複雑・ファジー小説

OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.237 )
日時: 2013/08/21 21:38
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 どこかの3年生と変わらないなぁ・・・と思いつつ、別に怒りは沸いてこない。書き直しが面倒だな、程度。

 そのまま何回か引き裂き、最早修復不可能になった紙切れたちを灯ちゃんが無造作にゴミ箱に放り込む。

 さも当然の如く。普通の出来事のように。

 最初の頃は、えっ、と何度も思ったし、今でもたまに思うけど、だからといって怒る気にもならないし、嫌いになんてなれるわけがなく。

 むしろ、こうやって僕を何度も試してくることが、あの約束を守って欲しいという意思表示のように見えて、


 ・・・嬉しい。


 そのとき灯ちゃんの携帯が鳴って、鬱陶しそうに舌打ちしながら灯ちゃんが電話に出た。

「・・・なに?」

『もしもし、灯ちゃん?今どこ、学校にいる?学校にいるなら、昇降口に来て。今から犯人の家行くっぽいから』

 焦っているのか理人さんの声は大きく、僕にも聞こえてきた。

 矢吹さん、意外と仕事早いんだなぁ・・・と思い、少し驚いた。

「残ってる人たちはどうするの?」

『真さんが連れてきてくれるから大丈夫。心配しないで』

「馬鹿言わないでくれるかしら。余計な邪魔が増えるだけよ」

 くすくす笑う理人さんが目に見える。僕も笑いそうになってしまったが、灯ちゃんに睨まれればそんな衝動もすぐに収まる。

 そのあと、理人さんと一言二言交わした灯ちゃんは、気だるそうに電話を切り携帯電話をポケットに閉まった。

「行くの?」

「行くしかないでしょう。言わなくても分かることを言わせないで」

 荷物を持ち直した灯ちゃんが美術室を出て行こうとドアへ向かった。

「終わる頃、迎えに来なさい」

「え?」

「あの人たちと一緒に帰るなんてありえないもの」

 何時にどこ、という必要事項を言わないまま、灯ちゃんが美術室を出て行った。

 え・・・っと・・・僕はどこに行けばいいんだろう・・・。

 でもきっと、今更聞いても灯ちゃんはきっと答えてくれない。もしそれで教えてくれるくらいなら、今きっと言ってる。

 まぁ・・・おおよその場所は分かるから、時間だけかな・・・。

 ふと思い出した僕は荷物を置き去りにしたまま美術室のドアから顔を出し、随分遠くを歩いている灯ちゃんに向かって声をかけた。

「いってらっしゃい!」

 一瞬灯ちゃんが反応したけど、いってきます、とは返ってこない。


 でもそれだけで充分だった。


***

 昇降口に序所に集まり始めるアウトロウメンバー。

 最初は俺で、次が理人、その次が杵島、最後が空悟。

 あと、真が今梨緒と璃月を連れて来てくれるらしい。あと榊は警察のほうで手を回してくれているようだ。

 今から向かうのは熊谷信之の家だ。住所なんてものは昨日のうちに割り出してある。

 黒宮綾、渡辺香織、如月美羽、天内小夜、そして社井狛の拉致容疑。証拠としては如月美羽を拉致する際に落としたと思われるパンと、天内小夜を拉致する際の目撃証言が、どちらも蓮井凪から実証されたからだ。

 目的は言わなくても分かるだろうが、被害者たちの救出。また容疑者の確保。

 とまぁ、難しく言えばこんな感じだが、平たく言えばやりたいと思っていることをやればいいだけの話だ。

 昨日の天内に怒られていることからして、熊谷信之自身は多分それほど気が強くない。

 ・・・ただきっと、狂っているだけだ。

 今は真たちの到着を待っているところ。杵島と空悟が何やらまた揉めているらしく、理人が2人の間に割って入るのが見える。

 何故遠い言い方をしているかというと、実際遠くにいるからだ。

 俺はある人に電話をかけようとしていた。タイミングを外してしまったので、こういった待ち時間にかけるしかない。

 携帯の増えた電話帳の中から、そいつに電話をかける。

 コールが始まったので、耳にあてながら、遠くにいる空悟たちに自然と視線が動いた。

 こうしてみると、やっぱり美男美女揃いだなぁ・・・と思いつつ、俺と同じ着崩しのはずなのに何で理人はあんなきらきらしてるんだろうと心底不思議に思う。

 あれか。髪の色も関係あるのか。金色に染めてればそりゃきらきらするのか。まぁ、きらきらしたいわけじゃないし、金髪になんて絶対にしないけど。それに生粋の金色と染めた金では実際かなり違うから、あまり意味はないだろうし。・・・外人の特権だな。

 そんな理人と一緒にいるのに全く違和感がない空悟と杵島も、相当端整なんだろうな。うわ、凄くあそこに行きたくなくなってきた。

 空悟が袖を捲くるのが見えたので、そういえば暑いなぁと思い、俺も袖に手をかけると、やけどの痕に指が触れてしまいびくりと身体が震えた。


 ・・・駄目だ、捲くっちゃいけない。これをあいつらに見られるわけにはいかない。


 あ、でも夏とかどうしよう。

 と、そこで耳元で鳴っていたコールがやっとぶつりと切れた。ようやく繋がったらしい。

『もしもし。悪い、遅れた』

 相変わらずの低くて高い声。

「あぁ、大丈夫。忙しいときにごめんな」

 相手は誰であろう皐だった。

 もし今から熊谷信之の家に乗り込むのなら、あの宿題女の言うとおり皐を連れていったほうがいい。

 多分、熊谷信之の犯行理由・・・動機に、皐は関係しているはずだ。皐の話し、宿題女の言葉、そして蓮井が見せてくれたあの絵。

 俺の予測が正しいのなら、この事件は———・・・。

『平気。んで何?どうかした?』

「ん・・っと・・・あの、さ。誘っていいことなのかは分かんないんだけど、ちょっとこっち来てくんない?」

『は?どういうこと?』

 何て言ったらいいのか分からなかった。

 仮にもこれから人を5人も拉致してるやつに会いに行くのに、そこに女の子を連れて行くというのは・・・。アウトロウのメンバーならまだしも、高嶺高校の生徒でもない一般人を・・・。そう思うと、言葉が出てこなかった。

 けどきっと、皐が来ないと俺らは熊谷を止められない。

「事件の犯人が分かったんだ。それで・・・今からそいつのとこに行くんだけど・・・」

『・・・』

 宿題女曰く、熊谷は皐の父親にあたる。俺の予想では正確には皐の産みの親だ。

 自分の父親がこんな事件を起こしてること自体好ましく思っていないだろう。そんな奴に16歳の女が会いたいと思うのだろうか。

 今俺はもしかしたら、凄く酷な事を言っているのではないだろうか。

 自分を捨てた父親に会え、・・・なんて。

 皐は何も言わず、そのためか俺も何も言えない。

 皐のことを考えたら連れて行かないほうがいいんだろう。でも、事件解決を優先させると皐は連れて行くべきだ。

 ・・・でも、断れるかもな。

 そんな予感が俺の頭の中を過ぎったとき、耳元で皐の声が響く。


『いいけど』


 あぁ、やっぱり断られ・・・あれ?

 ・・・今、いいって言った?

「・・・・・・、マジで!?」

 つい驚いて、大きい声を出してしまう。

 うっさいな、耳元で大声出すな、と皐の小さな呟きが聞こえた。

『嘘つく必要ないだろ。別にいいって言ってんの』

 人が考えていることは本当によく分からない。何で皐が了承してくれたのか、俺には理解できなかった。

 だって俺が皐の立場だったら絶対に行かない。人の価値観というのは本当に分からないものだ。

 断られると思っていたので、つい次の言葉が出ない。