複雑・ファジー小説
- Re: OUTLAW 【第2部 START☆】 ( No.90 )
- 日時: 2013/03/22 14:04
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
俺の制服を見てそう判断したらしい女が、俺に声をかけてきた。
「あぁ。今日から転校するんだ」
「そんな話聞いてないわね。まぁ、一応お礼を言っておくわ、ありがとう。助かったわ」
つい今さっき1人の男を人生のどん底に突き落とした奴だとは思えないほどに妖艶な笑顔で、彼女は俺に頭を下げた。
「いや、俺は別に」
こいつらも俺をあまり怖がらない。変な奴らだ。
「お前大丈夫だったか?」
と痴漢からやっと解放された彼に声をかける。
「あぁ、平気だ。ありがとう」
相変わらず顔は青白いままだったが一先ず安心した。
「ところであなた。さっき撮った写真はちゃんと消してくれたんでしょうね?」
「あ?んなの当然だろ。あんなの保存しといたって意味ねぇし」
「そう、それならよかったわ」
さすがは姫路グループのご令嬢、とでも言うのだろうか。上から目線の憎たらしい口調も、その気品溢れる雰囲気には似合ってしまう。
俺と彼女の話を聞いて、やっと安心したように溜息を漏らす男。確かに、自分が痴漢されてる写真なんて想像しただけでも嫌気が差す。
痴漢騒ぎで気付かなかったことだが、もう2駅は通り越しているらしい。電子掲示板が示す駅は、多岐谷駅の2駅前の名前だった。
「何年生なの?」
「2年」
「あら、私たちと一緒だわ。何組?」
「知らねぇな」
「そういうのは確認しておくものよ?まぁ、運がよかったら同じクラスになれるでしょうね」
随分と大人っぽい彼女は、俺を一瞥してそう告げた。
もう1人のほうは、今まで痴漢をされていた奴とは思えないほどクールな表情を浮かべていて、窓の外の景色を眺めていた。
不思議な2人だ。アウトロウメンバーもかなりおかしいが、こいつらも少しおかしい。
「なら名前を教えておくわ。私は姫路空。こっちは双子の兄の優」
名前を呼ばれたことで振り返った彼・・・優が、話の内容を察したのか俺に軽く頭を下げた。
予想通り双子だったので、そう驚きはしない。今まで俺の近くに双子はいなかったが、多分同じクラスの中にはいたのだろう。関係がなかっただけで。
「俺は矢吹真夜だ、よろしくな」
相手にだけ自己紹介させておくのは失礼だ。
この蒸し暑い電車の中で人と出会うなんて予想もしなかったのだが。
「珍しい名前ね。かっこいいじゃない」
「あぁ・・・よく言われるけど、そんなんじゃねぇと思う」
「そうかしら。人の褒め言葉は素直に受け取っておくものよ」
ある意味こいつは梨緒と似ている。タイプは丸っきり正反対だが、自分の意思を真っ当するところはそっくりだ。
俺はいつから、こんなに人を憧れるようにいなったんだろう。
いつから、普通に憧れてしまったんだろう。
では、
俺はいつから、異常になったんだろう。
人生の歯車を、一体どこで狂わせてしまったのか。
それすらも、分からない。
「じゃあ矢吹も気をつけることね」
「何が?」
「生徒行方不明事件よ。教師から聞かされてないの?酷なことをするわね」
その件に関しては、もう充分すぎるほどに聞いている。だが、転校初日の奴が、在校生より学校の諸事情を理解しているなど不可思議だ。ここは一役買って、知らないフリをするのが最善だろう。生徒たちの間でどういった噂が流れているのかも掴んでおいたほうがいい。
「2年生の女の子がこの間から行方知れずになっているのよ。今回で2人目。最初の子は3年生の女の子だったみたい。どっちも女の子だったから、次も女の可能性が高いけど男の子じゃない可能性もないってわけでもないから」
2年生の女子、とは渡辺香織のことだろう。そこで個人名を出さないのは、一応の礼儀なんだと思う。
「んな話聞いてねぇんだけど」
「でしょうね。でも、ここからは学校でも一部しか知らない情報よ」
楽しむように笑った姫路が少し怖い。
姫路となればその名前を使って他者から情報を聞き出すことも苦ではないはずだ。
「その子、結構勉強面で悪さしてたって噂なのよ。授業では全然問題解けないくせに、定期テストではいつも上位にいるからみんな不審に思ってたのよ。最近やっと、カンニングしているのを見たっていう噂を聞いて。・・・そしたらいきなり行方不明になって、もうびっくりしちゃったわ」
テストのカンニング?
今まで俺がいた高校の奴らじゃそんなの日常茶飯事だったから、あまり気に留めないが私立高校となるとカンニングというのは大問題なのだろうか。
とりあえず、後であいつらに話してみることにしよう。
「それだけじゃねぇよ」
ずっと窓の外を見つめていた姫路が突然割り込んできた。話なんて全く聞いてなさそうだったのに、以外と聞いていたらしい。
そういえば、双子となると女のほうも姫路だし、男の方も姫路だ。どうやって区別をつけようか迷う。
まぁ、クラスが違かったらどうせ少ししか話さなくなるし、別にいいか。
「あら、優が会話に入ってくるなんて珍しいわね。気に入ったの?」
思った通り、このシチュエーションは珍しいらしい。
今考えれば見方によっては女に勘違いされえるこんな奴が、姫路グループの未来の当主なのだ。そう思うと、俺は今凄い奴らと話してるんじゃねぇか?
「気に入ったのは空のほうだろ。初対面の奴に情報を教えるなんて、どうしたんだ?」
「ただの気まぐれに決まってるじゃない」
「じゃあ俺もその気まぐれに乗ってみようかと思っただけだよ」
ひねくれた2人の会話は、見ているだけで退屈じゃなくなる。
「その女子生徒が成績が悪いくせにテストだけ良い点取ってた理由。凄い馬鹿みたいなやつなんだけどな」
少し複雑だった姫路の言葉を要約するとこうだ。
失踪した女子生徒、渡辺香織はシングルマザーの家庭で、母親は日々夜遊びに明け暮れているらしい。
渡辺香織の母親は自分だけに金を使い、渡辺香織は自分の生活費を自分で稼がなくてはならなくなった。
だが、ここで私立高校の規律が邪魔をする。高嶺高校は、アルバイト類が一切禁止だったのだ。
俺だったらそんな校則を破るのは容易いことなのだが、渡辺香織は元々おとなしい子だったため校則を違反することができなかった。
そこで手を染めたのが、なんと売春だった。
見た目だけならおとなしい子が、脱ぐと大胆になる、という誘い文句は結構売れたらしい。1回何円に設定したのかは知らないが、校則違反することよりも酷い状況だ。だが、日々夜遊びをしている母親の手前、そういった価値観は少し他者と違っていたらしい。
そういった事情で、彼女は家にいる時間が極端に減り夜も時間を取られるために、成績優秀だった彼女の成績は急激に右下がりになってしまった。
彼女は自分の売春の話を母親にしていなかったらしく、娘の成績の急降下は母親を怒らせるのに充分の要素だった。
元はと言えば母親に責任があるのだが、そんなの彼女が考えるはずがない。そして、彼女の母親は、渡辺香織にこういった条件を出した。
「成績上位をキープしないと家を出て行ってもらうから」
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