複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.171 )
- 日時: 2013/05/25 11:49
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
中庭の花壇の花に水・・・?何でそんなことやっているんだ?
そう思って訝しげに天内を見ていると、俺の疑問に気付いたらしく慌てた様子で天内がジョウロを両手で持ち俺に説明してくれた。
「あ、えっと、私、園芸部なんです」
「園芸部?」
「はい。中庭とかビオトロープとかにある植物を育てているんです」
アウトロウの奴らは全員部活等には入っていないから、高嶺高校で部活というものに俺はあまり親近感がない。が、別に高嶺高校に部活がないわけではない。
どちらかというと、高嶺高校の部活量は豊富らしい。俺はあまり知らないが、小数人数で多くの部活が存在していると聞いた。
天内の言うとおり、園芸部というものがあるのだろう。美化委員みたいな内容だが、天内らしいといえば天内らしい。
「まぁ、活動しているのは私だけなんですけどね。私がどうしても花を育てたくて、友達にお願いして無理矢理名前だけ借りてるんです」
え、それ、ずるくね?と言いたかったが、高嶺高校の部活にはそんなの日常茶判事っぽいし。
それに、この花たちを全部天内が育てているのだとしたら、それはかなり凄いことだ。
「花好きなんだ」
「はいっ!!とっても大好きですっ!」
俺の言葉に天内は興奮したように目をきらきらさせながら手を握り締めて身を乗り出してきた。
「花って可愛いじゃないですか。育てれば育てるほど、綺麗に咲いて私に応えてくれるんです。とっても素直で正直なんです!」
天内も大分素直で正直だよ、とつい言ってしまいそうになるほど、天内は純粋に見えた。
草花に囲まれた天内と、それを照らすいつもはうざったいだけの太陽の光がきらきら光ってそこだけ天国みたいに異次元に見えた。
梨緒とはまるで真逆の雰囲気だな・・・と思いつつ、俺はそうか、と言っておく。
「あ、そうだ」
と、天内は何かを閃いたかのようにぱっと表情を明るくさせると、体の向きを変えて花壇へと向かった。
突然どうしたんだろうと思って様子を伺っていると、花壇から綺麗に咲いている色とりどりの花を5,6本摘んでいた。せっかく咲いているのに摘んでしまっていいのだろうか。少し心配になったものの、この花を育てているのは天内自身なわけだし本人ならいいかと思い直した。
さすが女の子、というか園芸部、というか、生け花のように綺麗に角度や長さを調整し、小さな花束のようなものを作り出す。色とりどりの花が、より一層可憐に見えた。
どうするのだろう?と思っていると、天内がとことこと俺のほうへ近寄ってきて今作ったばかりの花束を差し出してきた。周りの天内への心配と疑惑の視線が痛い。
「これ、せっかくなので差し上げます」
笑って見せた天内を、拒否できるわけもなく俺はつい受け取ってしまった。あまり花とかと関わったことはないけど、綺麗だとは思うのであまり悪い気はしない。
少し恥ずかしい気もしたが、そこは天内に失礼だろう。せっかくなのだ、もらっておこう。
「ありがとな」
えへへ、と笑う天内が本当に純粋に見えて、何だか遠くにいる気がした。
「あ、そういえば」
と再び天内は何かを思い出したかのように表情を変える。次々に表情が変わって見てて飽きない子だな、と思った。
天内が制服のポケットから取り出したのは1枚のカードだ。
・・・あぁ。
「昨日、明日の昼休みって普通に行ったんですけど、私明日は当番じゃなくて。なので、いつどこで会うのか分からないので、持ち歩いていたんです」
うん、ごめん。すっかりその約束忘れてた。
なんて言えるはずもなく、俺はとりあえずそのカードを受け取っておく。あとで財布にでも入れておこう。どうせ使わないだろうけど、だからといって捨ててしまうのは天内に悪い。
と、そのときに後ろから服を引っ張られた。後ろにいる奴なんか見なくても分かるのでとりあえず、小声でどうした?と聞く。そういえばさっきから全然話してなかったな、と思いつつまたふてくされてないように祈る。
「あれ」
梨緒は俺の予想に反して、突然花壇のほうを人差し指で差した。天内もそのことに気付いたようで、梨緒の手が指し示す先を見る。
そこにいたのは1人の先生だった。ワイシャツにズボンという至って普通の格好の中年のおっさんだ。
誰だかはあまり関係はない。気になるのは、そいつがしている行為だ。
立ち止まっているものの、足元がベンチのところにいる生徒たちから死角の位置にあるのであまり見えない。が、しきりに足を前後上下に動かしているようだ。まるで何かを蹴っているかのように。
俯いていて顔は見えないし、そもそも学校の教師を把握していない俺はあいつが誰だかは分からない。そして何で梨緒があいつを気にしたのかも分からない。
が、それを見てすぐに動いたのは天内だった。呆然と立ち尽くす俺の目の前で、先ほど「とことこ」と表現した歩き方とはまるで正反対の「すたすた」というどこか冷たさを感じる歩き方で、真っ直ぐそいつの元へと向かっていく。
「あいつがどうかしたのか?」
未だに俺の服を掴む梨緒のほうへ振り向きながらそう尋ねると、梨緒はまだ半分しか食べ終わっていないパンを一口かじってから口を開く。
「あそこにあるのは、ここの花壇と同じ花が植えられているプランター」
「何してんだよ、そこから離れろっ!!!」
梨緒の返答と、天内の罵声が重なる。
驚いて天内のほうに視線を向けたのは俺だけではなかった。周辺にいた人たちがみんな驚いたように天内のほうを見つめている。
さっき花束をくれた優しい女の子とはまるで思えないように、天内は豹変していた。何というか、アウトロウのメンバーのスイッチが入ったときのようだ。
ここからでは見えないが、梨緒が言うにあの教師の足元にはプランターが置いてあるという。ギリギリあそこも中庭の守備範囲だ。もしかしたら園芸部もとい天内のものだったのかもしれない。だとしたら、あの教師は花を蹴散らしていたということだ。教師という職業柄、ストレスが溜まるのだろう。
確かにあそこは生徒から見えづらいだろう。反対側から見れば丸見えかもしれないが、生憎反対側には通路がない。あの場が見えるとしたら精々校舎の窓から中庭を見渡したときくらいだろう。天内がそこまで気を遣ったのか、それともただ単に自身の趣味なのかは分かりかねる。
自分が育てていた花を蹴散らしていたのだとしたら、人一倍花が好きな天内が許すはずがない。あんな風に怒るのも納得がいく。・・・まぁ、怖いけど。
いきなり怒鳴られた教師というのもかなり驚いているようだった。そりゃそうだろう。見つからないと思ってやっていたのにバレてしまったのだから。しかもあの様子だと、怒鳴ってきた生徒がここの花を育てている天内小夜だということも知っているようだ。妙に青ざめていて、変な汗を掻いている。
「せっかく綺麗に咲いてくれたのに、ふざけないでよ。何があったんだか知らないけどさ、それを花にぶつけていい理由にはなんないよね!?自分勝手も大概にして!」
うん、天内の言う通りだ。生徒が教師を怒るという変な状況にはなっているものの、それに対して怒れる教師はいないだろう。正当防衛だ。
怒られる側の教師は口をぱくぱくさせるだけで、何1つ喋らない。さすがに自分の状況の悪さは分かっているようで安心した。