複雑・ファジー小説

OUTLAW 【参照3000ありがとうございますっ!!】 ( No.258 )
日時: 2013/09/29 20:49
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 同じタイミングで反応した俺らは耳を澄ましつつ足を速める。

 まだ声は遠く、何て言っているのかは聞き取れない。が、その声との距離は熊谷の部屋との距離と近い。自然と、俺らは走っていた。

 だって、何となく聞いたことがある声だったから。

 だんだん近づくに連れて、女の子の言葉が聞き取れるようになる。

「かえしてっ・・・・ならの、こまにぃ、こまにぃを・・・かえして!!」

 確信する。

 璃月だと、すぐに分かる。

 もう1人、璃月と話しているであろう相手の声も聞こえてるが、その声はあまりに小さく聞き取ることができない。

 だが、状況を見れば、その相手はきっと、

 熊谷信之。

 生徒行方不明事件の主催者。5人もの生徒を拉致している犯人。

 恐怖を感じる間もなく、行動に移ったのは理人だった。

 理人は前を行く空悟を追い抜き、物凄いスピードで熊谷の部屋を目指す。

 突き当たりを曲がると、璃月の姿が見えた。熊谷はドアの影になって見えない。

 今にも取ってかかってしまいそうな勢いで、璃月はその小さな身体で必死に自分の気持ちを表現していた。

 声を張り上げ、目から涙を流して、手を振り上げて、

 ただ、大切な人に、会うために。

「やだっ!あいたい、こまにぃに、あわせてよ!!どいて!ならのこまにぃを、はやくかえして!」

「那羅ちゃん、ストップ」

 璃月を見えない犯人から庇うように立った理人は、男の俺から見ても格好良い。

 男に触られることを極端に嫌がる璃月を配慮してか、理人は直接璃月には触れず口に人差し指を添えた。泣きはらした璃月に、理人は優しく微笑みかけた。

 空悟と俺もすぐに理人に追いつき、熊谷を隠すドアに手をかけた。

 理人が璃月と共に少し後ろに下がってくれたため、ドアを回り込んでやっと熊谷を視界に捉える。

 確かに一昨日、中庭で花壇を蹴っていたあの美術教師だ。何の変哲もない、ただの一般人。俺より気が弱そうなのに。

 そんなやつが、本当に生徒を拉致しているのだろうか。でも、こんだけ部屋の広さがあれば、高校生5人くらい普通に監禁できる。

「熊谷信之・・・先生?」

 空悟が冷静に名前を呼ぶ。

 突然の状況に今だついていけていないらしい相手は、ただ自分の名前を知る人物が現れたことを知ってパニックに陥った。あ、という小さな悲鳴を聞き逃したりはしない。

 一昨日の対応といい、こいつは根はかなり気が弱いらしい。

 こちらとしてはありがたい。

「俺らの友達、返してもらいにきたんですけど。・・・いいですよね?」

 挑発するように空悟がそう言うと、熊谷は急いでドアを閉めて部屋の中に入ろうとする。が、ドアは空悟と俺がしっかりと掴んでいるため、閉じることはない。熊谷が部屋に入ろうとすることを一足早く察知した理人が璃月を連れて部屋の中に入ってくれたため、熊谷は部屋に入るタイミングを失ってしまう。

「な、何なんだ、君たちは・・・。どうして、こんなところに・・・・」

「自分が一番よく知ってるだろ?」

 強く睨みながら低い声で言い放つ。

 とりあえず、理人たちが被害者を助け出してくれないことには俺らもこいつをあまり挑発できない。無理に追い詰めて、変な行動を取られても困る。

 青ざめた顔で肩を小刻みに震わせている中年のおっさんを軽く拘束する。

 と言っても、あまり拘束する必要はない。

 今この手を離したとしても、多分こいつは動かない。そのまま、床に腰を落とすだけだ。

 それくらい、力が抜けていた。

 それくらい、落胆していた。

 魂が抜けたように、身体はピクリとも動かず、浮かべる表情は今一読み取れない。焦りや不安や悲しみ、寂しさや虚しさ・・・そして何かを諦めたような・・・何かの糸が切れたような。

 もう少し抵抗するものだと思っていた。こんなでも女子生徒を4人は拉致しているのだから、それなりの行動力はあると思っていた。

 今、こいつが何を考えているのか分からない。

 もしくは、何も考えていないのかもしれない。

 俺はただ、不気味だ、とそう思った。

「真夜」

 ふと、廊下の向こう側から名前を呼ばれる。

「梨緒?」

 振り返りもせず相手を確認していた。フードを被った無駄に端整な顔立ちの少女・・・梨緒だ。

 数分の差で、俺らのほうが早かったのだろう。

「しの、真さんは外?」

 空悟が梨緒に向かって確認すると、あろうことか梨緒は首を横に振った。

「そこまで一緒に来た」

 そう言って梨緒が指差したのは、今俺らがいる廊下の突き当たりのところだった。大方、放浪癖のある梨緒が絶対俺らのところまで辿り着けるとこまで送っていったのだろう。そこまで来たのなら声くらいかければいいのに。

 でもまぁ、案外あいつも気が利くんだな、と場違いなことを思ってしまう。

「那羅が面倒なことをしてくれたから、片付けてくるって言ってた」

 面倒なこと・・・?

 別に璃月は何もしてなくね?

「玄関の?」

 何も思い当たる節がない俺とは違い、空悟はすぐに梨緒の言葉に反応する。

 そしてその空悟の問い掛けに、梨緒は今度は首を立てに振って答えた。

 何のことだろう・・・と思って黙り込んで考えていると、無抵抗な熊谷の腕を掴んだままの空悟が俺に説明してくれた。

「こんな見るからに高級マンションのセキュリティがあんなに緩いわけないだろ。玄関のドアが開いていたなんて大問題だ。しかも警報も鳴ってなかったしな。大方、璃月がセキュリティ本体に細工をしたんだろう。多分、防犯カメラの映像も、かな」

 ・・・あの、短時間で?

 確かに璃月がいつここに来たのかは分からないけど、それはそんなに簡単にできるものなのか?

 でも、だとしたら玄関が開いていたことにも、未だに警備員が俺らのところに来ないことも頷ける。真が裏づけをする理由も分かる。

 ただいつものあの生活と、あの容姿を見ると、全くもって、想像がつかない。

 人は見かけに寄らないものだな・・・。

 にしても、理人たちが随分遅い。何をしているんだろうか。

 そういえば、梨緒は救出班だった。被害者は狛を合わせて5人はいるわけだし、2人では無理があるのかもしれない。そのうち1人は璃月なわけで、頑張っても1人が限度。そしてその1人は何が何でも社井になるだろう。とすると、残りの4人を理人1人で支えなければならないのだから・・・時間が掛かるのも無理はない。

 ・・・あぁ、でも、第一被害者はここにいるのか危ういな・・・。そういや、あいつ何で出れたんだ?

 まぁ、今はあの宿題女のことは置いておこう。あいつがいないとしても3人。理人は楽だと笑うかもしれないけれど、それでも手が1本足りないのは事実。

「梨緒、部屋の中に理人と梨月がいるから、あいつらと一緒に被害者を連れ出してくれ」

「真夜は?」

「俺?俺はちょっとこいつと話しがあるから」

 それは今回の事件のきっかけについて。

「じゃあ、ここにいる」

 ふてくされたような声で、梨緒はぷい、とそっぽを向いた。

 ・・・待て待て待て。この期に及んでまだマイペースですか?というかここまで来ると唯我独尊だぞ。

「頼む」

「嫌」

 いつもより頑なな姿勢に、俺は多少驚いた。

 苛々、してる?

 そんな雰囲気を感じ取るものの、その理由が分からないため何も対処ができない。

 どうしよう・・・と、俺は素直に困ってしまう。

















臨場感が出なくてごめんなさい・・・
犯人があれなんで、戦闘的場面はないです、ごめんなさい。