複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【第2部 START☆】 ( No.95 )
日時: 2013/03/27 08:04
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 姫路は口が堅いほうだろうし、俺も言いふらすつもりはない。しかも、姫路は理事長室の前でと言った。つまり、理事長たちでしか知りえないことということだ。なら、一般生徒に情報が流出する可能性は低い。

 行方不明者の1人目のことはよく知らない。もし、そいつも成績が悪い奴だったら、この行方不明事件の標的は成績が悪い奴ということになる。

 ということは、まずは1人目について調べる必要がありそうだ。

「分かった、理人に伝えとくよ」

「よろしくお願いします」

 別に1人目を調べるためには俺1人で充分だ。他の人の手を借りる必要もない。

 とりあえず連絡事項を回すのが先だ。今梨緒に言うとなると、姫路たちにも聞かれてしまう恐れがある。アウトロウの情報を流すのはまずいはずだ。

 社井は笑顔で頭を下げながら自分のクラスへと帰って行った。俺も理人の7組へと向かう。

 高嶺高校は1クラスの教室が馬鹿みたいに広い。1つの校舎ごとに学年クラスは1〜4組が3階、5〜7組が4階となっている。1階と2階は特別教室で埋まっているようだ。

 俺みたいな転校生が目立たないわけもなく、廊下を歩くと視線が痛い。

 普通にしたほうがいいかとはよく思うけど・・・でももうやめられねぇし・・・。

 階段を上がり7組の教室へと着く。

「阿九根理人、いる?」

「保健室だと思うけど」

「そか、ありがとな」

 知らない奴に適当に聞き、理人が教室にいないことを確認する。

 保健室って・・・あいつ怪我でもしたのか?

 2年生の校舎の保健室は美人の保険医がいることで有名らしい。フェミニストのあいつのことだ、もしかしたらそれ狙い・・・?

 不謹慎にそんなことを思いながら、俺は1階の保健室へと向かった。4階から1階へ降りるのは、酷く面倒だったが後の休み時間に行くより時間が長い昼休みに行ってしまったほうが効率的だ。しかも理人はこの後杵島に伝えなければならない。学年も違うのだから時間はたっぷりあったほうがいいはずだ。

 別に疲れたりなんかはしないのだが、本当に面倒だった。

 やっとのことで保健室へ着いて、一番最初に抱いたのが不信感。

 明らかにおかしい。何故、保健室がこんな女の声で満ち溢れているんだ?やけに猫撫で声で気持ち悪いし、絶対的に入りたくなかった。

 本当に理人がここにいるのか?少し見ていないようだったら即座に撤退しよう。

 俺は1つ深呼吸して、保健室のドアをがらっと開けた。

「理人くん、大丈夫〜?」

「うん、大丈夫だよ。ちょっとした掠り傷だから」

「本当?私たちに気を遣わなくていいのよ?」

「むしろ君たちにそんなに心配をかけてしまったことを残念に思うね」

「やだ、そんなの当たり前じゃない」

「そんなこと言ってくれるなんて、嬉しいな」

 ・・・話しているのは理人なのに、それに返事をする女は全員別人ってどういうことだ。

 椅子に座っている理人に群がる女たちは、どれも可愛かったが全体的に梨緒のほうが勝っているように思えた。

 入ってきた俺にも気付かないってどういうことだ、と思いつつ状況を見る。

 確かに理人は怪我をしているようだ。手の甲なんてどうやったら怪我できるんだか。

「あれ、真夜じゃないか。どうしたんだ?怪我でもした?」

「えー、理人くん、この子誰ー?」

「カッコいい、ていうか可愛い感じだね。理人とは違うタイプってゆーか」

「初めて見るー、かっわいいー。ねぇ、お名前はぁ?」

 おい、お前ら。さっきまで理人に夢中だったじゃねぇかよ。生憎俺は、お前らみたいなやつは好きじゃねぇんだ。

「今日入った転校生だよ」

「何で理人と知り合いなのぉ?」

「それは秘密」

「えー、ひどーい」

 うざってぇ、よくこいつ相手してられんな。

 非常に喋りたくないのだが・・・。

「こーら。怪我人以外は帰りなさいって言ったでしょう?」

 と、奥にあったカーテンから、1人の女性が現れた。

 美人って感じで、巻いてある黒髪が妙に色っぽいそこらの発情期の犬ならすぐにでも飛び掛かってしまいそうな危ない女だと思う。俺の好みではないが。

 雰囲気で生徒ではないことはすぐに分かったし、白衣を着ているからここの保険医だということも分かった。この人なら「2学年の校舎の保険医は美人だ」という噂も納得できる。

「いーじゃない、少しくらいー」

「駄目に決まってるでしょう。怪我したのは理人くんだけなんだから、付き添いのあなたたちはもう教室に戻りなさい。昼休みも終わるわよ?」

「けちー」

「和泉先生だけずるーい」

「でも、先生の言う通りだよ。俺も、俺のせいで君たちが怒られるなんて嫌だから・・・ね?」

 何だ、こいつ。フェミニストだとは思ってたけど・・・。

 いやだからと言って引いたりはしないけど、俺には絶対できねぇことだな・・・憧れたりなんかしねぇが。

「うーん・・・理人がそういうなら仕方ないかぁ・・・」

「教室で待ってるからねっ」

 と、最早聞きたくない言葉を口々に言いながら、女たちは保健室を出て行った。

「あなたも大変ね、毎日これじゃ疲れないの?」

「全然。女の子に優しくするのは当たり前ですから。それに和泉さんにこうして癒してもらってるしね」

「あなた変わったわね」

 さすが大人、とでも言うべきか、それとももう慣れているのか、理人の口車に乗らないのは大人の余裕だと思う。

 変わった、と言えるということは、理人は昔はこんな性格じゃなかったということか?・・・どんなだったんだろう。というか、何故それをここの保険医が知っているんだろう。

 和泉という保険医は、消毒液を持ちながら理人の隣へ座った。

 絵になる2人だな・・・と思いながら、その思考が危ないということを悟る。教師と生徒なんて、禁断の恋まっしぐらではないか。

「それで?そちらの転校生さんは、どうかしたの?」

 不意を突かれて話題が飛んできたことに、俺は内心ビックリしながら答える。

「いや・・・理人に用事があって」

「俺に?あぁ、そういうことか。じゃあ待たせてしまったね、悪いことをした」

「あら、駄目よ。まだ消毒終わってないんだから」

 立ち上がろうとする理人を、すかさず止める保険医。

 理人はすぐにアウトロウ関連だと分かったらしいが、傷の手当なら仕方が無い。昼休みはあと数分で終わるのだが・・・、まぁいいとしよう。

「全く。転んだ知らない女の子を庇って壁に掠るなんて。格好がつかないわよ?」

 つまりこいつは女を庇って怪我をしたのか。

 本当に典型的な王子様気質だ。知ってる奴ならともかく、知らない奴なんて。

 こいつはただ、女に極端に優しいだけなのかもな・・・。

「そんなのどうでもいいですよ。女の子が怪我しなくて済んだのなら」

「女遊びが酷いと後悔するわよ?女は怖い生き物なのだから」

「嫌になる程知ってますって」

 そりゃこんだけ女といれば分かるだろうな。

「転校生くん、お名前は?」

「あ、えと、矢吹真夜です」

「あら女の子みたいね」

「・・・よく言われます」

「可愛いわ」

「・・・よく言われます」

 くすくすと先生は笑いを殺す。

 何だか高嶺に似てるな・・・ムカつくとことか、妙に色っぽいとことか、ムカつくとことか。

「私は第二学年養護教員早乙女和泉よ、よろしくね。和泉先生って呼んでね」





























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