複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【んーと、いろいろ受付中?w】 ( No.139 )
- 日時: 2013/04/13 18:12
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
「何でもねぇ」
さすがに今のはあからさまだっただろうか。でも、視線を合わせていられなかった。
梨緒は訝しげに俺のことをじーっと見つめたあと、「そっか」と言いながら立ち上がった。
多分、今のは梨緒なりの気遣いなんだと思う。・・・でも、そんな優しさですら、
苦しい。
ここまで来て、あの人のことを思い出すとは思わなかった。
気にしても仕方が無い、と頭では理解しているのに、何だろう、長年の経験からか身体が異常に反応する。
・・・あぁ、そうか。今が7時前だからだ。
だからあの人のことを思い出してしまうんだ。
それかあれか、数日経って俺の中に何かしらの余裕が生まれたのか。
例えば、ここまで来ればもう見つからない、とか。
いろんなことが重なって、あの頃を思い出しているのか。
・・・耳が、痛い。
『痛っ・・・や、めて・・・・お願い、お願いだからッ!! !』
聞きたくない。リピートなんかしなくていい。
思い出すな。もう大丈夫。解放された。大丈夫。もうないから。あの痛みはもうないから。大丈夫。大丈夫。
そうだよ、だって、あの人は、俺が。・・・俺が。
、 。
「冷たっ」
突然、首筋に冷たいものが触れて、反射的に声をあげて首に手を添えた。
そのおかげで、俺の思考回路は中断されてしまった。
気付けばすぐ隣に梨緒がコップを持って俺のベッドの上に座っていた。場所から見て、俺の首に当たった冷たいものはこのコップだ。中に氷が入ってればそりゃ冷たい。
「何すんだよ」
「お水、飲む?」
やっぱり会話が成り立たない。最早成り立たせようと思ってはいけないんだろうか。
でもとりあえず、喉は乾いていたので差し出されたコップは受け取る。
6月にしてはかなり冷えているようで、俺の汗ばんだ手には気持ちよかった。
気付けばもう片方の手にもコップは握られていて、飲む?という質問にそんなに意味がなかったことを理解した。
「青い色って、何なんだろうね」
「は?」
突然何を言い出すんだろう。相変わらず突拍子のない奴だ。
「ほら。このコップの水、青に見えない?」
そう言いながら、梨緒は俺を後ろへ引っ張ってきた。ベッドの中央に座る梨緒と足を床に下ろして座る俺では多少の距離があったらしい。後ろに倒れさせられた俺は布団の上ということをいいことに、ただ脱力して身を任せた。
自分のすぐ横に倒れこんできた俺の目の前に梨緒は自分が持つコップを差し出す。
・・・まぁ、確かに青く見えないこともない。でも分かっているか?俺だって同じ種類のコップを持っているんだぞ。
「見えるけど?」
「でも、水自体は透明でしょう?」
「そうだな」
「じゃあ、青ってどこにあるんだろう?」
・・・えーっと?
また抽象的な質問が飛んできたなぁ・・・。
「植物の世界に存在する青は極めて少ない。青い花がないわけではないけど、そのほとんどは人による品種改良によるもので、自然に生まれる青はほとんどないの。空や海は青いというけれど、あれは光がレーリー錯乱により青い光を発しているからに過ぎない。・・・ねぇ、青はどこにあるの?」
言われてみると、そうだな。
随分多くの人に慕われる青という色はこの世のどこにあるのだろう。色の原点なんて考えたこともなかったけど。
青、って言われて思い浮かぶものは結構あるけど、こんな風に説明されてしまったら納得せざるおえない。
「一応サファイアやラピスラズリなどの鉱物の青は原子で成り立っているはずだから、青、というものがないというわけではないけど、たかが色一色を証明するために原子レベルまで遡ってしまうなんて不思議な話ね。こんなに近くにあるのに、私たちは全く青という色を理解していないわ」
上で喋る梨緒の声は、どこか憂いを成してて色っぽい。妙に大人っぽく感じて、同い年とは思えなくなってきた。
近くにあるのに、その正体が分からない。目の前の猫のようだな。
「私の中で真夜はまだ、青ね」
聞き方によっては失礼しか聞こえないその発言でも、俺は思考を巡らせることができた。
『・・・あなたは何色に染まりたい?』
梨緒と一番最初に出会ったときのことを思い出す。
俺はまだ梨緒の中で、近くにあるのに理解できていない、という存在なのだろう。実際のところ、俺の中での梨緒も、青だと思う。
なら俺は、梨緒に何色だと思われたいんだろう。または、梨緒を何色と思いたいんだろう。
「・・・じゃあ、お前は俺を何色にしたいんだよ」
何を梨緒に求め、求められたいんだろう。
今はまだはっきりはよく分からない。
梨緒も、俺の質問にはすぐに答えられないらしく黙ってしまった。
部屋の中に何の音もない。俺は梨緒を見上げ、梨緒は俺に視線を落とすだけ。
たった瞬間的な出来事だったかもしれないけど、この時間が何だか長く感じた。
梨緒のこの真っ直ぐな目に今映っている、何だかそれだけで俺は動けなくなってしまったんだ。
それから梨緒は少しだ俺から視線を外して、小さく口を開いた。
「そんなの、知らないわ」
・・・え。
一応シリアス的な雰囲気だったはずなんだけど、梨緒のその一言で空気がガラリと変わってしまった。
でも、再び俺の目を見つめた梨緒は、ふざけているようには見えなかった。
「自分が何色になるかは、自分で決めることよ」
梨緒は、逆さから俺の顔に手を添えてきた。ひんやりと冷たくて、妙に身体が強張るのを感じる。
「色は自分で決めていい。私は、真夜が決めた色を染めるのを手伝うだけ。自分で決めていいのよ」
自分で、決める・・・か。
そうだな、俺は今までそういった当たり前なことをしてこなかったのかもしれないな。
今までの俺は、強制的に全てを決められていて、・・・そしてそれを自分の意思で拒んでこなかったんだ。
馬鹿馬鹿しいな・・・笑っちまう。
何も考えてなさそうなのに、梨緒は案外いろいろ考えてるんだな。
「真夜」
「・・・ん、どうした?」
少し気持ちが晴れた気がした。
あの人も、あの痛さも、午後7時前という時間帯も、きっと俺は忘れることはできないだろう。
それでも少しでも、俺を縛る鎖はなくなったんだから、少しくらい・・・な。
「何か食べたいわ」
こんなに自由奔放で気まぐれな猫みたいな奴のおかげっていうのはあまり釈然としないけど、嫌って感じは全くしないのが不思議でたまらない。
・・・さて、じゃあ、俺は手に入れた日に当たれる世界で、自分の色を決めていくことにしよう。
「あとちょっとで夕飯だから待ってろ、馬鹿」
***
「理人、今何時?」
「8時54分」
俺、空悟、理人、社井の4人は、千歳区から電車に揺られて多岐谷区まで来ていた。そして、ここは高嶺高校に近い公園内である。
「じゃあ、そろそろ行くか」
理人に時間を確認した空悟は座っていたブランコから立ち上がる。反動でブランコが揺れて、序所に揺れが小さくなっていった。
7時に帰ってきた杵島も交えて全員で夕食を食べた後、俺ら4人は準備をして理人の言ったとおり8時半にアウトロウを出た。
少し急ぎ目に歩いて乗った電車は8時33分発。多岐谷には8時46分についた。
が、まだ学校裏に車が止めてあり、中に教職員が残ってるということが分かった。全く、教師という仕事は面倒なものだ。9時には全員帰るということなので、俺らは一先ず近くの公園で待機することにした。