複雑・ファジー小説
- OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.219 )
- 日時: 2013/07/15 19:03
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
犯人の子供なんて、都合よすぎるだろ。というかまず、何でその昨日の女(多分宿題女)がこんな重要なことを知っているんだ。アウトロウより情報通だ。いや、ここまでくるとただの情報通と呼んでいいのか分からない。
本当にこいつが?ナンパから助けてくれたようなやつが?
「んー・・・何かそこらへんおかしかったんだよな」
「おかしい?」
「おう。俺にとっては父親じゃないけど、そいつにとっては俺が子供なんだと。な?意味分かんねぇだろ?」
確かにおかしい。矛盾している。
でも、さっきこいつは捨てられたと言っていた。もしかしたらそれを踏まえての言葉なのかもしれない。
だったら、こいつが犯人の子供で間違いない。
「そいつの名前、何だか分かるか?」
「さぁ、聞いてねぇな。自分の親とか興味ねぇし」
・・・そりゃ自分を捨てた親なんか会いたくねぇか。
くそ、こんなに近くまで来たのに。
「何でもいいから、父親のことで覚えてることないか」
かなり酷い質問かもしれない。けど、いてもたってもいられなかった。
こいつの一言で、事件が解決に向かうかもしれないんだ。焦らないわけがない。
露骨に顔をしかめて、再びスケッチブックへと視線を落とす。
「・・・俺が覚えているのは最後の言葉だけだ」
「最後の?」
「『お前は俺の本当の子供じゃない』」
つい、息を呑んだ。
言葉が出てこなかった。
これ以上、こいつから父親のことを聞きだして良いのか、不安になってしまった。
そんな俺を悟ったのか、今度は向こうが言葉を続けてくれた。
「俺としてもよく分かんねぇんだよ。そんな風に俺を突き放したのに、何で俺が協力すればそいつを止められるのか」
「・・・昨日の女はそう言ったのか?」
「あぁ、あなたが協力してくれれば、すぐに収まるってな」
確かにいろいろおかしい。
俺の子供じゃない、と子供を否定した親が、今更子供の登場で何か変えられるのか。
最早子供を子供と思っていないのだから、何も変わらないはずではないのか。
・・・でも、待て。
『お前は俺の本当の子供じゃない』。
その言葉が正しいのだとしたら。
言い換えれば、
こいつには本当の親が別にいる、ということだ。
産みの親と育ての親が、違うということだ。
そうだとすると昨日言われた「俺にとっては父親じゃないけど、そいつにとっては俺が子供」というのも理解できる。
こいつに子供じゃないといったのは育ての親だ。そしてきっと、こいつは産みの親と育ての親が違うことを知らないのだろう。そうすると、こいつにとっての親は育ての親しかいない。
つまり、女が言っている「あなたの親」とは育ての親ではなく産みの親ということになる。
・・・そして女は、「あなたが協力すればすぐに収まる」と言った。
ということは、こいつの産みの親、言い換えれば事件の犯人の、今回の事件の動機にこいつが関係しているはずだ。
例えば、こいつが産みと育ての親が違うという状況を生んでしまった理由とか。
詳しいことはよく分からないけど、その理由に産みの親が納得していないのだとしたら。
落ち着け、犯人の特徴を思い出せ。
そうだ、犯人は女子しか狙っていない。
いや、でもこいつは男・・・・・待て。
こいつはそんなこと一言も言っていない。
「・・・・・・・・・・お前って、男?」
「何だよ、藪から棒に」
「いいから」
明らかに嫌そうな顔をしたあとに
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女で悪いか」
と短く告げる。
・・・人は見た目で決め付けちゃいけないって、社井に教わったはずなのに。いや、罪悪感は後だ。
こいつが、・・・女だとしたら。
娘を奪われた産みの親が、成長した娘を想い、狂った後に娘の代わりになる同い年くらいの女子をさらっているという可能性もある。
もしそうなら、犯人とこいつを合わせれば事件は解決する。こいつの協力で事件が解決できる。女が言ったことと一致する。
俺のこの推測は、一応の筋が通っている。
早くこのことをみんなに・・・
「できた」
ふいに、彼が場違いな言葉を言った。
少し戸惑ったあと、すぐに絵が完成したのだと分かった。
視線を向けると彼が手招きしていたので、俺は立ち上がって、彼が座るベンチまで歩いていく。
アウトロウに帰りたい衝動に駆られもしたが、自分を書いてくれた絵が気にならないはずもなくつい見に行ってしまう。
「色つけられなかったのが残念だけど・・・」
特に隠そうという素振りを見せなかったので、俺は彼が持つスケッチブックを覗き込んだ。
・・・ビックリした。
今まで考えていたこと全てが停止した。
確かにそれは俺だった。噴水の前に無造作に座る矢吹真夜の姿だった。
本物そっくりな、まるで写真のような、それでもどこか写真にない温かみのある不思議な絵だった。
さすがスケッチブックを持ち歩くことだけある。
凄く、上手かった。
そこらの漫画家とかより、上手だった。もしかしたら学校の美術教師より上手いかもしれない。
「凄ぇ・・・」
思った言葉を口にした。だけど、その言葉に彼は驚いたようだった。
「本当か?」
「マジで。俺こんなに絵が上手いやつに会ったの初めてだ」
彼が黙ったので視線を向けると、帽子を深く被っていて見えなかった顔がようやく見えた。
顔は真っ赤だった。でもそれより、綺麗な顔立ちが印象的だった。
・・・あれ、誰かに似てる気がする。
そんなことを思うが、すぐに勘違いだと思い直す。
自分の絵が書かれるというのは、今となれば少し気恥ずかしいことだったことに気付く。いわばモデルをやったのだから、何で自分があんなにすぐに承諾してしまったのか今となればよく分からない。
だけど、何故かそんなに嫌な気がしない。
むしろ・・・
「なぁ、また書いてくれよ」
「え?」
「何か俺、お前の絵好き」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
そこでようやく無表情だった彼が笑った。何だ、笑ってるほうがいいじゃん。
「お前、名前は?」
そんなことを聞かれて、自己紹介もまだだったことに気付く。
「矢吹真夜だ。そっちは?」
「皐。苗字は忘れた」
悲しいことをさらりと言いのけてしまう彼、ではなく彼女・・・皐に、少し違和感を覚えたが、ことがことなので仕方がない。
「そろそろ帰ったほうがいい。日が暮れる」
皐に言われて時計を見れば、時間は結構経ってしまっていた。確かに帰る時間だ。
いや、でもその前に。
「なぁ、連絡先交換しとこうぜ」
俺が誘うと、皐は急いでバッグの中に手を突っ込み、現代にしては少し古い形の携帯を取り出す。
あまり人と連絡先を交換したことがないらしく、俺としてもそんなことは初めてだったので、少し戸惑ってしまった。
どうにか交換が終わると、何故か皐は携帯の画面を見つめ何か考えていた。
「じゃあ、暇なときにでも連絡してくれ。時間作るから」
何を考えているのか気になったけど、あえて聞かずにそう声をかけた。
俺に声をかけられ自我に戻った皐はうろたえながらも返事をする。
「あぁ。俺は大抵ここにいるから、近くに来たときは寄ってくれ」
了解、と承諾しながら、俺は公園の出入り口へと足を向ける。
さて、アウトロウの奴らに何て言おうか。
本編更新!w