複雑・ファジー小説

Re: 咎人 ( No.6 )
日時: 2013/01/26 11:20
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: HpE/sQXo)

 またエンジン音だけが響く車内に戻り、自分は小さくため息をはいた。渋滞が緩和した様子で、車はスピードにのって道路を進んでいく。少し下に下がった窓からは、冷風が吹いてくるのが分かったが動くのも面倒くさかったから着ていたコートのファスナーを一番上まで上げる。自分が面倒くさがりだと言う自覚は一つも無いが、もしかしたら面倒くさがりなのかもしれないなと自嘲気味に口角を少し上げる。父のことを倒している後部座席の側面の壁に寄り掛かりながら、バックミラー越しに少し見ると何かを考えているかのような表情で、且つ何も考えていない普段のような表情で運転をしていた。

 眉間にしわを寄せハンドルを握る父は、昔から自分に精神的外傷を植えつけている人物である。今も尚続く外相の植え付けには依然としてなれることができない。今も初めてできた恋人の死に間際を言葉に出されただけで背中からは冷や汗があふれ、頭がぼうっとし、情けなくもひざが笑う。反射的にそうなる体へと、いつの間にか変化を遂げていた自分の体が、情けなくも狂おしいくらい大好きだった。今はもう、何も感じずに生きることを選んだ自分に「愛」や「好き」、「怖い」なおという感情は備わっていない。備え付けられた感情のすべては「殺害衝動」へと、移動するようになっている。だからこそ、自分は自分でその「殺害衝動」を制御するため決まりを設けている。

 窓の外は既に暗く、街灯が照っていた。空港付近の一般道に降りると警察官が検問を行っているのが見えた。

 携帯の電源を入れ、メールボックスの受信箱を開くと十二件ものメールが届いていた。その中の一通に、今自分が居る一般道で検問が行われていることが書かれたメールがあったが、それに気付くのが遅かったと一人後悔する。

「……道は空いてるのに、検問ってことはもう犯人の目処が経った。そういうことか? いや。それは無いだろうな。何よりも自分の居場所は分からないはず」

 そうして、河原での事を思い出していく。
 死んだのは一人、その間鳥が囀った音とさっき父親が殺した五人が砂利の上で後ずさりをした音が鳴っていた。死んだ男の鞄を最後に見たとき、奴の携帯が外に出ていたな。そういえば、一度奴の手が携帯のほうに伸びていたかもしれない。撮られたか? だが音はしなかった……。

「……本当にしなかったのか」

 思わず口に出た結論までの過程に、父親が反応する。バックミラー越しに感じた視線に自分の視線を合わせると、自分が今何を考えているかを全て伝えろ、といわれているような気にもなる。今感じ取ったものが違うかもしれないが、いずれか教えなくてはいけないときがくるのだろう。今全てを伝えなければ、自分の末路は一瞬のうちに決定すると言うことは今までの経験上いやでも記憶に残っている。逃げ場も無いあの部屋で、嬲られながら死んでいった沢山の死体。人が死んだ晩だけ、食事は豪華になっていた。今では全てを察したが、あの日の豪勢な食事はすべて肉料理で消えていた死体のことを考えると、もうわかる。幼い頃から知らずして同じ人間の肉を食って育っていたということなのだから。

「自分に非が有るだけ、って言っても納得しないんだろうな……。一人殺したとき自分の顔が携帯で撮られてたかも知れない。そっから家特定されて、家に荷物が無いから逃げました。高速おりた道路で検問します。からの逮捕って筋書きだろうと思うが、俺は捕まろうが捕まらなかろうがどうでも良い。母さんと父さんにとって、俺は人質でしかないんだろうからな」