複雑・ファジー小説
- Re: 咎人 ( No.4 )
- 日時: 2013/01/12 22:10
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: JiXa8bGk)
目が覚めると、トランクが開いていて車内には死に掛けの母と寝起きの自分しか居なかった。暖かな夕日に照らされながら外にいたのは、父と首と胴体が離れた奴等だけ。見た感じ山内であったが、この時期山菜を取りにくる能無しはいないため堂々と父は死体の処分をしている。そこまではまだ、普通だった。死体に寝起きの目をじっとこらしていると、股間の辺りでの出血が目立つことに気付く。母親にどうしたのか聞こうとした直後、自分の体は固まった。
奴等から切り離した陰茎を、母は狂ったように舐め、しゃぶり、あろうことか陰部への挿入まで行っている。自分の末路も、下手をすればこうなると考えるとおぞましさだけが残った。脳内が白くなりかけ、胃からこみ上げてくる酸の強さに吐き気を催しそうになる。吐き気を紛らわすため、ポケットからタッチ式の携帯を取り出しニュースを多く取り上げている動画サイトを開く。大々的に報じられていたのは『神隠し』と呼ばれる事件だった。今自分が居るところから、二百キロメートル近く南下したところにある町で少年四名が行方不明。彼らの親も行き先に心当たりがない。同日、その町にある河原で男子学生が一名死亡。状況から見て他殺とされているらしい。
思わず口元が緩む。心は余裕だと感じているが、頭では危険だと矛盾する二つの気持ちが生まれていた。上手くいけばこのまま高飛びをする事が出来る。上手くいかなければ——近所の人たちが言えば——いずれ捕まるだろうと、携帯の電源をオフにして考えた。腕を組んで俯いているとトランクが閉まり、外界の光がシャットダウンされる。数秒経って父親が運転席に乗り込むと、車は再発進した。遮光の窓ガラスから外を見ると、奴らの姿は既になくなり唯自然な山々が残っているだけ。つまらなかった。この家庭が可笑しいことは、近所に住んでいた全ての人が知っている。知っていて尚、この家族を罰しようとする者は一人とていない。一度文句をつけてきた町内会の重役を、父が撲殺し母がまた陰部だけを取り除き、その死体を父が調理し、何食わぬ顔で人肉で作ったカレーを町内の人間に食べてもらった事があるからだ。骨は数回に分け、近所の野良犬の家族に与えていた。
町内の人々には、回覧板を通して先日のカレーの肉が重役であったことを伝えている。泣く者も居れば、カレーを食べる事が出来なくなった者も多く居るが、自分と家族が責任を逃れたのは父のお陰だった。何かすればこうなる。そう伝えただけで、彼らはほぼ全ての事情を理解し、いつも通り変わらない近所付き合いを行っていた。三軒先に住んでいた幼馴染は、気づけば居なくなっていた。周りに住んでいた自分と仲の良かった子供達も徐々に徐々に減り、小学生時代の友人は一人も居ない。担任や担任ではない教師には心配をされたが、特に悲しくはなかった。原因を作っているのは自分の家族だと、知っていたから。見上げた車の天井に、懐かしい友人達の死ぬ間際の顔が映っていた。涙を流し、血に濡れ、助けてと自分に手を伸ばす彼ら。その彼らを無表情に見つめる自分の後ろから振り下ろされる、大きく鋭い斧。瞬間的に見開かれた目をした表情が、彼らの最後の顔だ。
懐かしいことを次々に回想していると、車が急ブレーキをかけ、シートベルトをしてなかった自分は運転席の後ろへと突っ込む。頭を打ち顔を思わず歪める。痛みに堪えながらゆっくりとフロントガラスを見ると、渋滞が発生していた。舌打ちをする父をよそに、母はまだ自慰行為をやめていない。呆れたが痛みに気がいったため、どうでもよくなった。たまにハンドルを切る父を見る限り、ゆったりとしたペースで進んでいるようで、上手くいけば二時間程度で渋滞が緩和すると見込める。しまっていた携帯を取り出し電源を入れ、メールボックスを確認すると二十人近くからメールが着ていた。半数近くはダイレクトメールで、残りはあるサイトで仲良くなった友人達からのメール。内容はどれも同じで、事件を見た、さすがだな、などだ。それを見ても優越感は何も得られない。自分がやったのは、河原で死んでいる男子生徒だけだからだ。捜査が難航するかしないかは分からないが、靴を川に捨て敢えて証拠を残しておいた。指紋は一つも付いていない。付いているのは死んだ奴のDNA鑑定に必要な物だけだ。「これあげるわ。飽きたの」悦に浸った母が自分に与えてきたのは、向かれた陰茎。あからさまに嫌悪感を滲ませた自分を無視し、「やっぱり貴方のが好き」と父と深い深い口付けを交わす。
そのとき心に決めたのが、次殺すのは母親にするということだった。