複雑・ファジー小説

平行世界編 プロローグ「しょうねんのおはなし」 ( No.1 )
日時: 2013/02/11 19:06
名前: せぷてむ ◆9FXqrrTuEc (ID: qXcl.o9e)

 ——生まれてはじめて「友達」ができました。
 いつもいつも、「病室」というまっしろなお部屋にとじこめられていたぼくにとって、「友達」ができるなんて思っていなかったのです。
 いつもいつも、「友達」にあこがれていました。絵本のなかで知った「友達」に……

 毎日たいくつでした。ベットに一日中ねころんで、身体中のあちこち居たくてたまらなかったある日、ぼくはあの子と出会いました。「病室」をまちがえたそうです。あわててあやまったあの子はすぐぼくの「病室」から出ていきました。少し、さみしかったなぁ……
 それからちょっとしてからまたあの子がやってきました。僕はうれしくてうれしくてたまりませんでいた。あの子はたくさんお話してくれました。「お外」のことをたくさんたくさん。
 そうして、僕たちは「友達」になったのです。


 ——それから数年。
 日に日に身体が壊されていく。毎日毎日心臓が痛くて苦しくなる。目なんて殆ど見えないし、耳も悪くなった。
 嗚呼、僕はもう終わり?
 神様は不公平だ。どうして、僕がこんな目に……
 あの子と一緒に「外」に出たかった。
 あの子と一緒に「海」を見に行きたかった。
 あの子と一緒に、一緒にっ!


 ——僕に生きる意味なんて、価値なんて無かった。



「ねぇ、せーちゃん」
 あの子の声だ。何故だろう。凄く安心する……
「私ね、しばらく此処に来れないんだぁ……」
 どうして、そんなにも声が震えているの?
「でもね…… 次会うときには、ね、病気、治って、るよ……」
 ありがとう。でも、無理だよ。僕はもう——
「せーちゃん、大好きだよ……」
 嬉しいな、君にそう言って貰えるなんて……
「だから、また会おうね……


 ——バイバイ」


 僕の中で、全てが崩れ去っていった気がする。









 ——生きたいのなら強く、強く望め。







 薄れ行く意識の中で、最期に聞こえた声はあの子に似ていた——