複雑・ファジー小説
- Re: 咎人 ( No.5 )
- 日時: 2013/01/15 16:32
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: dSEiYiZU)
自分が人を殺すには数個ある壁を越える必要があると決めていたのを、ふと思い出す。一つ目に相手となる人物を決め、何故殺すという結論に至ったのかを明確に思い出せるか否か。二つ目は相手の一日の基本と成る生活習慣、どんなものに耐性があるのか。三つ目が、どういったことが好きでどんな人物と繋がっているか。最後に、その人間個人を見つめ殺す価値があるか否かを決定する。最近耳にする無差別殺人や通り魔などは、自分にとってはご法度だ。そうして決めた相手の泣き顔、狂った動き、惨めな姿、ぐちゃぐちゃの泣き顔、死に掛けたときの一瞬うつろに成る目、それがすべて愛しく愛せるものになる。
恋人はいらない。一度作ったとき、殺してしまっているから。段階を踏まずに、其処に居るだけの存在としてぞんざいに扱われた恋人を、第三者が粛清した。家中に響き渡った彼女の鳴き声と喘ぎが、彼女が死んでから四十九日の間耳から消えなかった。そこにまだ、彼女が存在すると自分に思わせてくれていた。それだけで、自分は充分だったのだ。
「渋滞、緩和したんだ。……警察は捜査開始してるらしい、何時見つかるのかも分からないけれど、注意するに越したことは無いだろう。自分は捕まっても構わない。自分ら国民には皆、黙秘権がある。伝えなければ強制的に全ての秘密を伝えることになるのだろう。下らない? くだらなくは無いんだよ、父さん。自分が伝えてしまう秘密、何がいつどこでどうなっていたのか。これは自分らにとっては誰にも知られてはいけない秘密そのもの。……違うか」
ほぼ独り言のように呟いた自分の言葉は、しっかりと両親の耳に入っていた。深い意味を隠し、奥へ奥へと仕舞い込み、表面の一部を切り取った言葉を車内に泳がせる。誰が望んでいなくとも、自分はこうして思いを口に出すことは間々ある。聞いた人間が何を思うとしても、自分には何一つ関係が無いのだ。
