複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【番外編START☆】 ( No.87 )
日時: 2013/04/04 00:27
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 段差の低い螺旋階段を下りて俺は1階へ降りる。最初は迷路のような構造だったが、案外分かりやすい造りだったので、覚えるのも難しくなかった。

 降りるうちに、空悟の姿が見えてくる。

 空悟はどこか憂いを帯びた眼差しをしていた。いつも元気なあいつからは想像もできない。

 階段を下りる足音に気付いたのか、空悟はふと俺たちのほうへと顔を上げた。

「おはよう、真夜。結構制服似合ってんじゃん」

「そうか?」

 お世辞にしか聞こえない言葉を言いながら、空悟は立ち上がって荷物を手に持った。

「相変わらず絡みづらい格好だけどな。友達作らねぇ気か?」

「特別作りてぇとは思わねぇけど、いらないとも思わねぇな」

「流れって感じ?」

「まぁ、そんな感じ」

「真夜っぽいな」

 どこらへんが俺っぽいのかよく分からなかったが、まぁそういうことにしておこう。

 多分俺は、来るもの拒まず去るもの追わず、だ。範囲外の奴が約1名いるが。

 いても困んねぇし、いなくても困んねぇ。俺の友達というものに対しての認識はそういうもんだ。

 ちなみにここからは俺の想像なのだが、ここのアウトロウのメンバーはクラスを凝縮したように感じられる。

 クラスのリーダー格の空悟と、女タラシのくせに男にも好かれる理人、嫌われているわけではないのだがいつも1人でいるような梨緒に、孤立して絶対に浮く一匹狼タイプの杵島、おとなしいが嫌われる要素が何1つない社井と、人気はあるのに何故か話しかけられない璃月。

 みんなの学校での話しを聞く限り、俺の予想は全くもって外れていないっぽい。

 そこに俺という不良生徒が入れば完璧だ。

 ・・・まぁ、どうでもいい話なのだが。

「じゃあ、行こっか。まぁ、電車に乗るんだけどね」

 俺は昨日初めてここの地名を知った。

 ここは海老根市の千歳区。今まで俺が住んでいたところの隣に位置する市の外れにある地区だ。俺がこの地名に抱いた印象は、こんなところで千年も生きたくねぇな、だった。

 高嶺高校があるのは、千歳区からかなり離れたところにある多岐谷市。近場なら徒歩かバスで済むが、結構距離があるので電車を使うらしい。ただ近いだけで高校を選んだ俺にとって、電車通学というものは珍しいものだったし、逆に憧れのものだった。

 俺らは話しながら外へと出る。梅雨のじめじめとした空気は相変わらずだが、夏らしくいい天気だった。鬱陶しいくらいに。

「どうだ?天候初日の気分は」

「憂鬱だ」

「そんな悲しいこと言うなよ。結構楽しいもんだぜ?」

「俺と空悟じゃタイプが違ぇだろ」

「んー・・・どうかな」

 自嘲気味に笑いながら話す空悟に違和感を覚える。

 この違和感は今が初めてではない。

 空悟はよく自分を減り下した言い方をする。別にそんなんじゃねぇのに、自分で自分を馬鹿にしたような言い方を平気でする。

 全然そんなんじゃねぇのに、それを否定したら空悟自体を否定してしまいそうで何も言えなくなってしまう。

 だから、俺はあまり好きではなかった。

「あ、それよりさ、俺らが風紀委員だってことはあんま言うなよ」

「なんで?」

「風紀委員、の実態は、あまり生徒に知られてないからな」

 空悟が説明するにこうだ。

 風紀委員はアウトロウの高嶺高校での呼び方だ。一部では不良チームとして通っているアウトロウという名前を私立学校で使うわけにはいかないからだ。つまりは、アウトロウのメンバーが風紀委員ということになる。

 逆を言えば、アウトロウのメンバー以外の奴は、風紀委員は名乗れない。

 となると、風紀委員を、委員会扱いするのは困難になる。メンバーが限られるという時点で怪しいからだ。しかも学年で人数が違うなど、学校側が許すわけがない。

 よって、風紀委員会、というものは存在しないが存在する、存在するが存在しないという不安定な立場となった。

 そんな面白い立場を好奇心旺盛な年齢の生徒たちが放っておくわけもなく。

 今や「風紀委員」は「実態のない未知の存在」として高嶺高校の格好の噂の的となったらしい。

 空悟たちが学校内で動く際に「風紀委員」という名前を使うたび、生徒たちの間で噂が広まった。

 そこに風紀委員だと名乗る転校生なんかが現れたらどうなる。空悟たちが隠してきたことが、一斉に知れ渡ってしまう。

 俺としてもそんな目立つことはしたくない。この話を聞かされたとき、かなり即答で黙っとくと言った。

 気付けば千歳区の駅についていた。街の外れの地区にある駅だけあって、随分と小さい。必要最低限の機能だけを注ぎ込んだ感じだ。

 出勤する大人たちと、俺らのような登校する学生たちで溢れている。

「おい、梨緒。またふらふらどっか行くんじゃねぇぞ」

 こいつはさっきから俺の隣をただ淡々と歩いていた。

 元々人が多いところが嫌いな奴だ。そこらへんをうろうろされて、勝手にいなくなられても困る。ただでさえ、俺は今日初登校なんだから。

 こくん、と頷いた梨緒は、どこか犬っぽい。

 電車通学ではなかったが、電車に乗ったことがないというわけでは決してない。全くもって俺は箱入りではないのだ。

 切符を買って改札口に入り、電車を待つ。俺らが乗るのは7時48分の電車だ。学校には8時についてればいいらしい。

 現在時刻は45分。あと3分くらいある。

 相変わらず人で込み合っていて、湿気が鬱陶しい。梨緒は俺が言ったことを律儀に守ってるらしく、俺の横から全く動く気配がない。

 何かをしている3分間と、何もしていない3分間は全然違う。

 さすがに梅雨の時期のこの人混みとなると、喋る気も失せる。この分だと、電車の中も変わらずなのだろう。

「・・・なぁ、空悟。今度はもうちょっと早く来ねぇか?」

「そうだな。早起きできるか?」

「俺は基本寝なくていい体質だから、問題ねぇぞ」

「しのは?」

「寝たい」

「人混みとどっちを優先すんだ?」

「・・・」

「決まり」

 短い会話のもと、俺らは登校時間を早めることにした。

 そうこうしている間に電車が来て、ドアが開くと同時に人が流れ入る。

 と、そのとき人の流れに逆らえずに、俺は2人から離れてしまった。まずい、とは思ったが、電車に乗ったところは見ているし、降りる駅も分かっている。この人混みの中を掻き分けて合流するだけの気力は今の俺にはない。

 電車のドアは無理矢理閉められ、湿度はより一層高まったくせに身動きは一切取れない。

 そんな中で、ズボンのポケットの中に入る携帯が震えた。俺がアウトロウに来たときに杵島以外の奴らと連絡先を交換している。ただ携帯を取り出すだけの行動でも、今の状態では苦しかった。

 何とか携帯を取り出して画面を開けると、受信ボックスに新着メールが入っていた。

 送り主は、葉隠空悟。

 この人混みの中でメールを打ったとは・・・ある意味凄いと思う。俺なら無理だ。

『ちょっと離れたところに来ちゃったみたい。でも、しのとは一緒だから安心して。多岐谷駅についたら、改札前で待ち合わせしよう』

 手の早い奴だ。さすが年上、とでも言うべきか。

 メールの文章的に、返信はしなくていいだろう。多岐谷駅の改札前に直接行けばいいだけの話だ。

 梨緒と一緒ということで、俺は一先ず安心だ。この人混みの中で野放しにするのはあまりに不安だった。

 千歳駅から多岐谷駅までは確か4駅分あったはずだ。

 はぁ・・・退屈だな。