複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【んーと、いろいろ受付中?w】 ( No.121 )
- 日時: 2013/04/04 13:25
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
持っていた荷物から本を取り出し、何も言わずに机に置いて彼女の前に差し出す梨緒。
おい、何か言わなくていいのかよ、とか思っているとき、本を読んでいる彼女が梨緒に気付いて顔をあげた。
「貸し出しですか?返却ですか?」
「返却」
小さく呟くように答えた梨緒にも嫌な顔せず、
「分かりました、じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
などと言える彼女は大分大人びて見える。
「この本私も読みましたよ。恋人が死んじゃう話ですよね」
「そう」
話の内容はともかく、彼女は雰囲気に反して結構明るい子らしい。
「あ。でも、この本返却日かなり過ぎてますよ。これからは気をつけてくださいね」
こくん、と頷いた梨緒に、彼女は満足したようだ。が、言ってやりたい。その程度じゃ、こいつは聞かねぇぞ、と。
梨緒から受け取った本の裏に張ってあるバーコードを認識して、下に置いてあるらしいカゴの中に入れた。後で元あった場所に返すのだろう。
それから、彼女は梨緒の隣にいる俺へと視線を動かした。
何だろう、こんな奴が図書室なんかに来ていることが珍しいのだろうか。
「えっと・・・転校生の方、ですか?」
「・・・え」
自意識過剰ではないが、今日一日俺は注目されていた。不良の転校生が来た、と廊下で噂されているのは何度か耳にした。
歩き回れば誰もが振り返ったし、2学年で知らない奴はいないとさえ思った。なのに、ここで転校生ですか?と聞かれるとは思わなかった。
「あ、うん、そう。今日から転校してきたんだ」
「すみません、変な質問をしてしまって。私、1年でして」
「は?」
ここは2学年の校舎だ。1年がいるわけがない。梨緒のように迷い込んだってわけではなく、自分の意思でここにいるように見える。
「えっと・・・私、行方不明の渡辺香織さんの代わりなんです。彼女、2年6組の図書委員だったんです」
とても言いにくそうに、彼女はそう口を開いた。
2年生ならば、他のクラスの図書委員がやればいい話なのだが、そう上手くはいかないのだろう。
行方不明になった生徒と関わりたいなんて、思うわけがない。しかも、カンニングをしたなどという噂が流れているのだから、一層そう思うだろう。
自分がしたくない仕事を下級生に押し付けるという話はよく聞くことだ。この子は見るからにおとなしい感じだし、標的にされてもおかしくない。
この子も災難なことだ。
「とりあえず、生徒には個人カードという本の貸し出しの際に使うカードを作ってもらうことになっているので・・・」
言いたいことはよく分かった。
「学年クラス名前を教えてください。カードはこちらで作ります」
彼女はパソコンを操作している。近くに印刷機もあるため、ここで作るのだろう。
参ったな・・・すぐ帰るつもりだったんだけど・・・まぁいいか。
「2年3組の矢吹真夜だ」
「2年・・・3組の・・・えっと、漢字は・・・?」
「あぁ、弓矢の矢に吹くって書いて真実の真に夜」
「あ。夜って字、一緒ですね」
「そうなのか?」
夜なんて字、そうそういない気がしなくもないけど・・・しかも女の子で。
パソコンに俺の名前を入力しながら、彼女は俺に名前を言った。
「天の内の小さい夜、で、天内小夜って言います。読み方は違いますね」
何となくその自重気味な名前は彼女に合ってる気がする。
ふと、後ろから梨緒が服を引っ張ってきた。
気がついて、図書室の時計を見やると、もう10分も経ってしまっていた。
「ごめん、俺らちょっとこの後予定あってさ、もう時間ねぇんだけど・・・」
「でしたら、明日の昼休みに取りに来てください。使い方やその他の説明は、その時にしますので」
「あぁ、助かる。悪ぃな」
「いえいえ、ではまた明日」
天内に会釈して、俺らは図書室を出た。少し悪いことをしたという罪悪感を感じながら、アウトロウのことを優先させてしまう自分がいることに驚いている。
現在位置が分かればあとは容易い。急ぎ足で昇降口へと向かい靴を履き替えた。
「急ぐぞ」
思ったより時間を食ってしまった。自分の時間配分の下手さに嫌気がした。
朝電車を乗ったときに見た時刻表を思い出して、確か次の電車はあと数分・・・と頭の中で計算する。
走ってる割に、梨緒はちっとも俺に遅れを取らなかった。まぁ、2階から飛び降りれるほどだ、運動神経はいいのだろう。
とりあえず、今は駅まで一直線。
***
暗い。
暑い。
苦しい。
怖い。
分からない。
ここは、どこ?
今は何日の何時?
何で、こんなことに。
私は、何で、あんなことを。
何故。
どうして。
様々な感情が私を支配していた。
目は見えない。周りがどんな状況だかも分からない。口も開けなかった。目も口も、何かで塞がれている感触がある。
もう何時間こうしているか分からない。数秒、数分という単位ではもう済まされないことだけが分かっている。もしかしたら、何日か経ってしまっているのかもしれない。単位は小さくなるのではなく、どんどん大きくなってゆく。
いつまでこうしているのだろうか。時々物音がして、いちいち私の身体が強張っていた。
ここがどこだかは分からない。だけど、私がこうなった引き金を引いた人は分かっている。何でこんなことをしているのかは分からないけど、思い当たる節が無いわけでもない。そのことを何故あの人が知っているのかは分からないけれど。
分かることと分からないことが混ざって、ぐちゃぐちゃになってて、だんだん思考回路もショートしてくる。
あの夜、私はいつも通りに待ち合わせ場所で待っていて・・・名前でまさかとは思っていたけど、本当にあの人だとは思わなかった。
上手く言いくるめられて、場所を移動されて、一目につかないところまで来て、そして・・・。
それからの記憶がない。目が覚めたときにはもうこうなっていた。ここがどこだかも分からない。
たまに、あの人の声がして、それからまた記憶が途切れて、目が覚めた頃にはまたこうなっている。
一体私は何をされているの?怖い。怖いっ!
誰でもいいから、助けて。お願いだから。
そう思っても、私なんかを探す人がいないことなんて分かっているから、ありえない夢に焦がれているという現実には気付いている。
友達もいなくて、頼れる家族もいなくて、私に寄って来るのはあの汚らわしい人たちだけ。その人たちは私の身体が目当てなわけで、私自身を探しに来るはずがない。私がいないと分かったら、すぐに違う人を捕まえるだけ。
これが私の世界。私の、世界・・・。
こんなに暗くて、怖くて、冷たい・・・・・・・・。
どうして、私が。
今までずっと、誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに。
何で。
何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
「そんなに震えて大丈夫?」
そのとき。
声がした。
随分綺麗な声だった。
鈴のように澄んでいて艶があって。
恐怖の謎の物音しか聞こえていなかった私の耳には、まるで天使みたいに聞こえた。
はい、小夜ちゃん登場兼被害者目線ですw
最後に現れた天使さんはどなたでしょう・・・?^^w