて話に聞き入る水島を見て、何やら変な知識がまた増えたなと黒川は苦笑した。

  元々私に劣らない程の好奇心旺盛な子であると知ってはいたが、
  まさか漫画まで守備範囲に入ってしまうとは予想もしていなかった。
  大人しい水島のイメージと比べてあまりにもギャップがあったのも否めないが。


  さて、と息込んで、着替えた学校の制服の裾を直すと————





   「————さて、行くか。」



  と、自分に言い聞かせるように呟いて、二人の元に近づいて行った————。









  ————その後私達3人は近くの人気のない公園へと移動する。


  休みの日だというのに人は全くおらず、静かな鳥たちの鳴き声がするばかりだ。

  その行く道中に花狩先生が、「あれ黒川君。なぜ制服なの? 学校に行くわけでもないのにさ?」
  と、ツッコまれたが、放っておいてくれ。これが私の正装であり、落ち着くのだと返した。

  逆にその後、じゃあそれを言うなら花狩先生だってなぜ白衣なんだと聞くと、
  放っておいてくれ。これが私の正装であり、落ち着くのだ、(キリッ)と同じ言葉で返された。
  水島はというと、私服と思われる可愛らしい服装で来ていた。今時のファッションといった感じか。


  そんな他愛もない話をしてここまで来たわけだが、この後に控える世界はそんな陽気な世界ではない。
  それは二人とも分かっていたようで、黒川が視線を移すと、覚悟を決めたような表情であった。

  改めて言う必要はなさそうだと判断し、黒川はフッと右手を前に突きだす。
  イメージするのは、『ジョジョの奇妙な冒険』の世界。

  細かい設定をせず、今回もこれだけで行く。そして————




  “Information search————。Open、Possibility Gate ————”
  (情報検索————。もしもの扉、今ここに開きたまえ————!!)




  そっと呪文を唱え、光を放つように現れた、光に満ちた扉。
  それよりの先の視界は明るく、とても命を落とすかもしれないという世界には見えない。

  黒川はフッと息を吐くと、二人に振り向いて微笑する。



   「さぁ、行こうか……。」



  黒川の合図とともに、二人は頷き、一人ずつゆっくりと扉を潜っていく————。





  扉を潜った先に待っていたのは、今までにないほどの唖然とした世界だった。

  『ジョジョの奇妙な冒険』にはいくつかの話の区分があり、そのそれぞれによって物語の舞台は違う。
  ゆえに辿りつけば、豊富な知識を持つ黒川なら大体この辺りの話だろうなと見当がつく、はずであった。
  それにいくら戦闘ばっかりの世界だと言っても、世界はそれなりに平和に機能している。
  人はいっぱいいるし、皆が皆武器を持って殺気を持って生活しているというのは断じてない。

  あくまでも私達の世界の様に平和に暮らしているというのがほとんどだ。
  ゆえに何も驚くことはない、ただの普通の風景が広がっているだろうと思っていた。しかし————






   「————なんだ……これは……!!」



  黒川が世界を目のあたりにして発した一言目が、まさにこれだった……。

  驚きを隠せないのは黒川だけではない。花狩先生も言葉を失い、水島も両手を口に当てて目を見開いている。
  そんな三人の前に広がる世界を一言で例えよう。それは『燃え盛る様な大参事』、だ。

  建物のほとんどが崩れ落ちる様に崩壊していて、業火が辺りを燃やし尽くす。
  火が笑う様にチリチリと舞っていて、辺りにどす黒い煙が充満する。
  まるで背景がオレンジ色と思うかのように世界は色染めて、平和なんて程遠い。
  戦争中なのかと問いたいほど、辺りはボロボロで、誰かの悲鳴さえも聞こえる。

  その辺に倒れている人も多く、気付くと水島は近くに行って安否を確認していた。
  かろうじて生きているようだったが、返事はなし。気絶している様だ。
  「大丈夫ですかッ!?」と叫ぶ水島の顔面は蒼白で、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
  唸るような声が辺りを響き、助けてくれと訴えているようだった。

  多分、この辺に倒れている人は煙の過剰の摂取が原因だと思われた。
  煙を吸わない様にと小さい頃からの防災訓練で耳にタコが出来るほど吹き込まれたものだったが、
  これほど世界が業火に包まれていれば、吸わずにいる方が難しいとも言えた。

  水島や花狩先生が近くに倒れている人達に声をかけ始めていたので、
  黒川も助けられる人を助けようと息込んだその時であった、

  ふと視界に入ったのは一つの看板。ボロボロになっている看板。
  そこに書かれていたのは、この物語が『どの辺りなのか』を示すヒントになった。


  看板の一部にはこう書かれていた。『杜王町』と……。

  『杜王町』。これだけで黒川の冷静な頭が一つの答えを導き出した。
  間違いないと確信する。ここは紛れもなく『ジョジョの奇妙な冒険』の世界であり、
  物語は『第四部 ダイヤモンドは砕けない』の辺りだと、黒川は思った。

  理由は一つ、『杜王町』を舞台にして物語が展開される話は、この第四部だけだ。
  そしてこれが一体なんの情報として役に立つのか? 別に非常に役立つ情報というわけではない。
  ただ、この大参事の原因が一体誰であるのか、そしてその可能性があるのかという情報の一部に過ぎない。


  以前にも言ったが、『ジョジョの奇妙な冒険』には二パターンの戦いがある。

  一つは『人間VS吸血鬼』。もう一つは『スタンドVSスタンド』だ。
  第一部、そして第二部に関しては前者の方で、他は後者に当たる。

  もしもこの大参事の原因として一番に考えられる要因としては、
  この世界にのみ存在する、『スタンド』を使う人間の仕業だと考えるのが一番妥当なのだ。

  あるいは、『ミスト・ランジェ』の様な謎の人間の仕業かもしれないが……。


  ……くそッ、と黒川は苦い顔をした。情報が少なすぎる。

  この業火に飲まれる街並みを見て、尋常じゃない事が起こっているのは目に見えて分かる。
  しかし原因が分からなければ取り除きようがないし、救いようもない。



  ————ふとその時、黒川の耳に何かが聞こえてきた。


  それは打撃音。かすかだが、本当にかすかだが確かに聞こえる。

  耳を凝らしてよく聞くと、それは拳と拳のぶつかる音のようにも聞こえる。
  こんな状況で打撃音がなる理由があるとすれば、たった一つ。スタンド同士の戦闘だ……。




   「先生、水島、ここを頼むぞッ!!」



  黒川は身を乗り出す様にして音のする方へと走っていく……。

  もしもそこで戦闘が行われているならば、二人を連れてはいけない。
  なぜなら、向こうは仮にも自分の次元とは違う存在。戦いになれば……死ぬかもしれない。
  そんな場所に二人を連れていけば、とてもじゃないが守れない。

  とはいっても、黒川自身も危険であるため、行かないに越したことではないのだが、

  それはどうにも症に合わなかった。
  なぜならこんな絶望に満ちた状況を指を咥えてみてるだけなんて出来はしない。


  少しでも真実を見て、そして救う。ここの人達も……二人もだ。

  そして幸いにも、今はここの方が安全だ。ここに置いていくのがベストだ。
  距離はさほど遠くない。この近くだろうと黒川は確信していた。




   「ちょッ、おいッ!! 黒川君!! どこへ行くんだ!?」



  花狩先生の質問が黒川に届くことはなく、彼はただどこかへと走って行った。



   「おいおい、どうなってんだよ……。これじゃあどうしようも————」

   「先生!! ひとまず煙の充満していない安全な場所に運びましょう!! まずはそれから……」



  水島の声が若干震えているようにも感じたが、今はそんなことを気にしている暇もない。
  水島の言うとおりだと思った花狩先生は、「よし、すまないが手伝ってくれ。」と決意を固めていった。
  二人は一人ずつ背負う様にしておんぶをして、どこか良い所はないかと辺りを見渡した。

  ふと、花狩先生が何かを見つけた。それは壊れておらず、燃えてもいない広めの集会所だ。

  距離はそれほど遠くない。あそこなら、ここにいる全員を収納できるかもしれない。



   「水島ちゃん、あそこに連れて行こう。ここに倒れている人全員だ!!」

   「はい、先生!! ……待っててね。かならず救ってみせるからね。」



  水島は背中に背負う少年に微笑むように笑みを浮かべて呟く。

  ここがどこの世界で、どこの誰だって構わない。目の前で倒れているのは普通の人間だ。

  自分と何も変わらず、何一つ同じだ。
  違う世界だからと言って、見過ごす事なんて出来ない。


  水島は確信した。ここで自分に出来ることは、ここにいる人を救う事。
  それ以上でもそれ以下でもない。かならず救って見せる……!!


  そう決意したのはいいのだが、それよりも気になるのは、黒川の事だった。

  彼はすぐに危険に飛び込む癖があり、命を顧みずに無謀へと足を踏み入れる。
  それが誰かを救うためならなおさらであった。それを水島は良く知っている。

  学校で喧嘩を止める時も、どんなに上級生に囲まれても、彼は守るべきモノを守る。
  そして巻き込むことを極端に嫌う。そんな異常な程の正義感が彼にはある。
  一瞬見た彼の横顔は、そんな危険な場所に飛び込もうとしている表情に見えた。
  誰も巻き込むことなく、一人で戦おうとしている。だとしたら、止めなきゃ。

  彼が危険を冒す前に……私が止めなきゃ。


  “待っててね、黒川君。すぐに……追いつくから。”



  すぐに真剣な表情へと戻し、水島と花狩先生は集会所へと足を運んだ————。




      ————————第12幕 完————————