複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.149 )
日時: 2013/04/27 21:27
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 本当ろくでもねぇ奴だな・・・こうなってくると、あいつはもう犯人が誰だか検討ついてるのではないかと疑いたくなる。

「あぁ、榊さん!今こっちに侵入者が来ませんでしたか?」

 2年の校舎の警備員の声だ。本当にギリギリって感じだな・・・。

「侵入者?猫なら来たけどあれは人じゃなかったなぁ」

「え、猫?」

「あぁ。まぁ猫なら木ぃ登ればいくらだって入れるだろう」

 俺らは猫かっ!と思いながらも、あまりに状況が悪いので何も言えない。

 確かに警備員の1人が味方というのは結構心強い。・・・知らされてないと心臓に悪いけど。

 その後、榊と警備員は1,2分会話をして、警備員が離れていく足音がした。2年の校舎へ戻るのだろう。

 はぁー・・・・・。と俺は大きく息を吐いた。

 重い足音が近づいてきて、すぐに榊だということが分かる。

 ・・・空悟たちとは大分慣れたけど、榊とはあんまり喋ったことないんだよなー・・・。

「おめぇら、大丈夫だったか?」

「榊さん、助かりました。ありがとうございます」

「これくらい、大したことじゃあねぇよ」

 ドアの向こうからひょっこりと顔を覗かせた榊が笑う。

「ところで、空悟。おめぇ、もうすぐ40分だぞ」

「え、マジ?行かなきゃ」

 40分、というのは学校から逃走する時刻だ。それまでに空悟は俺と理人と社井の3人を向かえに行かねばならない。俺の場合はもう既に一緒にいるので、2人で理人たちを向かえに行くだけだ。

 何か収穫はあったのかな・・・。なかったらまた振り出しに戻るだけだけど、それはそれで痛いな・・・。

 ・・・、待て。今の今まで忘れてたけど・・・。

「そうだ、空悟大変なんだ」

「何、どうかした?」

「俺ら以外にこの学校に忍び込んでる奴がいるんだ。多分、生徒行方不明事件に関わってる」

 それを聞いた空悟は目を見開き、何で早く言わないんだよ、と言おうとして開けた口を、今言っても仕方ないと思い直して口を閉じた。そう俺には解釈できた。

 確かにそうだ。何でこんな重要なことを忘れていたんだ。警備員に追いかけられて焦っていたのは事実だけど、だからって・・・。

 今更になって自分の中で後悔と自己嫌悪が渦巻いてしまう。駄目だ、今はこんなことしてる場合じゃない。

「俺はそこまで手を出すことぁできねぇ。ここにいてもしょうがねぇだろ、おらさっさと行け」

 榊に促され、俺と空悟は走り始めた。

「ごめん、空悟、俺っ・・・」

「榊さんの言う通りだ、とりあえず行こう」

 そう言われて、俺は頭の中に渦巻く様々な感情を、1度リセットし、走ることに専念した。

「一応、裏門の鍵開けといたから、最悪そこからみんなで逃げよう」

 裏門は、プールの外側を少し進んだところにある。影になるし、知っている生徒はほとんど少ないだろう。

 何か・・・やっぱりこいつら凄ぇな、って思ってしまう。俺も早くこうならないと。

 それはさておき、今は理人たちのほうが心配だ。

 どうかお願いだから・・・

 何も起こっていませんように。

***

 ライターの灯りを、消す。

 やっぱり夜は大丈夫なんだな・・・と改めて思い知った。

 建物の中の暗闇だと、何と言うか・・・こう、落ち着かない。というか、んー・・・何て言えばいいんだろう。

 背筋が凍るくらい寒くて・・・息ができなくなる。15分が限界らしくて、昔無理してずっと暗いところにいたら気絶したときがあって・・・そのとき医者に正式に暗所恐怖症ですと言われた。こういうのって医者に言われるんだ、と驚いたことを今でも覚えている。

 阿九根さんには気を遣わせてしまった・・・。と思いつつ、彼の気遣いはかなりありがたかった。あれ以上あんなところにいたら発症してしまっていたかもしれない。そうなった場合、迷惑かけてしまうのは僕のほうだし、それは一番避けたいことだった。

 プールの更衣室の外。地面とを隔てる階段に僕は座っていた。近いところに裏門があるけど、この門を知ってる人はそうそういないだろうなぁ。

 よくよく見ると、裏門の鍵が密かに開いている。もしかしたら先回りした葉隠さんが逃走経路として用意していたのかもしれない。

 あー・・・お世辞にも気持ち良いとは言えない空気だけど、中よりは大分楽だなぁ・・・。

 と思いながら僕は後ろに手をついて顔をあげて空を見上げた。ライターを階段に置いて、後で矢吹さんにお礼を言おうと思った。

 月や星は見えず、ただ分厚い雲が広がっているだけだった。この雨が降りそうで降らない気候が、一番人間には合わないらしい。精神的に。

 そういえば・・・那羅ちゃん、ちゃんと寝れたかな・・・僕のことを待ってたりしなければいいけど。今日はもう疲れちゃったし無理っぽいけど、明日いっぱい本を読んであげよう・・・。

 腕時計を確認すると、今は9時半くらい。もうすぐ葉隠さんが来るくらいかな・・・。

 眠い・・・今日は何か、疲れた・・・。

 ふと目を閉じてしまう。

 風の音がする・・・それに、葉が擦れる音も。何だろう、心地いいな・・・。

 あれ、足音がする・・・葉隠さんが来たのかな・・・?

 ・・・おかしいな。

 何だかいつもと音が違う・・・?

 そう思って、僕が目を開くと、

「!?」


 突然、口を塞がれた。


 あまりにいきなりの状況に僕の頭がついていかない。

 何?何が起こったの?

 葉隠さんじゃない・・・誰?警備員の人でもこんなことしないはず・・・・。

 口を塞いでいるのはハンカチか何かの布・・・だろうか。それにこの匂いは・・・

 駄目だ、これを吸っちゃいけない!

 今少し吸っちゃったけど、多少の時間なら大丈夫のはず・・・っ

「んん!んーっ!!!」

 声を出そうとするも、相手は力が強くてひ弱な僕では到底敵いそうにない。

 足をばたつかせたり、身を捻ったりしてどうにか脱出を試みるが、どれもあまり効果はないようだ。

 どうする・・・どうする!?

 相手が誰だかも分かってない以上、何をどうしたらいいのかさえ分からない。

 誰かに・・・知らせないと・・・。

 っ・・・駄目だ、何か力が入らなくなってきた。

 必死に相手の腕に爪を立てたり足を蹴ったりするけど・・・全く力が抜かれない。

 僕のほうが・・・持たないっ・・・。


 そこで僕の意識が途切れた。