複雑・ファジー小説
- Re: 咎人 ( No.11 )
- 日時: 2013/03/08 18:42
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: j4zkgG9C)
冷たくはなった言葉は、二人の鼓膜を空気の波を伝わって振動したようだった。感情を込めない、気持ちの一つもこもらない自分の言葉はきっと、口から放たれた瞬間に誰のものでもなく力を失うのだろう。力の失わない言葉を扱うのは、自分には少し難しい。
思ったままを、更に強く思いながら、口から出した言葉に宿る感情が何なのかが自分には分からないから。
いっその事、言葉が消えればいいのではないかと思うことはごまんとあった。けれど如何しようも無いことは、知っている。其処まで自分が馬鹿ではないことも、既に自分で分かっているつもりだ。
だからこそ、誰にも理解されないことがあるのも知っている。寧ろ分かり合うことは馬鹿のすることだと割り切った自分に、助手席と運転席に座っている馬鹿へ送る言葉に感情がこもらないのはある種必然でもあった。
「そうか」
ほら、そうやってまた、自分の言葉をやんわりと否定するニュアンスを醸し出す。思いながらごろりと寝転がり、携帯の電源を落とした。見た感じでは人当たりのいい夫婦と、荷物に囲まれた一人がいるようにしか検問所にいる警察官には見えないだろう。
車がゆっくりと停車するのを、全身で感じる。窓が開き、警察官と父親が話しているのが分かった。猫の仮面を被った、悪魔の父親。その隣で楽しげにラジオに耳を傾ける母親。
嗚呼、何を間違って高飛びなんて、夜逃げなんて、殺人なんてしているんだろうか。そんな疑問も、全て吹っ飛んでしまったようで。
そしてまた、今度は窓が閉まる音が聞えた。車が徐々にスピードをあげるのも、じかに伝わる。
小さな声で「A crazy boy」と自嘲して呟けば、何時の日か置いてきた涙と呼ばれるそれが、つうっと目元をぬらしていった。人間は、詰まらないと思ったのも今このときだ。泣いている事実を認めるのも、否定するのも疲れたのか、そっと意識を飛ばしていた。
目が覚めたときには、既に空港の中に居た。