複雑・ファジー小説

Re: 絵師とワールシュタット ( No.19 )
日時: 2014/03/03 22:15
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: KE0ZVzN7)

 「へぇ……君はそんなことがあったんだ」
 
 この目の前に座っている、浅黒い肌をした大人しい男が、そんな過去を持っていたなんて予想だにしなかった。



 それから皆でしばらく他愛も無い談話をして、すぐに就寝となった。
 灯りの消えたテントの中で、エルネはゆっくりと眠気に全身を任せていった。

 明日はついに入国。故郷を滅ぼしに行く日だ。













 翌日。
 まだ早朝に、見張り番の若い男の大きな罵声で起きた。



 「敵襲来!敵襲来だ! くっそ、朝霧にまぎれて来やがった!!」

 エルネはすぐに飛び起きて、枕元に揃えてあった武器や軍服の上着、軍靴をすばやく身に着けた。

 「参謀方! はよう退散です。こりゃあ太刀打ちできません、あとで体制を立て直してから考えましょう!!」

 「了解! すぐ行く!」 
 ラティーフが、良く通る深い声で言った。



 そうしてすぐさま一つ後方に張ってある陣地へと退却した。全員早足で、できるだけ急いで脱出した。


 ところが、丘を一つ越えたところで異常に気が付いた。
 燃えているのだ、後方の陣地が。


 「くっそ、あっちもやられたんだ!! しかしいつの間に、一体どうやって……!」


 「作戦変更!」
 体調の大声が響いた。 
 「今より遊戦に転じる! 総員戦闘に備えろ! とりあえず生き残る事だけを考えろ!!」


 まずいことになったな、エルネはふと頭の隅でそう考えた。
 これだったら、元居た陣地で陣を張ったまま、籠城するような形で粘った方がまだましだった。


 こんな丸裸の状態で、砂漠のど真ん中に放り出されるなんて。


 しかし不思議だ。エルネは思った。
 あの国は、そんなに優秀な軍隊を備えるだけの力があっただろうか。エルネがまだ皇子だった時代でもだいぶ軍の弱体化は進んでいた。それが民政になった今では、もっと弱くなっているに違いないと思っていたのに。それに、きちんとした軍がいるかどうかすら疑わしいくらいだったのに。


 それでも今、確実に確かなのは、この状況はかなりやばいということだけ。

 抜刀して、抜け目なく周囲に目を配らせて、耳を澄ませた。
 いつ、奴らがやって来ても、きちんと戦えるように。