複雑・ファジー小説

Re: 咎人 ( No.3 )
日時: 2013/01/01 21:31
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: nA0HdHFd)
参照: 王は自ら贖罪する。

 親の仕事の関係、自分の生活環境の関係。そういったものが混ざり合い、どうしようもなくなった時に家族総出で家から出る。そんな生活は、もう長く続いている。お陰で、話せる言語は五つまで増えた。全て独学で、見よう見まねのチープな三級品ではあるが。それでも通じるだけましだと思い、直す気もないままに使い続けている。言葉なんかは、直ぐに消える役にたたないものとしか、自分は捕らえてはいない。それ以前に言葉はいらないと思っている。
 家の前に止まっている大きいワゴン車に乗り込む。母は助手席、父は運転席に座り、自分は一番後ろの席を全て倒したスペースに座る。四つある携帯の内一つを開くと、後ろから小さなうめき声が聞えた。後ろに誰か居るのかと父に問えば、お前の標的だった奴等だろ、と抑揚なく返ってくる。ちらりと見やれば、確かに先ほど川原にいた奴等だった。誰よりも早く逃げて、殺しきれなかった奴等。猿轡をされ、手足を拘束されている。
 滑稽だった。目には大粒の涙を溜めて、嗚咽混じりにうめきながら自分を見る彼らが、たまらなく面白い。自分がサディスティックという自信は無いが、自分を客観的に観察するとサドなのだろう。確実にマゾヒズムでないことは、重々理解している。とすると、矢張りサドなのだろう。一番近くに居た奴の足を掴み、自分に近づけるだけで奴等は怖がって身を捩った。
 可愛いと言えば可愛いのだが、個人的には五月蝿いだけだ。その行動も、声も嗚咽も全て。総称すれば、全てが五月蝿い。近づけた奴の足の上にのる。乗る、というよりは左足の太ももを足蹴にするというのが正しいかもしれないが。そうしたあとで、思い切り奴の足を上に上げる。ゆっくりゆっくりと、足の裏から骨の軋みが聞えるほどまであげると「んううううう!!」と、くぐもった声が耳を撫でる。それでも手を止めることなく、足を上げ続けると骨と骨が離れる、独特のゴキンという音が鳴った。瞬間的に、奴は「う゛んんんん!! う゛う゛う゛!!」と大きな声を上げる。
 足を離してみると、太ももの中間からしたあたりがぶらりと垂れ下がっていた。苦しむ仲間の姿を見て、同様に縛られている残りの奴らは逃げるように身を捩る。逃げれるわけが無いことは全員が知っているはずだが、それでも危機的状況になると一歩でも逃げようとするらしい。あまりにも滑稽で、更に痛めつけてやろうと思ったが父親から買出しを命じられたため、仕方無しに車から降りる。丁度高速道路のサービスエリアに停車していたので、すぐ近くのコンビニに入り飲料水や食料を買う。財布から出て行ったのは樋口一葉一人で、帰ってきたのは野口英世が二人だった。店員からおつりと物が入った袋を受け取り、車へ向かう。
 フロントガラスを見ると、父と母が思い切りディープキスをしているのが目に映った。それを見ないことにして、車により後部座席に乗り込む。袋から茶とミルクティ、惣菜パンをキスが終わって直ぐの母に手渡す。呆れながら奴らのいるスペースにどっかりと腰を下ろせば、その中の一人の股間が盛り上がっているのに気づく。
 どこまで出来すぎてんだよ、お前らは。
 乱暴に封を切ったパンを食い、膨らんだ股間を思い切り蹴る。瞬間的に白目をむいたのを尻目に、何度も何度も蹴り続ける。痛いだろうな、なんて思っても足を動かすことはやめない。蹴っていく内に、だんだんと楽しくなってきていた。車が発進していたことは、定期的にやってくるオレンジが車内を照らしたことで、初めて分かった。既に蹴られていた奴のモノは使い物にならない様子だったが、自分には関係が無い。ぴくぴくとしている奴に一言、気絶すんなよ、と耳打ちし自分は静かに瞼を閉じた。