複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW  ( No.1 )
日時: 2013/01/29 21:56
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

<プロローグ>



 街行く人々は、色とりどりの傘を差していた。

 そして足早に、自分たちの帰るべき場所へと足を進めるのだ。

 俺は歩く足を止める。

 雨が冷たい。

 傘は持っていない。

 頭のてっぺんから序所に、水に濡れていく。

 冷たい。

 凍えてしまいそうだ。

 けれど、何故か心地いい。

 このまま、全てを洗い流してくれればいいのに。

 全部。

 雨は、雲に溜まりすぎた水分というけれど。

 なら俺は、いつこの溜まりすぎた思いを、零せばいいのだろう。

 前にいた人が、どんどん俺から遠ざかってゆく。

 後ろにいた人が、どんどん俺を追い越してゆく。

 歩いてゆける人はいい。帰る場所があるのは、当然のことで素晴らしいことだ。

 けど、俺は。

 この歩いている人たちと、立ち止まってしまった俺の間にできた距離は、どうやって埋めればいいんだろう。

 走る?雨で滑って転ぶのが落ちだ。

 やっぱり俺はここで立ち止まっているしかないのだ。

 冷たい雨に打たれて、街のノイズの中1人。

 俺はどうしてここにいるんだ。俺はどこに行けばいいんだ。

 分からない。分かってるはずなのに、分かりたくない。

 最低だ。最悪だ。手の施しようがない。

 この先ずっと、こうして生きていくのだろうか。

 1人で、無感情に、ただ淡々と。

 あぁ、なんて・・・

 ・・・退屈な。

 そんな馬鹿げたことを考えていると、ふいに、俺を打つ雨がやんだ。

 ザーっ、という雨音は変わらない。なのに、俺を濡らす雨がない。

 気付くと、俺の頭上には赤い傘があった。当然、俺のものではない。

 その傘は、モノクロだった俺の世界を、一瞬で色づけてしまった。


「・・・雨には、色がない」


 傘の持ち主が俺に声をかける。

 街のノイズの中で、その声だけが俺の頭に響いた。


「・・・だから、雨に染まったあなたも、まだ色がついてない」


 頭に流れ込んでくるその声は、後ろから聞こえてきた。

 ゆっくり振り返る。

 羽織っているパーカーのフードを被り、短めのスカートとニーハイを履いた、少々小柄な少女。

 胸辺りまで伸びた髪は、雨で少し濡れているもののそれがまた光沢を放っていた。


「・・・だからあなたはまだ、自分で色を選ぶことができる」


 身長の関係で、俺を見上げるように見つめながら、赤い傘を俺へと差してくれている少女の瞳には、他の奴らとは違う何か強いものがあった。

 そして少女は口を開く。


「・・・あなたは何色に染まりたい?私が手伝ってあげる」


 これが、俺、矢吹真夜と、彼女、篠原梨緒の出会い。


 差し出された手を握った俺は、もうその時既に染まってしまっていたのかもしれない。