複雑・ファジー小説

Re: 絵師とワールシュタット ( No.20 )
日時: 2013/10/14 01:03
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


それから。




 敵は、すぐにやって来た。しかし、予想だにしない敵であった。
 悪魔だったのだ。砂漠の悪魔がやって来ていたのだった。



 砂漠の悪魔相手に、エルネ達は敵うはずもない。
 真っ黒な皮膚をした砂漠の悪魔は、こうもりのような黒い羽根を広げて、エルネ達の前に降り立つと、その獰猛な歯をむき出しにして、次々と兵士たちを襲っていった。

 普段はこんなふうに集団で人を襲うことがない悪魔が、どうして急にこんなことをしたのかは分からない。
 

 そしてまだ日も登らないうちに悪魔たちはほとんどの兵士たちを殺してしまい、日が昇るのと同時に颯爽とどこかへと消えて行ってしまった。





◇◇




 そして気が付いたころには、太陽は真上に上っていて、あたりはすっかり昼になっていた。
 

 灼熱の砂漠に一人、どうした訳かエルネだけが生き残っていた。
 いや、死にきれなかった、と言った方が正しいだろう。

 さっきからずっと、エルネは自分の脇腹から出る血潮を見て、ただただぼうっとしていたのだから。


 傷は、案外深くないらしく、なかなかエルネは死ねなかった。
 うっすらとした、ぼんやりとした意識の中で、灼熱の太陽の中で、ただただ、痛いなぁ、痛いなぁ、と繰り返し思っていた。止血しようにも、腹から出ているのじゃ、どうしようもできない。




 サクサクサク、




 その時、背後から砂を踏みしめる音が聞こえた。
 どうやら誰かがやって来たようだ。




 サクサクサク、 
    サクサクサク



 ピタリと、ちょうど真後ろまで足音は迫ってくると、ふいに止んだ。




 「だれ……?」
 エルネは、声にならない声で問い掛ける。
 すると、足音の人物は、今度はエルネの正面に回って、そして膝を追って、覗き込むようにしてエルネの顔を見た。



 不思議なターバンを巻いている、不思議な人物だった。
 ターバンから覗く黒髪は、見事に艶めいていて、そして色白な頬には、禍々しい入墨があった。

 こちらを覗く目は、まるで宝石のように、澄んだグリーンに輝いていた。



 「やぁ、エルネ。お久しぶり。私だよ、絵師だよ」


 そう言うと、そのターバンの人物は、にこりと下手な笑い方をした。