複雑・ファジー小説
- Re: とある天才のイミ ( No.25 )
- 日時: 2013/03/12 21:45
- 名前: せぷてむ ◆9FXqrrTuEc (ID: Z6QTFmvl)
- 参照: 久々のこっうしーん♪
ぽたり、と下駄箱から出たときに雫が落ちてきた。その雫に続くようにして沢山落ちてきた。もともと雨が降りそうだったけど、帰りに降るというなんともタイミングの悪い事。天気予報じゃ曇りだったのだが、いつも折り畳み傘を持参している私にとってはなんの問題でも無い。それは一緒に帰るワカナもで。
「いやー、まさか折りたたみ傘が使う日が来るなんてね。思ってもなかったよ」
「そりゃあ、雨が降る日は普通の傘持ってきているしね。当然でしょ」
「そうだねー」
それから学級での愚痴を言い合う。お互い学級委員として苦労しているのだ。……先生に怒られる回数とか増えて。
「ねぇねぇー、誠って……」
「笑ってない」
最後まで言わなくても「誠」の言葉で何のことなのか解る。それぐらい、毎日質問され続ければ自然と解るものだ。だから、そんな驚いた顔をしないで欲しい。
「笑わないのってさ、ある意味不気味だね」
「まあ、そうなるわな」
「どうすれば笑ってくれるんだろうね」
「私が聞きたい」
笑うときは基本自分が楽しいとき嬉しいときだ。誠にとっての笑う理由とはなんだろうか。命令すれば笑ってくれるのだろうか。私は見たい彼の笑顔を。表面上じゃない、本当の笑顔を。
とわいえ、彼は”アンドロイド”喜怒哀楽の感情があるわけないだろう。私の、世間の決め付けだが、無いと思う。ジュントのようにあんな綺麗な事は思わない。所詮アンドロイドは”機械”なのだ。機械に感情など存在するわけ無いだろう。
——でも、誠には感情があって欲しいと思っている自分も居る。矛盾しているのだろう。そう思うと自然に笑みが浮かんでくる。自分を嘲笑うように。
「ナツミ、変だよ」
「私が変なのはいつものことでしょー」
「うん」
「そこは否定して欲しかったなー」
「えー」
こんなやり取りもいつものことで、でも飽きない。それからゲームの話だったりした。凄く盛り上がった。ゲームのキャラがイケメンすぎて、誰を嫁(夫?)にするかとか、告白シーンの台詞で盛大に吹いたとか。
「誠に言ってもらったらー?」
「ゴメン、それで逝けるわ」
「なんか、いくって言う意味が物騒な気がするんだけどなー?」
通学路は近くに高校があるので高校生とすれ違う可能性がある。女子高生のスカートの長さが短すぎると思う。足が綺麗な子はいのだが、太い人のミニスカなど誰も望んではいないだろう。私は思う、馬鹿じゃないのかと。何をそこまでして制服を短くするのか。
そんな女子高生の集団が少し遠くに見えた。これまた黄色い悲鳴合唱で耳が痛くなりそうだ。その中心には紺色の傘。背の高さ的に男の人だろう。これで大体の事は予想つく。
「えーと、物凄いイケメンが居たから群がっている馬鹿女の図だね〜」
「さらっと酷いこと言うなよ、ワカナ」
「事実だよ?」
事実を否定など出来ないが、なんかワカナが言うのは少し違和感があった。こいつは腹黒いからか。
イケメンであろう中心人物の周りに次々に群がる華麗な蝶達……だけでなく蛾のような女の人も群がっている。哀れ、イケメンさん。
しかし困った。これでは帰るのが面倒じゃないか。あんなにも集まっていたら通行の邪魔だ。轢かれればいいのに。
「あ……あの真ん中の人って」
ワカナが言うので中心人物を再度見ると傘で隠れていた顔が見えた。整った顔立ちに真っ赤な髪、紅玉の瞳は——まさに、誠だ。よく見れば私の長傘を持っているのがわかる。まさか迎えに来てくれたのだろうか。嬉しいのか胸が高鳴る。
「誠だ」
「やっぱり? なんかデジャヴ」
「よし、行くぞ」
「どっどこに?」
その震えようから何処に行くか解っているのだろう。なら聞かなくてもいいじゃないか。でも、あえて言う。
「あの集団の中に!」
「ですよねー」
君に拒否権は無い。それを理解しているのか嫌々だが着いて来てくれる様だ。ありがとう、今度クッキー焼くね。
私は誠のもとへ走り出した。