複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.148 )
日時: 2013/04/26 23:02
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 何でこんなところにパンが?家庭科室とかだったら怪しいけどそれほど気にすることでもないだろうが、ここは立ち入り禁止のプール女子更衣室だぞ?

 乾燥してる、と言っても腐ってるわけでもかびているわけでもない。時間は経っているだろうが、それほど長い時間でもないようだ。それこそ、2,3日くらい・・・。

 2,3日?金曜日?

 つまり、美羽ちゃんがいた時間ってこと?・・・いや、まだ決め付けるのは早いかな。

 でも、もしそうだとしたら?美羽ちゃんがパンを食べていたってこと?・・・6時に?何でここで?いつも家で自分で作って食べているのに。

 駄目だ。僕だけじゃ全然分からない。

 とりあえず、僕は自分のハンカチを取り出し、ある程度パンを拾って包んだ。

 帰ってからみんなと一緒に話してみよう。

 そう思って、美羽ちゃんのストラップが入っているポケットに一緒に入れた。

 さて・・・じゃあ、男子の更衣室のほうも見ておこうかな。何かあるかもしれないし。

***

 今現在、この学校内に誰かがいる。

 早くみんなに伝えないといけない・・・が、無闇に動くのは避けたかった。

 それに、向こうはこの分だと外にいるはず。理人たちが外に出ない限り、見つからないはずだ。

 焦りながらもそう思って、俺は自転車置き場に置いてある1つの自転車に近づいた。

 普通のシンプルな作りの必要最低限の機能しかない自転車。

 カゴの中にはかなり大きめのバッグが入っていて、何に使うんだか俺には想像もできなかった。まぁ、別にこれはあまり注意しなくてもいいだろう。

 生徒、教員が帰った今、この場にあるということはつまりこの自転車はさっきの奴の持ち物だということを示していた。俺らは電車と歩きで来たわけだし、警備員だって近くの交番から派遣されている人たちだから歩きのはずだ。

 何の変哲もない自転車だが、何か持ち主が分かるものかなんかないかな・・・と思って、様々な角度から自転車を見るが、やっぱり何もない。

 外れか・・・と思い、自然と溜息をつく。

 ただ、1つ分かったことがある。

 それはやっぱりこの生徒行方不明事件の犯人は、教員だということだ。

 教員だったら、学校の門の鍵の合鍵を作ることだって容易く行える。なくしたことにしてしまえば、そのまま貰えるわけだし。生徒とか部外者だったらそうはいかないが、教員だったら別だ。

 でも、これではまだ特定できない。

 理人たちが、何か見つけてくれてたらいいんだけど・・・。

「あれ、真夜じゃん」

 と不意に声を掛けられ、体がビクリと強張る。

 声をしたほうを見ると、そこにはずいぶん前に分かれた空悟の姿があった。

「んだよ・・・驚かせんな」

「ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだけど」

 こんな状況でも笑ってられるこいつが凄いと思う。

「警備員は?」

「あぁ。体育館の倉庫で寝てる」

「初めてには思えないな、本当」

「どういう意味だ」

 と軽く会話をしたあと、空悟の目線が俺の隣にある自転車へと向く。

「・・・、その自転車、何?」

 空悟はすぐさま気付いたようで、厳しい眼差しで自転車を睨みつける。

 そうだ。早くあいつのことを話さないと・・・。

 と思った瞬間。

 大きな風が吹き荒れて、つい倒れそうになった。梅雨の天気崩れ、とでも言うのだろうか。

 上着がはためいてフードが落ちそうになるのを必死に押さえる。空悟も変わらなかった。

 だから手が回らなかった。

 こんな強風に不安定なまま無理矢理立たせている自転車が、耐え切れるわけもなく。

 がしゃんっ!!という金属音を響かせながら倒れた。

「やっべ・・・」

 と呟いたのは空悟で、俺も心の中でそう思った。

 ここは、自転車置き場の門の前。当然、屋根があるわけもなく。

 校舎の上の階から丸見えなのだ。

 遠くで小さく窓が開く音と、「何だ!?」という声がする。2年校舎の警備員だ。

「誰かいるのか!?そこを動くなっ!」

 室内にいた警備員が外で怒った強風を知るわけがない。警備員目線で言えば、突然自転車が一人でに倒れたということになる。それなら当然、誰かがそこにいると思っても仕方ない。

 このままじゃ、見つかる。

「逃げるぞっ」

 と空悟が走り出し、俺も一瞬呆然としながらそれでも空悟を追いかけた。

 空悟は室内に入り、昇降口からそのまま1年の校舎に入った。昇降口は2年の校舎とも繋がっているので、警備員の廊下を走る音が聞こえてきた。つまり、こっちの足音も向こうに聞かれているということだ。

 極力音を出さないようにしながら、俺は必死に空悟の後についていく。

 確か、学校に入る前も何かあったら1年の校舎に行け、と言っていた。でも、1年の校舎にだって警備員が・・・。

「誰だっ!?」

 ほら、言わんこっちゃないっ!向こうから歩いてくるのは懐中電灯、当然持つのは警備員だ。

 ここは1階で、渡り廊下もない。後ろには2年の校舎の警備員、前には1年の校舎の警備員、ということで挟まれてしまった。

 どこか空いている教室に入って身を潜めたほうがいいんじゃないか、と提案しようと思ったが、何故か空悟は迷いも焦りもない表情でただ前に進んでいった。

 どうするんだよ!?

 懐中電灯の明かりがどんどん近くになっていく。

 当然、懐中電灯の明かりのおかげで、辺りは明るくなっていて随分視界がよくなっていた。

 そうなると、当然相手の顔が見えるわけで・・・

 やばいっ!そう思って俺はフードを深く被って顔を俯かせた。
 だが、空悟はそうしない。どちらかというと、何だか堂々としているようだ。

 何で・・・?

 と思って恐る恐る顔をあげ、空悟と々ところを見た。

 警備員の顔。

 ・・・あれ、どっかで見たことある気がする・・・。

 無駄にがっしりとした体。警備服の上からも筋肉が分かるほどだ。

 上半身の筋肉が異常なほどに発達していて、手入れなど皆無に見えるぼさぼさの髪は、全部後ろで1つに結んでいる。

「・・・・・榊?」

「おぅよ」

 漏れた声に警備員が反応する。そうしている間に空悟と俺は榊らしき警備員を通り過ぎて、近くの教室に入りドアの影に身を潜めた。

 え。何で榊が・・・?つか、警備員って、え?

 いや、確かに俺はあいつの職業を知らないけど・・・え?マジで?

 状況について行けない俺に空悟は声を潜めながら説明してくれた。

「元々あの人警察なんだよ。んで、ちょっと上に顔と名前が利くっぽくって。今日俺たちが学校に忍び込むの分かってたらしくて、真さんが榊さんに前もって頼んでたらしいんだ。俺らがこうやってどこかに忍び込むときは、絶対榊さんがバックアップを取ってくれてる」

 何それ・・・俺聞いてないんだけど。言ってくれたってよくねぇか?

 というかそれは高嶺だけに限らないのか。空悟たちだって知ってたわけだし。

 いや、ちょっと待て。前もって、ってことは、あいつはこうなるって分かってたのか?