複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.147 )
- 日時: 2013/04/23 23:36
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
僕の言った通り、狛くんは個室のほうに向かってくれたので僕もロッカーのほうを見ることにする。
ロッカーは、多分2クラス合同で使ったとしても、1人1個のペースでロッカーを使用することができるだろう。現に男子のほうではそうだった。
これを1つ1つ丁寧に見ていくとなると、ちょっと骨が折れそうだな・・・。そう思いつつ、頑張ってくれている狛くんのことを思い直し、僕も早々に取り掛かる。
次々に見ていくが、何も見当たらない。ロッカーの中は空ばっかりだ。
単調な作業にだんだん飽きてきたけど、僕の手は止まらない。
・・・やっぱりないな。僕の読みは外れたのだろうか。
となると、また踏み出しに戻るわけだ。そうなると、いろいろ面倒だな・・・。
被害者はもう3人だ。そろそろ学校側が問題を直視し始めるだろう。保護者側が騒ぎ出したらそれこそ教育委員会とか出てくるかもしんないし、高嶺高校は大きな学校だから最悪の場合報道されてもおかしくはなくなってくる。
そうなったら、無闇に収集がつかなくなってしまう。警察みたいなのに変に介入されると、こちらが動きにくくなる。明らかに怪しい行動を起こすことになるからね。
そうなる前に一刻も早く終わりにするのが僕たちアウトロウの役目なんだろうけど・・・。
ロッカーの数が残り3分の2くらいになったとき、
「阿九根さん」
と小声で狛くんが僕を呼んだ。
驚き半分と期待半分という気持ちで、僕は狛くんがいる個室へと向かう。狛くんがいたのは端っことも中間とも言えない何とも微妙な場所の個室の中だった。
ライターの光のためか、狛くんの周りは大分明るくて狛くん自身さっきよりも落ち着いている様子だった。
僕が来たことに気付いた狛くんが振り返り僕を手招きする。
狛くんがしゃがみこんでいるすぐ傍まで行くと、狛くんが呼んだ理由がよく分かった。
そこに落ちていたのは、随分古い感じがする小さなくまのストラップだった。もうかなり年期が入っていて、もし高校生の持ち物なのだとしたら幼稚園生のときに買ってもらったのではないかと推測できるくらいの。
そして僕は、そのストラップに身に覚えがあった。
少し前、「昔、お父さんたちに誕生日に買ってもらった初めてのプレゼントなの」と笑いながら自慢げに話してくれた、如月美羽の携帯電話についていたものだ。
「これ、美羽ちゃんのだ」
と反射的に僕は声を零していた。
今時売っているような真新しいストラップなら美羽ちゃんのものだと特定するのは難しいが、こんなに汚れてもう売っていないようなデザインのストラップはこの世に2つとしてないはずだ。しかも、糸が切れていることから、故意に取り外されたのではないということが分かる。
携帯のストラップ、なんてものが取れていたらすぐにでも分かるはずだ。金曜日以前に落としていたとしても、毎日ここに来ていた彼女が見つけないわけがない。つまり、これは金曜日の放課後に彼女がいたことを示している。
それに、彼女はこのストラップをお守りのように大事に扱っていた。それを落としてすぐに気付かないわけがない。学校の教員は9時までいるわけだから、理由を説明したら取りに行くくらいさせてもらえるはずだ。
ということは、彼女はこのストラップを落としてから、ストラップを探しに行けない状況になった、ということだ。
もしかしたら、何かしらの事情、親から貰った唯一のプレゼントより優先すべき事情があったのだとしたら、困難かもしれない。
が、この場合、ここで誰かに拉致されて身動きが取れなくなった、という推測もできる。
とりあえず、これで被害者たちが自分の意思で行方を眩ませているという推測は破られた。何せ、もし美羽ちゃんが行方を眩ませるのだとしたら、絶対このストラップを取ってから、そうするはずだからだ。
「やっぱり、そうですか?じゃあ・・・」
狛くんの言いたいことは何となく想像できた。多分、僕とそう変わっていないだろう。
まず、これは僕らにとって大きな一歩だ。そして今回の作戦の目的が果たされた。
でも、もう少し時間がある。真夜が上手いことやってくれてるみたいで警備員の心配はないし、そもそも空悟との待ち合わせ時間にはまだ少しある。
今動いても空悟がいないのだからどこに行けばいいのか分からない。そう思うと空悟は一番難しい役を買って出てくれた。空悟はできるだけ早く逃げる道を確保して、そしてそれをあちこちにいる俺らに伝えなければならない。当然学校中を移動することになるため警備員のことを一番気に掛けないといけなくなるのだ。
「とりあえず、それは僕が預かっておくよ」
そう言うと、狛くんは慎重にストラップを持ち上げ、ポケットからハンカチを取り出し包み、僕に渡してくれた。
「僕はもう少し見るけど、狛くんどうする?大体はもう平気だからもう外にいても大丈夫だよ。空悟が来たら迎えに行くし」
狛くんは暗いところが苦手だが、夜の暗さは大丈夫らしい。つまり、建物の中ではなく外にいるのなら大丈夫ということだ。
警備員は真夜のおかげで当分来ないだろうし、プール側なら誰からも見つからないだろうし・・・。
何より、僕がこんなに狛くんに無理させたくない。
「本当・・・ですか?なら、すみません。お言葉に甘えさせていただいて・・・」
と言うあたり、相当無理してくれたんだろう。引き止める理由もない。
「うん、分かった。じゃあ、また後でね」
プール側の外、なら思い当たる場所は1つしかないし、問題はないはずだ。
ライターの小さな灯りを頼りにしながら、ふらふらと立ち上がった狛くんはゆっくりと慎重に外へと出て行った。
これで、一先ず安心だ。
僕は立ち上がり、ハンカチに包まれたストラップを落とさないように大事にポケットの中に仕舞う。
残った個室を確認するが、やっぱり何1つ落ちていなかった。まぁ、確かに着替えるのに複数の個室を使うわけがないか。
カーテンやカゴ、その他もろもろを確認し、残していたロッカーも一通り見終わる。
今回の収穫はこのストラップ1つだな。
と結論づけ、僕は狛くんの元に向かおうと思い、ドアに向かった。
・・・あれ?何だろう。
ドアがある壁の隅に何かが落ちている。狛くんのライターがなくなったから真っ暗であまりよく見えない。
僕はしゃがんで、その物体に触れた。・・・柔らかい。というか、乾燥してる。いや、それよりもこれは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パン?
しかも食パンとかその辺の・・・?
ひとかけら、って感じで1枚、という単位ではなかったが、それでもパンだということは分かった。随分小さくなってて、それこそネズミとかが食べるサイズだ。