複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【コメントその他もろもろ大歓迎っ!w】 ( No.172 )
- 日時: 2013/05/26 14:42
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
「というか、あなた美術の先生でしょう?綺麗なものを追求する立場のあなたが、綺麗なものを破壊してどうするの?美術のセンス、本当にあるのかしら」
へぇ・・・担当は美術か。だったら俺はまだ授業を受けたことないんだから、知らなくて当然か。
離れたところにいる俺たちには全く聞こえなかったが、美術教師は天内にぼそぼそと何か言っているようだ。察するに多分まぁ、謝罪でもしているんだろう。もしくは言い訳か。
「・・・ふざけんなっ!つい、で花を傷つけていい理由にはならないっ」
時々天内のヒステリックな罵声も聞こえてくる。
このままだと埒が明かない。そう思い、俺は溜息をつきながら天内と美術教師のところへと足を運ぶ。
俺が知らないんだから、美術教師も当然俺を受け持ったことがないので(もしかしたら知ってるかもしれないけど)知らないだろう。突然現れた俺の姿に、教師は酷く驚いているようだった。
「天内、その辺にしといたら?こいつだってもうやんねぇだろ」
梨緒より背が低い天内の肩に手を置きながら、俺は宥めるように天内の顔を覗き込む。
予想通り、というか何というかだが、天内はふくれっ面をしていて、頬を膨らませた姿がリスのようで可愛らしかった。
「でもこの人。イラついてたから花にあたるなんて。私、許せない」
「まぁ、そうだろうけどさ。いろいろあんだろ、教師にだって。あんまり責めんなって」
むー、と唸る天内。とりあえず教師はもう何回も謝っているようなので、ひとまず安心した。
そのうち、天内に許された教師はそそくさとこの場から逃げていった。
無駄に注目を集めてしまったが、天内は全くそのことに気付いていなかったらしい。天内が振り返ると、周りの視線がすかさず四方八方へと向いて、さすがの天内も我に返ったようだ。
途端に天内の顔が赤くなり俯いてしまう。元々彼女はあまり目立つタイプではないのだろう。
「あ、あの、ごめんなさい。つい、私・・・」
確かに目立ったかもしれないけど、別に天内は悪いことはしていないはずだ。謝る必要はないだろう。
「いや別に?大丈夫」
俺はそう言ったものの、天内はやっぱり気が晴れないようだ。
やっとのことパンを食べ終わった梨緒は、ふぅ・・・と溜息をついている。何故疲労回復のための食料摂取で疲労しているのか、俺には理解できない。
「え、えっと、私もお昼食べないといけないので教室に戻りますね」
気まずくなった空気に耐え切れなくなったのか、天内が頭をぺこぺこと下げながら中庭から立ち去っていく。変に気にしてなければいいのだが、少し心配だ。
ベンチまで戻り、俺らも帰るかと梨緒に声を掛けると、梨緒は無言で立ち上がった。パンの包装紙を手渡されながら、自分のものと一緒にゴミ箱に投げ入れる。
「またあいつだよ」
「本当気持ち悪いよね」
「何がしたいんだかよく分かんないし」
「あの1年生可哀相・・・」
隣のベンチに座っていた女子生徒たちの会話が聞こえてきた。俺と梨緒はそのまま通り過ぎたが、彼女たちの会話はまだ続きそうだ。
梨緒と一緒に教室を目指す。そして俺は彼女たちの会話について考えていた。
状況から察するに「あいつ」というのはあの美術教師のことだろう。そうすると、「あの1年生」は天内か。
会話の雰囲気から、あの美術教師がこういったことを起こすのは今回が初めてではないらしい。いわゆる中年のおっさんって感じだったし、女子生徒の反感を買うのもおかしくはない。
まぁ、何というか・・・教師という仕事も大変なんだろうな、と思う。彼女たちのような噂も、彼のストレスの原因の1つだろうに。
肝心な名前を聞くのを忘れたが、あの先生は生徒行方不明事件には関係ないだろう。何せストレスで花壇を踏み荒らす様だ。心が弱いにも程がある。そのうち鬱病にでもかかりそうだけど、それで生徒に心配されるような先生でもないんだろう。それこそ可哀相に。
教師に感情移入できるほどできた人間ではない俺がどうこう言うつもりはないが、何となく私立高校に親近感が沸いた。公立だろうが私立だろうが、こういう嫌われるムカつく先生はいるんだと分かって、少しだけこの学校に馴染めるような気がする。あの先生には悪いけど。
「真夜」
「なに」
通りすがった奴にも聞こえないだろうというほど小さく短い会話をしていると、梨緒が俺の服の裾を引っ張ってくる。
仕方なく立ち止まり振り替えると、梨緒がフードの中から俺を見上げていた。
「何か、飲みたい」
・・・。
16歳だよな?同い年だよな?なんでこんな10歳くらい下の妹みたいなことになってんの?
確かに買ったのはパンだけで飲み物は買わなかったから、喉が渇く気持ちも分かるけど・・・。ならパン買うときに言えよ。もう昼休み終わるし、教室までついちまったし今更食堂まで戻るのなんて嫌だぞ、俺。
・・・というわけで。
「我慢し「やだ」
自分の思考回路の結果を口にしたら、言い終わる前に遮られた。どれだけ嫌なんだ。猫か。自由すぎるだろ。
「だーめ」
そういえば、梨緒の我儘を断ったのは今回が初めてな気がする。うわ、俺どんだけこいつを甘やかしてたんだろう。ちょっと自分で引いた。
逆を言えば、梨緒は初めて俺に自分の我儘を拒まれたわけで。明らかに不満げな表情を浮かべていた。
駄目だ。これに負けちゃいけない。
俺はそう決意して、体の向きを変えることなくそのまま歩き続けた。梨緒もふてくされながら(自分の迷子素質を自覚がないようだから)俺から離れるなという俺との約束を律儀に守っているのか、俺の後をついてくる。
ちょっとした罪悪感を抱きながら、厳しくするのも教育だと心に言い聞かせ、俺はようやく着いた教室へと入る。
「おかえり。随分遅かったじゃない」
席に向かえば必然的に姫路双子に近づくことになる。もう既に昼食を食べ終えた2人は何をするでもなくただ談笑していたようだ。金持ちの双子が何を話すのかは知らねぇけど。
「こいつ食べんの遅ぇんだよ」
「私は普通よ」
パン1個なんて最低でも10分で食べ終わるだろ、馬鹿か。
言っても仕方ないのでもうあえて突っ込まないけど、溜息をつくくらいは勘弁してほしい。
「ところで、あなた篠原さんに何かしたの?」
相変わらず不適な笑みを浮かべながら、姫路が俺に話しかけてくる。
何のことだか分からず、俺は首を傾げるほかできない。
すると、梨緒が姫路の腕を掴み必死に訴えた。
「何か飲みたい」
突然のことに対応しきれなかった姫路は少しの間固まったままだったが、内容を理解したらしくすぐに口を開く。
「保護者さんに頼めばいいじゃない」
・・・保護者?
誰だ、それ。学校に親がいるわけないだろうに。
あ、そういえばアウトロウの奴らって、家族とか親とか、どうしてるんだろう・・・俺はともかく。
「真夜、買ってくれなかった」
「は!?」
え、保護者って俺!?何それ、心外なんだけど!
姫路のからかいに便乗する梨緒を見て、意外とこいつってノリいいのか?と疑問を抱いた。
そして、まだ飲み物を欲しがっていたのか、と少し納得する。
「あら、女の子のお願いを叶えてあげないなんて、駄目じゃない」
「お前に怒られる筋合いはねぇよ。んなこと言うならテメェがあげろ」
「じゃあ篠原、俺の飲む?」
コメントください! 長ったらしくてごめんなさい!