複雑・ファジー小説

Re: 夏のおわりの挽歌 ( No.8 )
日時: 2013/04/05 15:12
名前: 名純有都 (ID: GUpLP2U1)

気付けば、私は何かのバランスを失っていた。見て見ぬふりをして、悪夢の様にむくむくと甦ってくる感情が、よろめく私に入ってくる。  
詰まった排水溝のような心の管に、勢い良く流れ込む。泥の様にへばりつき、心の中を侵食し、躊躇いを押し流す。

 憎しみを恐怖が抑えようとし、殺意は悲しみで相殺され、苛立ちや激昂は情動で掻き消され、それが抑制されたと思えば心には虚無、やがて膨れ上がる衝動、幸せになると言う夢想と空想。それはいとも容易く崩壊し、陽動と興奮に揺れ動く。己の境遇に陶酔し、一方で嘲笑あざわらう。感動は次の瞬間に疲労と困惑に変わり、心の痛みが胸を突き抜ける。一つの大きな波が去った後で、いつか感じた歓びや幸せの後の寂しさが過ぎった。不意に到来する強烈な嫌悪から逃走して、誰かに抱いた慕情が巡る。嘆きが、慟哭どうこくが、叫びが、狂いが、酔いが——脳髄を侵して行く。そしてまた涙が頬を伝っていた。

 夢を見ている。ここは非現実。
 泣いていた。私は、泣いていた。
 世界は……反転する。