複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【第2部 START☆】 ( No.101 )
日時: 2013/03/29 22:56
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 相手の教師が騙されやすくて助かった。すぐに承諾して、俺が席に着くことを許してくれた。

 ただ、それを邪魔する奴がいた。

 どうやってかって、簡単だ。

 俺の椅子に、座っている。

 空のほうの姫路がくすくすと笑いを立てているのが分かる。

「・・・梨緒さん?そこ、俺の席なんだけど」

「知ってるわ」

「え、うん。じゃあ、自分の席戻ろう?自分の席が分からないとか言わないよね、隣だよ?」

「分かってるわ」

「・・・うん、じゃあ戻ろうか」

「嫌」

「何で!?」

「昼休み、どこ行ってたの?」

「・・・は?」

「ずっと待ってたのに。真夜は帰ってこなかったわ、これは一体どういうこと?」

「・・・えっと?」

「朝、空悟に一緒にいろって言われたばかりなのに」

「え、いや、それは違うんじゃ」

「どうでもいいわ」

「えー・・・」

 一方的な会話に、俺は戸惑う。授業もストップしてしまった。

 みんな、俺と梨緒の会話をただ呆然と眺めているだけだった。表情を見るに、梨緒がこんなに喋るのは珍しいらしい。口々に迷子ちゃんが喋ってる、などという言葉が聞こえる。どんな希少価値だ、絶滅危惧種か。

「昼休み、どこにいたの」

 確かに電車で一緒にいないだけで寂しがった奴だしな・・・でも、いつも一緒にいるわけにもいかないだろうに。

 でも、きっと梨緒はそこまで分かってて言っているんだ。ただ単に俺を困らせたいだけだ。

 じゃなかったら、予測不能な行動をするこいつは昼休みに俺を探して彷徨うはずだ。

「保健室だよ」

「・・・」

「何」

「やっぱり真夜も綺麗な人が好きなのね」

「はぁ?何言ってんだ、お前」

「和泉のところに行ってたんでしょう?馬鹿」

「何でそうなんだよ。別に理人のとこに行ってただけだって」

「じゃあ、何でこんなに遅いの?」

「あいつの怪我の治療が遅かったから。他に何がある?」

 何でこいつはこう間髪入れずに会話するんだ。息する暇もねぇ。

 でもこれって梨緒はもしかして和泉に嫉妬してるんじゃ・・・?

 そんなことを考え付いてしまうと、梨緒が可愛くて仕方ない。

 だが、授業を止めておくわけにもいかない。というか座りたい、疲れた。

 んー・・・どうするかな、この我儘娘。相変わらず頬を膨らませながら俺を睨んできやがる。・・・あんまり効果ないけど。

 とりあえず、訂正しておきたいところを訂正しておこう。それからは後だ。

「あの和泉っていう先生より、お前のほうが綺麗だと思うけど?」

 何故か教室内で歓声が響く。俺なんか言ったか?本当のことじゃないか。

 つか、俺は梨緒に言ったのに、何で他の奴が赤くなるんだよ・・・意味分かんねぇ。

 梨緒は梨緒で無表情だし。

 でも、数秒経ってから梨緒はそっぽを向いて、自分の席へと戻っていった。

「仕方ないから許してあげる」

 小声でそう呟いて、俺の方をじーっと見てまた目を逸らす。

 よく分かんないけど、とりあえず梨緒の機嫌は直ったらしい。

 首をかしげながら俺もとりあえず席につくと、やっと止まっていた授業が再開した。少しおどおどした感じで、生徒たちもどこか浮ついた感じだったが、もう気にしない。気にしても無駄だ。

 食後の授業ということで、俺はかなりの眠気に襲われていたがとりあえず先生について観察することにした。

 今は黒板を見るに地理の時間らしい。

 ちなみに先生はこのクラスの担任。朝から思っていたことだが、この教師はどうも生徒に舐められている気がする。どこが自信なさげでおどおどしてて頼りない。生徒たちに好かれもしないが嫌われもしない。変な立ち位置の奴だ。

 名前はあまり覚えていないが、こいつは多分シロだ。こんな奴に女生徒を拉致する気力があるとは思えない。

 だとしたら、こいつを観察していても仕方が無い。・・・寝るか。

 あ、いや、待て。そういえば梨緒にまだ第三犠牲者が出たことを言っていない。教室では姫路たちが話しかけてくるから、ここで話すのは不可能になるし、アウトロウに帰るときの電車の中だと周りに人がたくさんいる。アウトロウに着いてからでは、梨緒が1人だけ情報が伝わっていないことになってしまう。

 それは俺の責任になってしまうし、できれば避けたいことだ。だとすれば、言う時間は今しかない。

 丁度よく、俺の隣に来てくれてるわけだし。

 気を引いてしまうから、喋るのは無理だが、隣だからこそできることがある。

 教科書は机の中に入っているが、あえて出さずに机を横へずらす。一瞬、梨緒は驚いたように身を竦めたが、すぐに思い直して元の体勢に戻った。

 転校生、というのはいろいろと都合がいいものだ。教科書をまだ貰っていないことにしてしまえば、すぐに隣の人に近づける。

 そしてノートを開き、梨緒のほうへと向けて字を書いた。

『社井から回ってきたことなんだけど』

 丁寧とも雑とも言えない俺の字を、梨緒は覗き込んできた。

 首を傾げて問い返してくる梨緒を見て、俺はそのまま続きを書き入れる。

『また1人生徒が行方不明になったらしい』

 ぴく、と梨緒が凄く小さな動きで反応したことが分かった。

 梨緒はシャーペンを取り、筆圧の薄い綺麗な字で俺へと言葉を紡いだ。

『誰?』

 とても簡潔な言葉だったが、俺はすぐに意図を察して

『3年生の如月美羽って奴。知ってるか?』

『知らないわ』

 ですよね、と俺は内心で呟く。

『今日帰ったら、きっとその話をすると思う』

 梨緒は何も言わずに俺の字を見つめている。

 返事がないを踏み切り、俺は下の行に続きを書いた。

『だから、今日は早く帰るぞ』

 そこまで書いたとき、梨緒は再びシャーペンを動かした。

『今日の放課後、図書室に本を返しに行きたいんだけど。だめ?」

 図書室、にまだ行ったことがない俺は想像しかねたのだが、本を返すくらいはそんなに時間も取られないだろう。

 だったら、別にそのくらい平気な気がする。

『分かった』

 一通りの会話を終えて、机を戻そうとしたがまだ授業は終わっていないし今戻すのは変だ。

 まぁ、この時間は梨緒と机をくっつけておこう。

 ・・・落ち着かないな。

 何でか隣が気になる。

 俺の視線は相変わらず外を向いていたが、どうも心臓の動きが早い。
 ・・・少しくらい、いいか。

 とか思って、少しだけ梨緒のほうに視線を向けると、何故かその時梨緒もこっちを見てて。

 えっ!?ってビックリしてすぐに視線を戻すと、隣の梨緒も同じような動きをした気がした。

 でもやっぱり気になって、また梨緒のほうを見ると、梨緒も同じタイミングで俺のほうに目を向けていた。

 そしたら、梨緒がくすくす笑った。こいつが目に分かるくらいに笑っているのは初めて見た。いつもそうしてればもっと可愛いのに。

 俺もつい笑ってしまった。何でか、2人して同じことをしていることが面白かった。

 こういうのも悪くないな、って心底思った瞬間だった。

















はい、真夜と梨緒のいちゃいちゃシーンですw