複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.257 )
日時: 2013/09/23 18:01
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

ご期待に添えられない形になりましたら、真に申し訳ございませんです。


できるだけ、努力するつもりですが、結果が出なかったら・・・あれです、皆様に1発ずつ殴ってもらいます。

ではでは、少しだけ・・・








 今は手を握ってもらっているおかげか、まだ何とか保っていれそう。それでも10分ほどが限界かな。

 それまでに何か行動を起こせればいいんだけど。

「・・・、起きた?」

 無機質な声が聞こえた。あの僕の小さな声を聞いてくれたのはありがたい。でも、何の感情もない冷たい声に少しびっくりした。

「大丈夫?・・・随分、苦しそうだったから、つい。ごめんね」

 彼女の声も小さくあまり声を出さないほうがいいことを悟った。

「や・・・助、かる。・・・あり、がとう」

 途切れつつもお礼を言うと、彼女の手が強張ったのを感じた。

「・・・暗いところが駄目なの?」

「少し・・・ね。君は、平気?」

「うん、もう慣れたから」

 その言葉が妙に現実じみていて。

「君は、いつ、から、ここに?」

 そう聞きつつ、僕自身今日が何日だか分かっていない。闇は時間感覚さえも奪ってしまう。

「私も分からない。でも、それなりの時間は経ってると思う」

 普通に考えても僕の前につれてこられたはずの如月さんでも、既にここで6日間過ごしていることになる。

 僕には考えられない。

 この子が被害者の中で誰だかはあまりよく分からない。

 それでも本当に、この子はこの状況に怖がっていないようだった。

 真っ暗の中で、何日も。そうなると本気で本当に慣れてしまうのだろうか。

 ・・・そんなことが、あっていいのだろうか。

 違和感を覚えた。

「もうすぐ、助けが来る、から・・・あと少しだよ」

 半分自分にも言い聞かせながら、僕は彼女にそう語りかけた。

 僕がいないことに、優しいみんなが気付かないはずがない。きっと、捜してくれるはず。

 そう信じないと、恐怖に潰されてしまいそうだったから。

 だけど、彼女の手は安心するどころか不安を感じさせるように、ピクリを強張った。

「助けが・・・来る?」

 さっきとは明らかに違う・・・何か暗い感情が込められたその声で、僕の言葉を復唱する。

「そんなの・・・来なくていいの」

「・・・え?」

 彼女のまさかの言葉に、僕は耳を疑った。

 助けが来なくていいというのはどういう意味だろう。

 自分の意思で、こんなところに来たのだろうか。

 それとも・・・。

「だって、ここにいれば」

 言葉はそこで切れた。その先を聞くことは叶わなかった。

 何故なら。


 歯切れのいいチャイムの音が鳴り響いたから。


***

 俺らはつい足を止めた。

 今が一刻を争う状況だということは分かっている。足を止めている暇なんてないことも理解している。

 それでも、俺らはつい、辿り着いた熊谷信之の住まいを見て呆然とした。

「ここで・・・あってる、よね?」

 一番最初に声をあげたのは理人だった。多分、空悟も、杵島も、そして俺も同じことを思っている。

 璃月が高嶺高校のデータベースに侵入して手に入れた熊谷の住所。間違っているわけがないのは誰でも分かる。

 だけど、その情報を元に辿り着いた熊谷の家は、

 高級マンションの一室だった。

 ここらで一番家賃が高く、とてもじゃないが教師の給料で払える額ではない。

 いくら私立とはいえ、校長なわけでも理事に関わっているわけでもないただの美術教師が、そんな多額の給料を貰っているとは思えない。

 今この場に高嶺がいればすぐに聞けるが、あいつは今この場にいな
い。俺らのほうが一足早く着いたようだ。まぁ、梨緒と一緒なんだろうし、歩みが遅くなるのもよく分かる。

 でも、今はあいつらを待ってられない。

 とりあえず行かないと、というみんなの心の声が聞こえてくる。杵島は悠長に欠伸をしていたが、最早何も思わない。

 誰も喋らない。緊張感が漂う。学校に忍び込んだときより、心臓が、うるさい。

 エントランスに璃月の姿はなかった。璃月の姿を捜したい気もあったが、今は熊谷の確保のほうが先だ。

 俺に割り当てられたのは熊谷を確保すること。これには空悟も協力してくれるらしいから、一安心だ。でも、先ほどから空悟の態度はどこかぎこちなくて、今あいつが何を考えているのかよく分からないため、少しだけ身を引いてしまうのが現実であった。表面的にはいつもどおりに振舞えているが、何となく、怖い。

 その他、理人、梨緒、璃月は被疑者保護に向かうようだ。理人は女の子が心配と言い張り、璃月は社井に早く会いたいだろうという配慮からだった。そして何かあったとき、理人は璃月に触れられないため梨緒も連れて行くことになった。もう1人の杵島は面倒くさいと言って外で待機組みなのだ。ちなみにそこには真や、あとから来る榊も入っている。

 高級マンションに足を踏み入れ、気付けば杵島はいなくなっていた。適当なところで待機しているに違いない。

「いい?最初は相手をあまり興奮させないように、穏便に済ませる努力をしてね」

 入ってすぐに理人が俺に耳打ちしてくる。空悟はもう仕事モードだ。話しかけれる気がしない。

 何故か玄関であるはずの自動ドアは開けっ放しだった。開いたまま、センサーが機能していない。高級マンションなのに警備システムはどうなっているんだろうか。

 まぁ、今この状況においては、どんな理由であろうと助かることだ。

 前を行く空悟や理人も玄関が開いていることに対してどこか違和感を覚えたらしいが、2人とも特に興味を示さない。

 エレベーターに乗り、熊谷の部屋がある最上階を目指した。

 それこそエレベーターは最上階にあり、1階まで降りてくるのに時間がかかり内心苛々してしまう。

 やっと来たエレベーターに3人で乗って、空悟が階数を押してドアを閉める。

 またもや無言。短いのに長い時間。

 理人は話しかければ返事をしてくれることが分かる。基本的に、理人はいつでも理人だ。

 けど、空悟は違う。普段と事件関連のときと、かなり変わる。

 まだ俺はその変化についていけなくて、ついこいつは二重人格なんじゃないかって思ってしまう。いや、そんなわけないんだろうけど。

 ただ、いつも笑ってて明るい空悟の、何も喋らずにただ一点だけを見つめているその姿に、慣れない。

 別人のように、思ってしまう。

 だから話しかけれない。何て言えばいいのか分からないから。

 多分理人はそんな俺のことを察してくれて、何も言わないでいてくれているんだ。

 考えれば考えるほどぎこちなくなっていくこの空気が、重い。

 ・・・。

 そのうち、エレベーター特有の浮遊感が消えて、動きが止まった。同時に開くドアに、空悟を筆頭に下りていく。

 さすが高級マンション、と言うべきなのだろうか。エレベーターに乗ったときから思ってはいたが、やはり普通のマンションとは使ってる素材が違う。場違いな雰囲気に、息が止まる。

 そのまま歩き、熊谷の部屋を目指す。

 途端、女の子の声が聞こえてきた。