複雑・ファジー小説

Re: 絵師とワールシュタット ( No.3 )
日時: 2014/03/02 20:46
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: KE0ZVzN7)



■少年と砂漠


 乾いた冷たい風が吹く。

 細かい砂が巻き上げられて、ぱちぱちと体に当たり散らす。
 眼前に広がる光景は、まるでこの世の終わりのようだ。

 何もない砂漠の、肌色の緩やかな山は永遠と続いていて、そこにぽつりぽつりと背の低い木が時々生えているだけだった。


 少年は独りだった。
 もう、ここはどこだろう。街からはずいぶん遠ざかった。沈む太陽を追いかけて、昇る朝日から逃げるように、西へ、西へと意味もなく毎日歩き続けた。


 噂は広がるのが早い。街の人々は、誰一人として例外なく少年の敵だった。
 暴力は振るわれない。代わりに、ひどく蔑んだ目でちらりと見られる。それはまるで、鋭い長い針で心臓を突き刺されるかのようだ。



 だから、人の居ないところへ、人の居ないところへと歩き続けた。
 誰も知らない、誰も居ない、自由で新しい場所に行きたかった。

 しかし少年は未熟だった。何一つ、大自然の中で生きるすべを知らなかった。もう、食べるものもない。

 視界が霞む。やがて立っていることさえ叶わなくなって、柔らかい砂の上へと倒れた。咽返るような砂埃がもうもうと立ち込めて、少年を優しく包み込む。まばたきをすると、少年の長いまつげに埃がいくつも舞い降りる。

 目に見えるのは、砂漠の砂色と、どこまでも澄んだ青い空。
 なんて孤独だろう。いっそ、自分もこの砂の一粒になってしまいたかった。
 砂色と空色。とても綺麗だったけれど、なんだかとても寂しかった。いつの間にか、涙がこぼれていた。最期、まだ体に残っている水を、惜しみなく目から流した。


 ああ、きっと僕はもう、死ぬんでしょう。


 誰も迎えに来ない、青い空の下、広い砂漠の中で。

 いずれ、真っ白な骨になってゆくのでしょう。