複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【んーと、いろいろ受付中?w】 ( No.138 )
日時: 2013/04/10 23:20
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 俺の部屋は、梨緒の隣にある。半ば強制的に決められたのだ。別にどこでもよかったので構わないんだけど。

 部屋の直前まで一緒に来て、梨緒は何も言わずに自分の部屋へと入っていった。

 何だったんだろう?と思いつつ、俺も自分の部屋に入る。

 アウトロウに来た次の日、俺は真と一緒に家具を一式揃えるために買い物に行った。真のあの大量の金は一体どこから出ているんだろう、と思ったがあえて聞かないでおいた。

 棚に机に椅子にベッドに間接照明、カーテンにカーペット、そしてちょっと我儘を言ったパソコンと音楽プレーヤー。など。あと多少の服があったかな。

 部屋、に必要だと思うもの全て、真が買い揃えてくれた。・・・決して安いものを選んだ覚えはないのだが、真は全部笑顔で支払ってくれた。

 携帯1個しか持って無くて、所持金が0円だった俺にとってそれはかなり有難いことだった。

 一応白か黒に統一したため、かなり単調な部屋になってしまったが俺はこれくらいが丁度いいと思っている。

 他の奴らの部屋がどうなっているのかは知らないが、まぁこんなもんだろう。

 引越しでもした気分だけど、そういうわけじゃないんだよなぁ、といつも思う今日この頃だ。

 堅苦しい制服をベッドの上に脱ぎ散らし、・・・思い直して畳んで重ねる。洋服ダンスから適当に服を引っ張ってきてラフな格好に着替えた。まぁ、これなら外に出てもいいだろう。フードもあるし、今夜はこれで行こう。ただ着替えるのがメンドイだけだけど。

 にしても、この間の買い物かぁ・・・。と、璃月にお礼を言われたおかげで、俺はあの日のことをベッドに寝っ転がりながら考えていた。

 梨緒を見つけたきっかけになったあの歌。帰ってから調べてみると、あれはかなりマイナーなアーティストの曲だった。

 別にそんなことはどうでもよく、俺が気になるのはあの声。

 俺は歌が得意なわけでも好きなわけでもないが、一般人目線からしてあれはそこらに転がっている歌手より上手いはずだ。だからあの場にいた人々は足を止めて聞き入っていたのだろう。

 思い出すだけでも心が揺れる。

 だけど、梨緒の歌唱力のことは他の奴らは知らないようだ。何であんなに綺麗なのに、誰1人知らないんだろう。

 と、1人考えたとき、バタンといきなりドアが開いた。

 ・・・またか。

「おい、梨緒。朝も行ったけど、ここはノック必須」

「そんなの知らないわ」

 俺はこの会話を何回繰り返せばいいんですか?あれか?こいつは「ノック」という言葉を知らないのか?・・・んな訳ないか。

 何でこいつが俺の部屋に来たんだか知らない。けど、ここ数日なんでかこれが日常になってるし、着替え中に入ってきたりしたころはないから別にいい。でもそのうちそうなるかもな・・・。気をつけよう。

「何、何か用?」

「用がないと来ちゃいけないの?」

「いや、そうは言わねぇけどさ」

「じゃあ、良いじゃない」

 いつもこうだ。いいように言いくるめられて終わる。もういいけどさ、諦めたけどさ!

 というか、何でこいつはこう、丁度いいタイミングで来るんだろう。

「なぁ、梨緒。お前さ、こないだ歌ってたじゃん?」

「そうね」

「また歌ってくんない?」

「嫌」

「え、何で!?」

 あんな大勢の人の前で歌ってるんだから、普通に歌ってくれると思ったのに。

 嫌、って即答されたらなぁ・・・無理強いはできないし。

「あまり歌ったことないの」

「え?だってあんなに上手だったじゃん」


「私、あれが歌うの初めてよ」


「・・・は?」

「私、あれが歌うの初めてよ」

「え、嘘」

「私、あれが歌うの初め「もういい、分かった」

 いや、分かってない。

 嘘だろ。歌うの初めてって、3歳児か。

 学校の音楽の授業とかどうしてたんだよ?いろんな意味でありえないだろ。

 でも、もしも梨緒の言い分が正しいとして、あれが初めて歌うのだとしたら、こいつは紛れも無い天才だ。

「真夜は、私の歌聞きたいの?」

「あ?あぁ、まぁ、そうだな」

「むー・・・」

 お、何だ。歌ってくれる気になったのか?

「・・・やっぱりやめた」

「えー・・・」

 期待しちゃったじゃねぇかよー・・・。まぁ、仕方ねぇか。無理矢理ってわけにもいかねぇし。

 梨緒は無表情のまま俺の元へ歩いてくる。ベッドから身を起こすと、梨緒は俺のベッドに背を預けるようにして床に座った。

 改めて気付いたことだが、梨緒は制服から普段着に着替えていた。フードは変わらず梨緒の頭を覆っているが、制服とは違う可愛らしさを感じる。

 せっかく可愛い顔してるんだから、フードなんか被んなきゃいいのに。勿体無い。

 でも個人の自由だし、押し付けるのもよくない。

「真夜は、何か歌わないの?」

「俺?いや、俺は歌上手くねぇし」

「私も下手よ」

「何言ってんの、お前馬鹿?」

 お前が下手だったら、世の中全員下手だろ・・・。


「お前の歌は綺麗だよ、凄く」


 じゃなかったら、あんなに人集まんねぇし。

 俺の言葉を聞いた梨緒は、1度きょとんとしたあとに嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとう」

 もうこっちがありがとうだよ。そんな顔見せられたら嬉しくなっちまうだろうが。

 でも、何でみんな知らないんだ?聞かせたやりたい気分なんだけど、今ここで歌わないやつがみんなの前で歌わないだろうな。

 勿体ねぇな・・・こんなとこでこんなことやってる場合じゃねぇんじゃねぇのか?まぁ、それは困るけど。

「あ」

 と突然、梨緒が声をあげた。

「ちょっと待ってて」

 いきなり立ち上がった梨緒はそのまま躊躇いなく俺の部屋から出て行った。

 ふと、廊下のほうからドアを開ける音がして、梨緒が自分の部屋に入ったことが分かる。

 瞬時の出来事についていけない自分がいる。何だろう、梨緒は何をしに行ったんだろう。

 数秒の間、俺は何もせずにただ呆然としていた。するとすぐに梨緒は帰ってきて、その手には小さな紙切れを持っていた。

「これ、空と優が真夜に渡せって」

 梨緒が差し出してきた紙を受け取り、開いて見るとそこに書いてあったのは達筆な字で書かれた2つの名前とメールアドレス、そして電話番号だった。

 一目で分かる。これは姫路と優の連絡先だ。

 直接渡せばいいものを。

「分かった、ありがとな」

 自分の携帯を取り出し、連絡帳に姫路空と姫路優を登録する。

 何か・・・連絡帳のスクロールが伸びたな。

 前は、5人にも満たない程度だったのに、今はアウトロウのメンバー8人と姫路たち、合わせて10人も入ってしまっている。倍以上の数って、凄いな。何か。

 友達に携帯使うときなんてそうそうなかったのにな・・・。

 今更になって、解放されたことを実感した。

 もう俺を縛るものは何もないんだ、と。自由にやっていいんだ、と。いつもあの人のことを考えていなくていいんだ、と。

 そう言われている気がする。

 喜ばしいことなのに、気持ちが晴れないのは何でだろう。やっぱり、中途半端に投げ捨ててしまっているからかな。

 本当なら今はけじめをつけなくてはならないのに、自分の罪を責められるのが嫌で押し付けてしまっている。

 そんな俺が、こんな奴らと一緒にいていいのかな。

 ・・・駄目だ。もう戻れないんだ。今更気にしたって仕方が無い。

「真夜?どうしたの?」

 少しの間考え込んでしまっていたようだ。異変に気付いたらしい梨緒が俺の顔を覗き込んでくる。

 そのことにまた、俺は胸の奥が痛む感覚を覚えた。