複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【参照500突破!マジ感謝っ!!】 ( No.56 )
- 日時: 2013/04/09 15:21
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
一気に場の空気が重くなる。
さすがに俺も同い年の子が行方不明ということは少し気になる。
「えぇ。学校側も昨日聞いた話だそうですが、渡辺香織はここ1週間家にも顔を出していないようでして」
「そりゃまた・・・大変な」
「渡辺香織っていう子はどんな子なんだ?」
「真面目で凄くおとなしい子です。家出するようなタイプではないですね」
真剣に聞いているような空悟たちと、料理に夢中な灯たちの、雰囲気が一瞬にして変わる。
何だ。普通の高校生が醸し出すものじゃないぞ。
背筋がぞくってするような、恐怖すら感じさせる異様な空気。
どうしたらいいか分からない俺を見て、何を思ったのか隣に座る高嶺が俺にだけ聞こえるような声で呟いた。
「よかったね。さっそくアウトロウの仕事が見れるよ」
まだその指し示す言葉の意味がよく分からなかったけど、ただ1つ思ったのは。
俺が思ってるほど、アウトロウは簡単なものじゃないってこと。
思い詰めたように手が止まり、ただぼーっと料理を眺めていたとき、突然横から手が伸びてきて、俺の皿の上ににんじんが次々に置かれていった。
えっ、と思ったが、にんじんを運ぶ手を見て分かる。
「おい、梨緒。何してんだよ」
「私、にんじん嫌いなの」
何でこいつはこうやって空気を全無視した態度を取るんだ。・・・こいつも本当にこの空気の一部なのか・・・?
「嫌いだからって人に押し付けるのはどうかと思うぞ?」
「じゃあ、はい」
「・・・は?」
あろうことか、梨緒はにんじんを皿に置くのではなく俺に向かって差し出してきた。大方、食べろということだろうが・・・。
いや、皿に置かなきゃいいっていう問題ではないんだけど、分かってんのかなこの子は。
「早く口を開けて。落ちちゃうわ」
「え、ちょ、いや、待って。分かった、食べる、食べるから、皿に「嫌よ。食べるんだったらお皿に置かなくても同じのはずよ」
た、確かにそうだけど、え・・・っと。
こいつは何がしたいんだ?いや、別に俺はにんじんが嫌いなわけではないんだけど。さすがに同い年の女子に食べさせてもらうのはどうかと思うぞ、おい・・・。
「ずいぶん仲良くなったなぁ」
「梨緒ちゃん、俺にも食べさせてよ」
「若い奴はいいねぇ」
「ちょ、お前らな・・・」
空悟と理人、そして榊が俺をひやかしてくる。確かに、周りにとってはいいからかい相手だ。俺だって近くにこんなことしてる奴らがいたらひやかす。
「真夜、落ちるわ。早く」
こいつは人の気も知らないで・・・。
でも、これはきっと俺が食べなきゃ場は治まらない・・・。
くそ・・・さっきまでのシリアスなムードはどうしたんだよ、ったく。
「ん・・・」
俺は仕方なく口を開け、梨緒が差し出すにんじんを食べた。
途端に喚くうるせぇ馬鹿たち。まぁ、俺にとってはどちらかというと、何も言わずにただ微笑んでくる社井のほうが羞恥心を掻き立てられるのだが。そういう意味では何の反応も示さない杵島や璃月が一番ありがたい。
「おいしい?」
無表情のまま首を傾げて聞いてくる仕草は、かなり可愛いものでついときめいてしまうのだが、恥じをかかされた今の俺にはどうしようもなくずるく見える。
「これでおいしいって言ったらお前は食うのか?」
「もっと食べさせるだけよ」
「じゃあもういりません、遠慮します」
「・・・」
明らかにふてくされた態度を取った梨緒を見て、周りがまた俺をひやかしに入る。
「しの、可哀相ー・・・」
「少しくらいいいじゃん
「もっとやれやれー」
それを聞いた梨緒が、再度にんじんを俺へと向けてきて・・・。
・・・・・・・はぁ。
誰かこの状況の打破策を教えてくれ。
***
雨は、
すっかり止んでいた。雨雲は風が吹き飛ばしてくれたらしい。
だけど落ちてきた水は残ったまま。見下ろす地面には水溜りができているし、木々の葉はまだ湿っている。
梅雨のじめじめとした空気はあまり好きじゃない。しつこく纏わりついて鬱陶しい。
それでも外にいる理由は、・・・うん、何だろう。きっとただの気分だと思う。
見上げる空には月が輝いているが、空気が悪いためか星は見えない。別に天体が好きっていうわけでもないけど。どちらかというと雨のほうが好きだ。
何もすることがなく、ただ呆然と夜を感じているだけ。
夜に、触れたかっただけ。
今日はいろいろなことがあって、疲れた。でも、どれも意味のあるものだったと思う。
もう10時を回っていて、那羅はもう寝た頃。でも私は全然寝る気にはならない。
私はきっと、今日という日を忘れない。真夜に会った日を忘れない。この雨を忘れない。
ずっと一緒にいると誓ってくれた真夜の言葉に、つい泣いてしまったのは今思えば少し恥ずかしい。
でも、今思うと、少し怖い。
多分私は、真夜とずっと一緒にいることを望んでいる。何の迷いもなくそう答えることができる。
だからこそ、真夜がいなくなってしまったときのことを考えると、怖くてたまらない。
知らない人に自分から声をかけるなんて・・・もう二度としたくない行為だった。もう絶対しないと思っていたのに。
つい声をかけてしまったのは、多分真夜だったから。昔の自分によく似ていたから。
こんな思いを抱いた人は今までいなかった。
だから、どうすればいいのか分からない。ただ怖い。失いたくない。
そのために何をすればいいの・・・?
「おい、梨緒、何してんだよ」
ぶっきらぼうに向けられた言葉は、すぐに誰のものだか分かる。だってたった今考えていた人だから。
「別に何もしてない」
「いつもそうなのか?」
「そうかもしれない」
大抵私は自由気ままに好き勝手やってる。周りに何を考えているか分からなくて当然。
「お前の頭ん中はどうなってんだろうな」
「知りたい?」
「え」
どうして、相手が真夜だと次々に言葉が出てくるのだろう。私はあまり喋るほうではないのに。
気付いたら声を発してしまっている。しかも、そのことに後悔はしていないことが不思議だ。
「知りたいって、思ってくれる?」
少し期待している自分がいた。
自分が真夜を求めるように、真夜に求められたがっている自分がいた。
よく分からないけど、そう思える自分が嬉しかった。
「まぁ・・・な。それなりに」
気まずそうに視線を逸らしながら肯定してくれる真夜を可愛いと思ってしまう。
重症だ。
ねぇ、真夜。私、あなたのことを信じてみようと思うの。
だって私、こんなに暖かい気持ちになったの、生まれて初めてだから。
あなたのことを、信じてみたいと思えたから、だから信じてみる。
私には、ただあなたを失う恐怖に悶えることしかできない。私の運命を握るのはあなた。
だから、お願いだから、私に少しでも夢を見させて。
ついさっき、あなたは雨に誓ってくれた。
そして今、私は月に祈る。
「じゃあ、私のことを見てないと駄目ね」
それをあなたは、叶えてくれますか?
あなたが、私の初めての愛する人に、なってくれますか?
微笑んだ真夜の微笑みが、いつかこの質問の肯定になることを信じて。
あと少し!