複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.159 )
日時: 2013/05/02 20:56
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

「侵入者のことについて僕はよく分からないけど、現時点で狛くんがいないのは確かだ。狛くんが僕たちに何も言わずに場所を動くなんてありえない。とりあえず、アウトロウで待機してる真さんに現状報告すべきだ」

「あぁ・・・そうだな」

 理人の言葉で空悟がポケットから携帯を取り出し電源を入れる。学校内にいるときはもしもの事態を防ぐため、全員電源を落としていた。

 携帯が起動中の間空悟は急かすように指を一定時間で動かしている。それこそ、空悟が焦っている証拠のようなものだった。

 現にこうしている俺だって、かなり焦っている。仲間の1人が相手に拉致されたなんていう事態は、決していいものではない。

 やっと空悟の携帯が起動し、すぐに操作して高嶺に電話を掛けるべく本体を耳に当てる。その一連の動作を行いながら、空悟が歩き出したため俺らもそれについていく。まぁ、確かに学校の裏門の前にいるのはおかしいかもしれない。

 理人の行動によって、俺は頭の中でいろいろと整理することができた。

 後悔しても、もう遅いのだ。それよりこれからどうするかを考えよう。いち早く、社井を助け、生徒行方不明事件に終止符を打とう。

 そのためにはまず、状況整理が必要だ。

 空悟の電話の声は少し離れているために聞こえなかったが、2,3分で通話は終了したらしく空悟が振り返ってきた。

「とりあえず、アウトロウに帰ろう。社井のことと、今回のこと、みんなで話し合うから」

 否定するわけでもなく、俺らは頷きそのまま駅へと向かった。

 話す言葉は何もない。何を話したらいいのか分からない、と言ったほうが懸命だろう。

 今回の状況については帰ってから話すべきだ。だが、社井がいなくなってしまった今、俺らは悠長に楽しくおしゃべりなんてしていられない。

 そして俺らは、1人欠けたまま、終電ぎりぎりの電車で一言も喋らずアウトロウへと帰った。

***

 非常にまずい事態になってしまった。

 と、空悟くんからの電話から30分ほど経って帰ってきて3人の顔を見て、再びそう思った。

 今日、この子たちがどこからか情報を仕入れてきて、夜に学校に行くのではないかということは予想していた。そして、そのことに対して対策もしといた。

 だけど、まさか生徒行方不明事件の犯人が登場するとは・・・そこまで考えてなかったな。

 おまえけに狛くんを連れて行かれたなんて。でも、外にいたんだとしたら、犯人の標的にされてもおかしくはないのか。

 あぁー・・・でもなー・・・。今回の事件でここから被害者が出るなんてな・・・予想外だ。

 これであんまりのんびりしていられなくなったな・・・警察の手が入ったらアウトロウとして厄介だ。

 でも、とりあえず収穫はあったそうなのでよかった。そりゃ犯人が自らお出ましするほどだ、何も見つかりませんでしたとか言われたら即座に張っ倒すところだった。

 一先ずもう寝てしまった那羅ちゃんはともかく、起きていた梨緒ちゃんと灯ちゃんを呼び、本日2回目となる緊急会議を開く。

「まず、これです」

 電話したときはかなり動揺していた空悟くんも、電車に揺られて頭を冷やしたそうだ。空悟くんに限らず理人くんや真夜くんにはそれは言えるようで、2人ともどこか真剣な目をしていた。

 真夜くんはともかく、空悟くんと理人くんについては、もう慣れてきたのかもしれない。仲間の中で被害が出るというのは今回が初めてなわけじゃないからね。変に慌てられても困るし、その点はまだよかった。

 理人くんがそう言いながら取り出したのはハンカチで綺麗に包まれた、古臭いくまのストラップだった。糸の部分が切れていて、何かについていたことが分かる。一番最初に予想されるのは携帯だ。

「これは、恐らく、というよりほぼ間違いなく如月美羽の持ち物です。僕がこの目で見たことがあります。小さい頃父親から貰ったプレゼントで、凄く大事にしていましたから」

 こういうとき、理人くんの社交性はかなり役に立つ。以前から如月美羽と知り合いだったという彼の言葉には、かなりの信憑性があった。

「あと、これ」

 再びポケットの中に手を入れて取り出したのは2枚目のハンカチ。そして包まれていたのは、何故かパンだった。

 プールにパンという意味不明な組み合わせこそ、そのパンが今回の事件に関わっていることを意味している。

「僕1人の意見としては、パンのことはとりあえず置いておいて、金曜日の放課後、如月美羽ちゃんはプール更衣室で何者かに拉致されたんだと思います。彼女がこのストラップを3日も放置しておくのは考えられないし・・・どうかな?」

 そう言って、理人くんは周りに意見を求めた。みんなも彼と同じような意見だったらしく、得に上がる声はない。

 こう見ると・・・アウトロウ創設時より、かなりマシになってきたなぁ・・・やっぱり経験の積み重ねか。

「んで、問題は今回の侵入者についてだ」

 と、話題を切り替えたのは、空悟くんだ。

 いつもとかなり印象が違う。いつもの彼はどちらかというと周りを明るくする太陽みたいな役割を担っているけど、今はどちらかというと獲物を取るために冷静な判断を下す狼のようだ。

 彼の二重人格を目の当たりにしたときは、さすがに驚いた。どっちが彼の本性なのかは未だによく分かっていないが、そもそもそれが彼なんだろうと思うようになってきている。

 空悟くんの言葉に反応したのは真夜くんだ。2人は互いにアイコンタクトを交わして目を伏せ、目を開いたのは真夜くんのほう。つまり、真夜くんが話すということだろう。

「俺が最初に見つけたときは、そいつは体育館横の渡り廊下にいたんだ。足音とか懐中電灯の方向からして、向かっていたのはプールだと思う。理人たちが使った道と一緒だったし。まずその点で、そいつが今回の犯人だと予想できる。そのあと俺はそいつを追いかけて、そしたら自転車置き場に自転車が置いてあることと、門の鍵が開いていることが分かった。ここからは俺らの推測だけど、多分犯人は一旦学校外に出てとりあえずプール方面に向かった。そこで、休んでいた社井と、何故か鍵が開いている裏門を見つけた。裏門の鍵は空悟が逃げるために開けておいたらしい。んで、その裏門から再び進入したそいつは、社井を拉致した」

 ふむ。多分そこらへんで合っているだろう。僕でもそう思う。

「あと、これは俺一個人としての仮説なんだけど・・・今回の犯人は高嶺高校の教師だと思う」

 神妙な顔つきで告げられた真夜くんの言葉に、灯ちゃん以外の全員が首を捻る。

 確かに選択肢の中には「教師」という可能性もあるだろう。が、被害者の統一性が分かっていない今は、そう簡単には言い切れないはずだ。

「実は、第二被害者の渡辺香織は定期テストでカンニングをしていたらしいんだ」

「え」

 と、不意を疲れて声が漏れる。

 そんな話全然聞いてない・・・人より情報が遅れていたことに少しムカつく。

 にしても登校初日だというのに・・・案外侮れないな。矢吹真夜。

 彼もまだ僕を警戒しているらしいし、自分が相手に思うことと、相手が自分に思うことは一緒というのは本当だと実感した。