複雑・ファジー小説

OUTLAW 【参照3000ありがとうございますっ!!】 ( No.267 )
日時: 2013/11/03 19:25
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 でも、梨緒ちゃんは俺らの状況をじっと見たあと、何も言わずに香織ちゃんのほうへ近づいた。俺の言葉がなくても、状況を察してくれたらしい。

 相変わらず香織ちゃんの体は震えていた。新しい人が来たことに気付いたのだろうか。

 そんな彼女に近づいても、さっきみたいにまた拒否されるだけ・・・。

 とは思うものの、梨緒ちゃんとすれ違うときに気付く。

 梨緒ちゃんは物音一つ立てていない。足音も、擦れるはずの紙の音も、何もしない。

 これなら、彼女に近づいていることが知られないで済む。実際、梨緒ちゃんが隣に来ても、香織ちゃんは今までと何も変わらない様子だった。

 そのまま梨緒ちゃんは震える香織ちゃんを数秒の間見つめたあと、ゆっくりと彼女の目を覆う布をするりと取った。

「あっ・・・」

 途端に香織ちゃんは布を抑えようとするが、それは意味なく落ちていく。無意識に発してしまった声は、彼女の心境を物語っていた。

 すぐに香織ちゃんは自分の布を取った手の方向に視線を向け、梨緒ちゃんを見つけた。

 同じ学年だし、彼女は梨緒ちゃんを見たことがあるようだ。よく迷子になって学校のあらゆるところに出現する梨緒ちゃんを知らないわけがないのだが。

 怯える香織ちゃんに躊躇なく梨緒ちゃんは手を伸ばす。

 当然、それを拒否した香織ちゃんに、梨緒ちゃんの弾かれた手が宙に浮く。

 その体勢で数秒止まってしまった梨緒ちゃんに、香織ちゃんは少しばかり不安そうな目を向ける。

 相変わらず梨緒ちゃんは自由だ。

 そしてもう、この部屋の中は梨緒ちゃんのペースだ。

 梨緒ちゃんは、再び香織ちゃんに手を伸ばした。

 けど、今度は先ほどとは違う向きだった。

 さっきは香織ちゃんを掴もうとして掌を下にしている状態だった。

 だけど今は、転んだ人を起き上がらせるときみたいな、掌を上に向けた状態だ。

 そのまま動かない。香織ちゃんに手を差し伸べたまま、1mmも動かない。

 ただ、梨緒ちゃんは。


 香織ちゃんが手を取ってくれるのを、待っていた。


 この行為に香織ちゃんは驚いたように目を見開き、梨緒ちゃんの手を凝視する。

 戸惑うように視線を外し、 ・・・恐る恐る手を伸ばす。

 手が触れ合った瞬間、梨緒ちゃんの手は、彼女の手を優しく包み込むように動いた

「理人。この子は私が連れて行くわ」

 無機質に発せられた梨緒ちゃんの言葉に、俺は従うしかない。

 俺にはどうにもできなかった世界を嫌った女の子と手を繋ぐ梨緒ちゃんに、逆らえるわけがない。

 とりあえず、俺はベッドに寝かされる小夜ちゃんを背中に抱えて美羽ちゃんの手を握って部屋から出た。そのあと、狛くんを連れて那羅ちゃんがついてくる。

 そしてそのあとから、ゆっくりと香織ちゃんが梨緒ちゃんに引っ張られて歩き出した。

 部屋から出る間、俺は改めて梨緒ちゃんの重要性について再確認していた。

***

 熊谷信之は、放心状態だった。

 被害者たちは、先ほど理人たちが全員連れて行った。1人、黒宮綾がいなかったが、何となくあいつはもうどうでもいい。何とかして逃げているのだろう。

 そして、俺は熊谷に聞きたいことがあった。

「おい」

 それは今回の事件の、動機。

「お前、何でこんなことしたんだよ」

 大体の予想はついている。

 だけど、こいつの口から聞かないと意味がない。

 数秒間待った。もしかしたら数分だったのかもしれない。それくらい、短いとも長いとも言えるだけの時間を待った。

 そうしてやっと、熊谷の口が開く。

「・・・私は」

 腕は離しているものの、熊谷を監視していた空悟も視線をこちらに向けて話しを聞こうとしている。

 悔しげに一度唇を噛み締めた熊谷は、意を決して俺の質問に答えた。



「・・・、娘を、取り戻したかったんだ」



 娘。

 熊谷の、娘。

 何らかの事情で、まだ幼かった頃離れ離れになった娘。

 それは、きっと、・・・皐。

「え?じゃあ何で、他の奴ら拉致ってんの?」

 何となくいつもの明るい雰囲気に戻ってきた空悟が、そんなに怒りを感じさせない口調で熊谷に問い掛ける。

 熊谷は小さく、だが長い溜息をついて、順を追って説明を始める。

「私はまだ娘が小さい頃に、娘を手放さなければならなくなった。そしてそのときに、娘にまた会うことを禁止された」

 誰に、とはあえて聞かない。今それを聞いても、複雑になるだけ。

「だけど、私は諦めることができなかった。何年も経っても、あの子のことが忘れられなくて・・・ついに捜すことを決心した」

 熊谷は表情も声色も、視線も変えないまま、淡々と。

「つい数年前のことだった。やっと私は娘の居場所に辿り着き・・・娘に、会いに行った。・・・・けれど、娘は私のことを分かってはくれなかった。いや、何年も会っていないし、1歳のときの記憶を当てにしていたわけじゃない。どうせそんなものだろう、と覚悟していた。ショックではあったけど、それについて娘を責める気はない」

 悔しそうに唇を噛み締めたあと、熊谷はもう1度口を開く。

「それでも私は諦められなかった。私の娘を、どうして奪われてしまったのか、今だに理解できなくて。だけど、再び会いに行く勇気もなかった。だから私は、娘を絵に記そうと思った。けれど、娘を見たのは1度きりで、どう表現していいのか、分からなかった。何枚も、何枚も、娘を思ってたくさん絵を描いているうちに、・・・私は、自分がどんな絵を描いていたのか、分からなくなってしまった」

 ・・・何も、言えない。

「娘を思って描いた絵は、後から見ると自分でも吐きそうになるほどに、気持ちが悪くなるものばかりで・・・。私が見た娘はこんな気持ち悪くないのに、どうしても私は、娘を正常に描くことができなかったんだ。・・・そのうち気付いた。私は無意識のうちに娘への欲が絵に表れているのではないかと。娘と離れてしまった罪悪感と、それをさせた奴らへの恨みと、今まで一緒にいれなかった寂しさと、これからでもいいから一緒にいたいという欲望。他にもいろいろあるが、それらが全てが絵に出てしまっているのではないかと。私は娘に対してこんなことも思っていた」

 熊谷は、初めて視線を床から天井へ向けた。その顔には、何の感情もなく・・・ただ、あるのは、絶望だけだった。





「・・・私と一緒にいないのなら、いっそのこと死んでくれれば諦められるのに、と」
















意味不明な感じになってしまって、本当にごめんなさいっ・・・・。