複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.160 )
日時: 2013/05/04 20:20
名前: Cheshire (ID: eVCTiC43)

「一応補足として言っておくけど、何か彼女の母親がネグレクトらしくって・・・食事代とかの生活費を全部自分で稼がなくちゃいけなくて、そのせいで勉強時間削られてカンニングに手を出したらしい」

 どこでそんな詳しい情報を手に入れたんだか・・・。

 僕は一度真夜くんを訝しげに見たあと、頬杖をついた。

「第一被害者の黒宮綾は元々教師に反感を買ってた。第二被害者の渡辺香織はカンニングをしていたのなら教師に目をつけられてもおかしくない、如月美羽だって成績は学年最低レベルだったんだろ。この3人に共通してることとしたら、教師によく思われてないことだ。それに、教師だったら門の鍵を取り出すことだってできるだろうし」

 渡辺香織がカンニングをしていたという情報はかなり強い。それだけで、犯人が特定できるほどだ。

 もし真夜くんの言うことが全て正しいのだとしたら、犯人は教師だろう。

「じゃあ、犯人は高嶺高校の教師に絞ろう」

 とりあえず僕がそう声をかける。

 まさか学校内の教師が今回の犯人だとは思っていなかった・・・というかなんか複雑だ。自分の親戚が経営している学校の教師が生徒を監禁しているなんて。

 まず、この場を整理しよう。

 言っておいたほうがいいことは、最初に言っておいたほうがいいかな。

「狛くんは極度の暗所恐怖症だ。犯人がまだ人間味があってそのことに気付いてくれたら何かしらの対処をしてくれるかもしれないけど、それでも危険な状況に変わりはない。最低でも3日で終結しよう。それ以上は狛くんの体が心配だ」

 狛くんの暗所恐怖症の症状は15分が限度だ。それでも、起きて、15分経って、気絶してを繰り返せば3日はやりくりできる。狛くん自身の体力と精神はかなり消耗すると思うけど、今までの経験上、狛くんは1回気絶してしまうと結構長い間寝てるし、酷い言い方になるけど大丈夫だと思う。でも、3日以降のその繰り返しは、さすがに体に影響を及ぼす。

 初めてこの事件でタイムリミットがついた瞬間だった。

「犯人は高嶺高校の教師で、手がかりは女子高校生に執着していること。あとは、理人くんが拾ってきてくれたパンだ。・・・まぁ、それはよく分かんないけど・・・」

 こう思うと、これだけで3日で解決するのは無理難題だ・・・。でも、やってもらうしかない。

 まぁ、できなそうになったら、それこそ助け舟を出せばいいだけだし、何とかなる。

「学校では分からない程度に調査してくれて構わないから」

 教師、という点ではありがたかった。この子たちが学校でも調査をできるというのは、いい時間稼ぎだ。

「あとは君たちに任せるよ。とりあえずここにいるけど、話し合いは君たちに任せよう」

 僕ができるのはここまでだ。あとはこの子たちがどうするか。

 空悟くんと理人くん、そして真夜くんを筆頭にだんだん話し合いが生まれていく。

 治安維持機関アウトロウ・・・なんて言ってるけど、そもそも僕がアウトロウを結成した目的は「治安維持」なんかじゃない。

 この子たちには言ってないし、というかアウトロウに関わってるほとんどの人にも言ってないけど・・・知ってるとしたら、和泉くらいか・・・。

 まだたまに、不安になるときがある。アウトロウなんて作ってよかったのか。僕はちゃんと正しいのか。それとも・・・

 と、不意に階段のほうから足音がした。
 あー・・・・・・やばいな。

 みんなも足音の存在に気付いたみたいで、一斉にそっちを向いていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・こまにぃは・・・?」


 那羅ちゃんだ。

 全員の顔が青ざめたのが分かった。

「那羅・・・ちゃん」

 理人くんがそう声をかける。

 階段を降りきった那羅ちゃんが、真っ直ぐ机へと向かってくる。

 みんな、硬直して動くことができなかった。

「お、おはよう、那羅ちゃん。どうしたの、こんな時間に。喉でも渇いちゃった?」

 理人くんだけが、最初に正気を取り戻し那羅ちゃんの対応を図る。

 あくまで平静を演じるようだが・・・果たして、那羅ちゃんに通用するのか。

「こまにぃは・・・?」

「狛くんは・・・・・・・・、えーっと、その」

 さすがの理人くんでも言葉に詰まってしまう。

 那羅ちゃんなら、多少の誤魔化しは利くだろう。でも、それはただの時間稼ぎにしかならない。

 でも、だからと言って狛くんが拉致られたなんて知ったら、それこそどうなるか分からない。

 そんなリスクを分かった上で、実行できる人は・・・。

「社井はいなくなった」

 その中で、何の躊躇いも動揺もせずに真実を告げた人物がいた。

 矢吹真夜。つい数日前にアウトロウになったばかりの新入生。

「・・・いない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 那羅ちゃんの手がピクリと動いて、体がピタリと止まる。

 全員の表情が強張っている。その中で、真夜くんがただ1人、真っ直ぐと那羅ちゃんを見つめている。

 いや、むしろ真夜くんは、狛くんがいないときの那羅ちゃんを知らないから、こんなことができるのかもしれない。

 彼がいないときの那羅ちゃんは凄まじい。その凄さは、周りにいた僕らが嫌なほど体感し、覚えている。

 何というか・・・滅茶苦茶というか・・・強引というか・・・。

「そう。生徒行方不明事件の被害者になっちまったんだ。これから俺らは狛も含めて他の奴らも助け出す。璃月にも手伝って欲しい」

 真夜くんの言葉は正しい。

 けど・・・。

「・・・・・・・・・・うそ」

「あぁ。俺も嘘だと思いたい。・・・でも、現にこうして社井はいない」

「こまにぃは・・・・?こまにぃはどこ・・・・・・・?」

 ぶつぶつとまるで何かにとり憑かれたかのように、同じ言葉を繰り返す。

 さすがの真夜くんも疑問を抱いたようで、えっ、と驚いている。

 まずいなー・・・いや、真夜くんは何も悪くないんだけど。

「どうして・・・いないの・・・・?こまにぃ・・・・ならの・・・そばにいて・・・・そばにいてよぉ・・・・・・・」

 だんだん那羅ちゃんの息が荒くなってきて、苦しそうに胸元を掴みながら前かがみになる。

 荒れ放題の髪が垂れて、那羅ちゃんの表情を覆い隠す。

 小さな体がガクガクと震えてきて・・・支えてあげたいので体が動かない。

「え・・・何、俺まずいこと言った・・・?」

 うん、まぁ、そうだよ。那羅ちゃんに狛くんがいないは禁句なんだよ、今知ったかい?まぁ、それが当然だよ。

 誰も真夜くんを責めたりなんかしないと思うし、そんなに焦らないでよ笑っちゃうから。

 んー・・・彼女のことは彼女自身しか知らないから、あくまで予想しかできないけど・・・。

 僕が思うに、那羅ちゃんにとって狛くんはライフラインと同じ役割を持っているのではないかと思っている。