複雑・ファジー小説

Re: 絵師とワールシュタット ( No.21 )
日時: 2014/02/28 23:40
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: KE0ZVzN7)


 第十編  絵師と青年





 「……ああ」


 驚きも、無かった。
 視界の向こうでは、熱い陽炎が、猛然と渦巻いている。


 ただただエルネは、喉が渇いたなと、そう、ぼうっと考えた。

 どうしてだか分からないが、いつか、こうして灼熱の砂漠の中で、こんなふうに絵師と再開することを、ずっとまえから知っていた気がするのだった。

 だから、驚くことも無い。


 自分を覗き込む絵師の白い顔の後ろにはコバルト色の空が悠然と広がっているばかりだ。
 淡い緑色の瞳が、まるで作り物のよう。

 そして絵師はにこりと不思議な、それでいて爽やかな笑い方を再びした。



 「なぁエルネ、」

 それは、どこかとても懐かしい喋り方のように思えた。



 「 わ た し は だ あ れ ? 」



 ここは砂漠。
 ああ、いつの日だったかな。ラティーフが砂漠の悪魔の話をしていたっけ。
 微笑む白い顔は、でもやっぱりあの絵師のものにしか見えなかった。



 「……あなたは、」

 乾いて、ひび割れた喉から、途切れ途切れ吐き出すコトバ。
 どうしてかな。この人を、あれからずっと心のどこかで求めていた自分がいる。 



 「さばくの、あくま、だ」


 それは、ひどく悲しいことに思えた。