複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【いつのまにか参照300!?めっちゃ嬉しいw】 ( No.40 )
- 日時: 2013/02/05 20:42
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
「おい、真夜っ・・・・・おいっ!待てって!!」
後ろから腕を引っ張られた。当然、俺の足は半ば強制的に止められた。
「んだよ・・・離せ」
雨がまた降っていた。さっき止んだばっかりなのに、何で今に限って降ってくるのだろうか。せっかく風呂に入ったのに台無しだ。
しかも、窓から外に出たあいつは傘も持っていなけりゃ靴も履いていないはずだ。早く見つけないと風邪を引いてしまう。
いや、風邪よりも時間帯のほうが危険かもしれない。ここは治安がいい場所ではない。そんな中に、あんな綺麗な子が裸足でしかも雨に濡れて1人でいたら、馬鹿な輩が手を出しかねない。
ふざけるな。あいつを汚したらただじゃおかねぇ。
もしそうなったら、俺は今度こそ自分をコントロールできなくなりそうだ。
「そんながむしゃらに探したって仕方ないだろ。一旦、話を聞いてくれ」
俺を追いかけてきてくれた空悟も、焦っていたのか急いでいたのか、傘は持っていなかった。
通行人たちは、雨に濡れている俺らに見向きもせずに通り過ぎてゆく。ここにいる人は、大抵その類のはずだ。
「しのは、高嶺さんに真夜の話をしに行ったんだ」
「・・・あ?」
「アウトロウの中で最大権力者は高嶺さんだ。どんなにここに住みたいと言い張っても、高嶺さんの許可がないと住むことはできない。だから、しのは矢吹真夜をアウトロウにしてくれって頼みに行ったんだ。俺はよく知らないけど、お前、いる場所ねぇんだろ?」
「・・・」
梨緒が、俺を。
それは、数分前の出来事らしい。
***
「矢吹真夜をアウトロウにして」
しのの要求は至ってシンプルだった。
俺は少し送れて真さんの部屋に入ったが、しのの要求は聞くことができた。
「え・・・っと?」
案の定、高嶺さんは困っている様子で。仕方なく俺は、
「しのが外で作ってきた友達です」
と、説明を加えた。
それで、とりあえず高嶺さんは分かった様子になって、しののほうに向き直った。
「どうして?」
「真夜は、居場所がないらしい。なら、私たちと一緒」
確かに俺も、ちゃんとは聞いていないけどそうかなとは思っていた。あんな雨の中で、傘も差さずにふらふらしているのはどう見てもおかしい。
だからこそ、しのと友達になれたのかもしれない、と1人で結論付けていたのも事実だ。
「・・・。2年もいるんだから分かるでしょ?アウトロウは身寄りがない人たちの集まりじゃないんだよ。それは孤児院の役割だ。アウトロウの目的とは離れてる。
「それでも、真夜は私たちと同じだわ」
一歩も引き下がらない2人の言い合いに、俺はひやひやする。
「あの人は、私に必要だわ」
その言葉は、俺でも信じられなかった。
それなりの長い間、俺もしのと一緒に過ごしてきた自覚はある。だが、しのがここまで食い下がらないのは初めて見た。
しかも、自分に必要と言い張る人物がいるなんて、思ってもみなかった。
同時に、真夜に不信感を抱いた。ここまでしのを変えてしまうなんて、真夜はいったいどんな人物なんだろう、と。
それは俺だけではなく、真さんも同じだったようで。
「梨緒ちゃんが、人を求めるなんて珍しいじゃないか。しかも、察するにその矢吹真夜は男だろう?」
この会話のどこから真夜を男と判断したのかは、よく分からない。
でも、真さんはいつもそうだった。どこから仕入れているのか分からないような情報を、いつも誰より早く掴んでいる。
だからこのときも、全然疑いもしなかった。
「だったら、何」
伊達に2年しのと一緒にいるわけではない。いくら無表情とは言え、そのときのしのが苛立っていることは俺でも分かった。つまり、真さんはお見通しだったはずだ。
「いや、もう、あのことは克服したのかな、と思ってね」
ぎり、と誰かの歯軋りの音が聞こえた。
軽く笑みを零しながら、普通の会話のように真さんが口にした言葉は、しのの癪に触れたらしい。
しのは少し歩いて机まで行き、中央に置いてあった20cmくらいの花瓶を両手で持ち・・・
床へと叩きつけた。
ガシャンっ!
という音が響いて、真さんと俺は呆気に取られた。
しのは息が切れていた。そりゃ、水が入った陶器の花瓶だ。非力な女の子には重かったのだろう。
「・・・それが答えね」
と呟いたあと、梨緒さんは真さんが座る椅子を通り過ぎて、天井まで届く大きさの窓を開けて、そのまま
飛び降りた。
人によっては自殺行為に俺は驚き、駆け足で窓まで行って実を乗り出し地面を見る。
しのは身軽に地面へと綺麗に着地し、駆け出しているところだった。
俺はそこで初めてしのの身体能力を知ったことになるのだが、今はどうでもよかった。
どうしてしのがあの言葉で怒ったのかは俺にはよく分からない。アウトロウは何かしらを背負った人の集まりだ。もしかしたら、それに触れていたのかもしれない。
アウトロウのメンバーは互いに自分のことをあまり話したがらない。自分が聞かれてほしくないことは、他人に聞いてはいけない。だから、俺らは互いに抱えているものをほとんど知らない。
知っているのは大抵真さんだけだろう。どこで知ったのかは、知らないけれど。
ある意味不快だが、住まわせてもらっている身としては、文句は言えない。
そうこうしている間に、花瓶が割れた音を聞きつけて、真夜、狛、璃月が入ってきた。
これが、数分前の話。
***
「でも、高嶺さんはそれを了承しなかったんだ。まぁ、いきなり名指しで言われたって本人がいないと確かめることもできないしね。でも、ほら、しのは直球だからさ、怒っちゃって」
馬鹿か。すぐに俺が行ったのに。少しくらい待ってればいいのに。
「あんな感情的になってるしののこと・・・俺、初めて見たよ。それほど、真夜と一緒にいたかったんだろうな。驚いたけどさ」
そんなの、あいつじゃなくて俺に言えよ。筆が先走ってんじゃねぇぞ。
「きっと、高嶺さんは真夜を試してる。しのが言ったことが本当かどうか」
「・・・梨緒が言ったことって?」
雨の中で、空悟は少しだけ複雑な表情をして。
数分経ったあと空悟が開いて、俺が耳を澄ませて。
「『あの人は、私に必要だわ』。・・・しのは確かに、そう言った」
そうだよな。
お前は俺に色をつけてくれるんだもんな。
あのときのように。雨に濡れた俺に、赤い傘を差してくれたときみたいに。
俺のモノクロな世界に、色をつけてくれるんだろ・・・?
筆は紙がないと、その存在意義を果たせないじゃないか。
お前が俺を誘ったんだぞ。お前が俺に、目標を持たせたんだぞ。
勝手に消えんなよ。心配かけてんじゃねぇよ。
あいつに会ったのはついさっきだけど。本当に、まだ数時間しか経ってないけど。
少しくらい、求めてみたっていいじゃねぇか。
何もなくなってしまった俺の世界で、
手伝ってあげる、って言ってくれた奴の、
傍にいたいって思っちゃ、悪ぃかよ。
責任者だか何だか知らねぇけど、俺はもうお前から離れる気なんてさらさらねぇんだ。
真っ黒に染まった俺を、透明な色の雨が流してくれた。
真っ白になった俺に、色をつけてくれるのは雨を遮ったお前だろ。
お前が俺を必要なように、俺だってお前が必要なんだ。
分かっているのか。分かってねぇなら、分からせてやる。
だから早く、俺に見つかりやがれ。
「・・・行くぞ、空悟」
「え、どこに?」
切りが悪いからもう少し続くよw