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複雑・ファジー小説
- Re: 絵師とワールシュタット ( No.8 )
- 日時: 2013/04/14 23:28
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ECnKrVhy)
それから。
エルネとバラージュは、来る日も来る日も歩き続けた。
バラージュの隣にいつもいる、狼のような獣は、名をメルカと言った。メルカは、ときどき野鳥を仕留めては、バラージュにたっぷり褒められ満足して、人間たちと獲物を半分に分け合った。
しかし来る日も来る日も、景色は変わらない。
荒涼とした肌色の砂漠の穏やかな山々は、昼は灼熱、夜は極寒だった。
それでも、バラージュは来る日も来る日も夢の国を語り続けながら、生き生きと輝く瞳で歩き続けた。
エルネは正直不安だった。
あの絵師が、どこか知らない異国から来たことは間違いないだろう。しかし、それがバラージュの語る夢の国なのかは不確かだった。もし彼の幻想郷は存在しなくて、やはりただの儚い夢であったならば、彼はどれだけ落ち込むだろう。絶望するだろう。
けれど、バラージュにとっては、そんなことどうでも良いのだった。
彼はただ、夢の国があると信じて、歩き続けるだけで幸せだったのだから。
それから幾日幾月が過ぎたころだろうか。
その日は、珍しく空が見飽きた瑠璃色では無くて、美しいあかがね色に染まった日だった。
「……水の匂いがする」
バラージュが、錆びた心の奥底から溢れだす興奮を静かに抑えながら言った。「近いぞ!!」
「おい、待てったら!」
エルネの声も聞かずに、バラージュは夢中で走り出していた。その横で、メルカが嬉しそうに吠えながら飛んだり跳ねたりしながら、やはり主人について走って行った。
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