複雑・ファジー小説

Re: OUTLAW 【第2部 START☆】 ( No.99 )
日時: 2013/03/27 22:25
名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)

 和泉、というのは名前だったのか。確かに名前で呼ばせたほうが親近感は沸くだろうが・・・何となく先生とだけ呼ぼう。

「はい、できたっ」

 バシッ、っと、先生は手当てを終えた理人の手の甲を勢いよく叩いた。

 痛そう。今のはやってよかったのか?保険医として、・・・人として。

「いって・・・・」

 当然、理人は痛がって顔を歪めたのだけど・・・さっきまでいたうるさい女たちが今のを見ていたらきゃーきゃー言うだろうと思った。

「じゃあ、手当ても終わったことだし、2人とも帰ったほうがいいわ。話は私がいないほうがいいんでしょう?歩きながら話しなさいな」

「え」

 何でこの人は、俺らがする話が人に聞かれちゃまずいということを知っているのだろうか?

 その疑問を察してくれたらしく、先生はにっこりと笑いながら言った。


「だって、その様子だと矢吹くんもアウトロウなんでしょう?」


「な・・・」

 驚いて理人を見ると、未だに叩かれた手の甲をさすっていた。余程痛かったのだろう・・・いや、そうではなく。

 何も気にしていないようだが、いいのだろうか。アウトロウのことはあまり言うな、と言われていたのだ。

 そんな俺の動揺しきった様子も、先生には面白いらしく必死に笑いを殺していた。何なんだよ、一体。

「慌てなくて大丈夫よ。私は真と同級生でね、何かと聞かされているの。アウトロウの関連で怪我をしたときとか、逃げ込みたいときとか、普通にここを利用して構わないわ」

 俺はまだ仕事内容については一切よく分かっていないが、怪我をする際があるらしい。確かにそういうとき、家まで帰るのは些か面倒だ。保健室を使えるのはありがたいと思う。

 高嶺の奴はそこまで手を回していたのか・・・本当、侮れない奴だな。

 その時丁度よくチャイムが鳴って、俺の思考は妨げられた。

「ほら、怒られるのは私なんだから。早く帰りなさい?」

 先生は急いで俺らを保健室から追い出し、ドアに手をかけた。

「先生、今度はもうちょっと優しくしてね?」

「あら。あなたは痛いほうが好きなんだと思ってたわ」

 意味を間違えれば危ない会話を交わして、先生は俺らににっこりと笑いながら手を振った。

 理人は手を振り返していたが、実際それはあるまじき行為のはずだ。どうしていいか分からず俺が軽く頭を下げると、これまたあの先生はくすっと笑った。

 あまり好きにはなれないタイプの人だ・・・と思いつつ、俺は理人と一緒に廊下を歩き出した。

「随分時間を取らせちゃったね」

「いや、全然平気」

 授業に遅れるなんて俺にとっては日常だ。別に気にすることもない。・・・あぁ、俺は今日が初登校日だったのか。・・・まぁいいか。

「それで?何かあったのかい?」

「あぁ。行方不明者がまた1人増えたらしい」

 その瞬間から、理人の雰囲気が変わる。

 俺はまだこいつと2日しか一緒にいないが、こいつは二重人格なんじゃないかと思うときがある。

 女の子の前とかじゃ凄く優しい王子様なのに、アウトロウの仕事となると酷く冷たい厳しい目をする。

 理人だけではなく、他の奴にも当てはまることだが・・・多分それほど今までこいつらがしてきたアウトロウの仕事は危険なものだったんだろう。

「3年の如月・・・美羽って言ったっけかな?」

「え、水泳部の?」

「知り合いなのか?」

「んー・・・まぁ、ちょっとは」

「?」

 不可思議な受け答えに俺は首を傾げることしかできない。

 その様子を見て、理人は少し考えたあと小さく溜息を漏らして口を開けた。

「たまに夜、誘われてただけだよ」

「誘われ・・・」

 言葉を繰り返そうとして、続かなかった。

 社井が言うには、確か如月美羽は毎晩違う男を連れ込んでいた。そしてその連れ込まれていた男の中に理人がいたということになる。

 別にもう中学生のガキじゃねぇから、何も思わないし引きもしない。理人がそういう人種だったというだけだ。嫌いにもならない。・・・まぁ、ちょっと驚いたけど。

 先生が言ってた、女遊び、とはこういうことだったのか、と心の中で結論付ける。

「勘違いをしないために言うけど、決して抱いたわけではないよ」

「え」

「やっぱり。真夜は意外と変態なのかな?」

「今の流れだったら誰でもそう思う」

「だよね。・・・彼女の両親は共働きでね、小さい頃から寂しい思いをしていたらしい。だから夜1人でいることに耐え切れないんだ。で、そのためにただ一緒にいる話し相手ってところさ。僕1人じゃないはずだよ?」

 話し相手。

 なら、空悟から回ってきた情報にはデマが入っている。如月美羽は抱かれたりなどしていないのだから。

「まぁ、噂ではいろんな人に抱かれてるってなっちゃってるけどね。でも、そうか・・・次は彼女が・・・」

 やはり噂は当てにならないな。確かに家から毎晩違う男が出てきたらそう勘違いしてもおかしくはない。第一俺もついさっきそう思ってしまったわけだし。でも、ただの話し相手となれば、話は大きく違ってくるはずだ。

「やっぱり、ターゲットになんのは女なのか?」

「そうかもしれないね。僕としては許せないけど」

 そこらの男子より女に優しい理人だ。女ばかりを狙った行方不明を、快く思うわけがない。

「にしても、美羽ちゃんは、3年5組だったね。確か黒宮綾さんも3年5組だったはずじゃ・・・」

「黒宮さん?」

 聞き覚えのない名前に反応し、聞き返すと理人が思い出したかのように饒舌に話し出してくれた。

「そういえば、真夜にはまだ話していなかったね。この生徒行方不明事件の第一被害者だよ。3年生の黒宮綾。才色兼備って感じでかなり目立ってたんだけど、彼女、結構問題があるらしくて。よく停学になるから学校ではあまり見かけないんだ。この間やっと停学処分が解けて、久々に学校に来たと思ったら翌日行方不明・・・もう、みんなビックリだよ。でも、彼女の両親はもういないらしくて一人暮らししてるらしいから捜索願は出されていないんだけど、学校としては生徒ということに変わりはないから彼女のことも探しているみたいなんだ」

 調べようと思っていたことが、一気に分かって俺としても少し驚いた。

 でも、才色兼備ということは、彼女の成績はよかったということだ。
となると、行方不明者のターゲットが、成績の悪いもの、には絞り込めない。

「んで、その黒宮綾と、如月美羽が同じクラスなのか?」

「あぁ、そのはずだよ。黒宮さんと美羽ちゃんは、2人とも3年5組のはずだ。ちなみに渡辺香織さんは2年6組だったかな」

 クラスは・・・何か関係があるのだろうか。

 3年5組と2年6組に共通しているものがあり、尚且つこの3人の均一性が分かれば、すぐに解決できるはずなんだけど・・・。

 ・・・でも、待て。確か黒宮綾には問題があると言っていた。いくら成績が優秀でも、問題を起こしていたとしたら、それはどうなるのだろうか。

「なぁ、黒宮綾って奴はどんな問題をしてたんだ?」

「真夜は真面目なんだね」

「え?」

 いきなり突拍子もない方向に話題が逸れて、つい声をあげてしまった。
































黒宮綾ちゃん、登場です!w