複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【いつのまにか参照300!?めっちゃ嬉しいw】 ( No.44 )
日時: 2013/02/08 19:07
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)


***

 真夜が不良たちと喧嘩をしているのを、少し離れたところから見ていた。

 殴り殴られが続く中、俺は真夜の安否を心配しながら、こう思っていた。


 ・・・あぁ、やっぱり俺は弱いな。


***

 10分くらい経って、やっと馬鹿たちが全員倒れてくれたので、俺は空悟のところへと戻る。

「だ、大丈夫か!?」

 空悟はすぐに駆け寄ってきてくれて、俺の怪我の具合を見てくれた。

 勝ったとは言え、1回も殴られなかったわけではない。俺の口の端は切れていて、口の中は鉄の味で嫌な感じだった。体だって所々痛いところはある。

 が、どれも動けなくなるほどの怪我ではない。

 それに、俺はこんなところで時間を潰している余裕はない。携帯を確認すると、時刻は8時半を回ってしまっていた。

「あぁ、平気だ。心配ありがとな。それより、早く行こう。時間が心配だ。・・・腹も減ったしな」

「じゃあ早く帰んなきゃな。大丈夫、ご飯は用意しといてくれてるはずだから」

「だな」

 俺らは、地面に倒れた不良たちを後にして、再び一番高いビルへと急いだ。

 ビルはコンクリートがむき出しの、お世辞にも綺麗とは言えないビルだった。もう使われてはいないのだろう。所々、もう崩落が始まっている。

 少し躊躇いながらも、俺と空悟はビルの中に入り、階段を一気に駆け上がった。エスカレーターやエレベーターは、探す余地もない。

 一番高いだけあって、その階数はかなりあった。都心にあるビルに比べればアパート並みかもしれないが、生憎ここは都心からかなり離れている。高いものがそうそうないこの地では、階数が5階というのは充分高いに分類される。

 非常階段5階分かなりきつかった。俺に至っては不良との喧嘩の後で、そろそろ体力が限界ということもあった。

 だが、止まるわけにもいけない。

 俺は早く梨緒を見つけて怒らなければならないのだから。

 息が絶え絶えになって、足腰が悲鳴をあげる。でも、上にあげる意思は尽きない。

 そうしてやっと、俺らは屋上への扉に辿りついた。案の定、鍵は壊れて開いている。

 とりあえず息を整え、一通り落ち着いたあと俺らは扉を開けて屋上へと出た。

 再び雨に打たれる。風も少し出始めたため、適当に手で視界が見えづらくなるのを防いだ。空悟は上着を脱いで、頭から被っていたが俺にはそんな余裕はない。

 視界に入る1人の少女。パーカーのフードを被って赤いミニスカートを履いた、綺麗な子。

 雨に打たれる姿も絵になっていて、どこかに絵として出品したら絶対入賞するくらい、神秘的だった。

 俺は少しの間、梨緒に見惚れてしまっていたが、すぐに視線を伏せて名前を呼ぶ。

「梨緒」

 今度は全く照れなかった。恥ずかしい、なんて思わない。

 名前を呼ばれて俺らに気付いた梨緒は、街を見下ろしていた目をこちらへと向ける。

 どうして来たの?という疑問と、来なくてよかったのに、という嫌悪が混ざったような、それでいて、何も考えていないような目だった。

 それでも、会ったときからある梨緒の目にある強い力は消えていない。

「ったく。勝手にいなくなんじゃねぇよ」

「ごめんね」

 この後に及んでまだ会話を成り立たせる気はないらしい。

 猫を飼いならすのは、楽じゃない。

「真は、真夜がアウトロウになることを許してくれなかった。もう、傍にはいられない」

「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。それを決めるのはその、真って奴じゃなくて、この俺だ」

 ぴく、と梨緒の眉が微かに動く。

 雨の中で全力疾走して、不良と喧嘩してまでここに来たんだ。言いたいことを言わせてもらう。

「いいか。俺が誰といるか決めるのはお前でも真って奴でもない、俺だ。勝手に決めてんじゃねぇぞ、馬鹿が」

 俺は、足を踏み出した。空悟は空気を読んだのか、後ろのほうで何も言わずに俺たちを見ている。

「別にアウトロウじゃなくても俺はお前と一緒にいれるんだぞ。自暴自棄になんな」

 梨緒はすがるように俺のことを見つめていて。

 何故かそのことが嬉しかった。

 こいつの目に、自分が映っていることが、嬉しかった。

「お前は、俺に色をつけてくれるんだろ?俺のこの退屈な世界を、彩ってくれるんだろ?だったら、俺から離れてんじゃねぇよ」

「っ・・・」

 今、梨緒が何を考えているかは知らないから、息を呑んだことが何を示しているのかは分からない。こいつなりにも考えることがあるのかもしれない。

 どっちにしろ、俺はもう好きにやらせてもらう。

 俺を縛るものは、もうなくなった。

 ・・・それが、どんな過程にしろ、結果は変わらないはずだから。

「1度しか言わない、よく聞け」

 いつから俺は、こんなことを思うようになったんだろう。

 今まで何にも興味を示さなかった俺が、

 誰かと一緒にいたい、なんて。

 ・・・あぁ、違うな。

 こいつだからなのかな。

 あの雨の中で、全員が俺を見ないフリして素通りしていく中で、全員が俺を置いてきぼりにする中で、

 ただ1人、こいつだけが俺に声を掛けてくれたんだ。

 多分、俺はそれが嬉しかったんだ。

 感覚が麻痺していたから、あまりよく分からなかったけど、

 きっとそういうこと。

 はは・・・笑えるな。

 でも、これで俺の生活は退屈じゃなくなる。

 そう思うと、楽しみで仕方なかった。

 俺は梨緒の目の前に立った。手を伸ばせば届く距離だ。

 ただ真っ直ぐ。真っ直ぐと、俺と梨緒は互いを見つめる。

 何故か今は恥ずかしくない。

「俺は、お前が離れない限り、ずっとお前と一緒にいる」

 2人だけの誓いの言葉。

 たった16歳のガキが交わした、雨の中での約束。

 梨緒は俺の言葉で、ピンと張っていた糸が切れたように俺へと倒れこんだ。

 抱きしめる形になったものの、俺はそれを拒否することができない。

 俺を抱きしめた梨緒の体は酷く冷たくて、逆にそれが気持ちよかったのだけど。

 そして、梨緒は耐え切れなかった涙を流した。

 俺の腕の中での出来事だったから、直接的に見たわけではないけれど。表現できない梨緒の泣き声で、すぐに分かった。

 それに、多分この梨緒の涙は誰も見てはいけないものだ。

 梨緒が泣いている理由は、俺にはよく分からない。梨緒が抱えているものを、俺はまだ知らないけど。

 本人が話したくなれば、自ずから言ってくれるはずだから。そのときは、俺のことも話さないといけなくなるかな。

 でもまだその時ではない。

 彼女の涙の理由はまだ知っちゃいけない。いつか分かってやれればそれでいい。

 だから今は、ただ抱きしめる力を強めることしかできなかったけど。

 多分、今の梨緒にはそれだけで充分だろうから。

 まるで梨緒の涙が雨になっているかのような感覚だった。

 この感情は、何なのだろう。

 ずっとこうしていたい。梨緒と一緒にいたい。

 16年間生きてきた中で、俺は1回も感じたことがなかった。

 多分それは、

 愛しい、という

 儚くて脆い、世界で人間だけが感じることのできる感情だと思う。

















久々の更新です! コメくれ!w