複雑・ファジー小説
- 番外編2 ( No.47 )
- 日時: 2013/03/16 17:49
- 名前: せぷてむ ◆9FXqrrTuEc (ID: Z6QTFmvl)
- 参照: 今更だけど、キャラクター紹介が無いのは仕様なの
「あのさ、あんまり親しくない私に言うのもアレだと思うけど……」
気まずそうに目をそらしながら柊さんは言う。
「何があったか、話してくれない? その方が気が楽じゃん」
俺は言うべきなのか言わないべきなのかかなり迷った。でも、誰かに聞いてもらいたかったこともある。だから全て話した。
柊さんは親身になって聞いてくれた。
「みんな酷いよね。スカウトを受ける受けないは村井君の勝手なのに」
俺の味方になってくれた。それが嬉しかった。
「でも、君も辛かったよね。誰にも言えなかったんでしょ? これからは私になんでも相談して!」
誰かにずっと言ってもらいたかった事を彼女は言ってくれた。悲しくは無いのに、涙が溢れてきた。拭っても拭っても溢れてくる。
「え、えぇえええ! ちょちょちょ、どうしたの!? 私なんか酷いこと言った? わわわわわ、ゴメン、ゴメンってば!」
「ち、違う。悲しいわけじゃ……」
自分でもかなり情け無い声だった。
「……そっか、そんなにも辛かったんだね〜、よしよし」
子供をあやす親のように背中を擦ってくれた。柊さんは本当に同年代なのだろうか、俺のことに気付いてくれた。
「落ち着いた?」
「……ああ」
「いや〜びっくりだよ。急に泣き出すんだから〜」
「ば、忘れろっ!!」
泣き顔を見られたのが恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがない。畜生、泣くんじゃなかった。
「あ、帰らなくて大丈夫?」
「あ」
忘れていた。俺、すっかり家を飛び出してきた事を忘れていた。
「え? 村井君って意外と……馬鹿?」
「ちげぇよっ!!」
「あははー本当、君って面白いやー」
人をからかうように笑う柊さん。それでもその笑顔が可愛いと思う俺は異常なのだろうか?
「んー、”村井君”ってなんか堅いなー」
何が堅いのだろうか。
「よし! もう泣き顔見ちゃったことだし君の事をジュントって呼ぶよ! 泣き顔見ちゃったし!!」
「2回も言うな!!」
恥ずかしい、泣き顔を見たことを何回も言わないで欲しい。そして、別の意味でも恥ずかしかった。何故だ? 名前を呼んで貰っただけなのに。
「まーまー、私のこともナツミでいいから! はい、おあいこ」
胸が高鳴った。本当に何なんだよ。
「さ、帰るよーだから家教えて」
「え」
「教えろ」
「はい……」
柊さん、ナツミの低い声では逆らえる気がしなかった。マジで怖かった。
帰り道、ナツミは機嫌がいいのか知らないが鼻歌を歌っていた。俺が知らない曲。なんの曲かと聞いたら「ヴォーカロイド」の曲だそうで。……今度聞いてみよう。
それから、他愛も無いことで盛り上がった。意外にもバスケの話で盛り上がった。ナツミは少しだがバスケに興味があるそうで。
家の前に着いた。ナツミは「一緒に玄関まで行こうか?」と言ってくれた。しかしこれは俺の問題、巻き込むわけには行かない。
「そっか、じゃあ頑張って」
「ああ……」
「また明日ね〜」
ナツミの背中が見えなくなるまで、俺は見ていた。それは家に入りたくないのか、ナツミを見て居たいのか解らなかった。
俺は覚悟を決め、家に入った——
*
「懐かしいよな〜」
「何が?」
「俺とお前の出会い」
「あー、派手に泣いたやつだねー」
「ば、それを言うなよ!!」
「えー貴重な泣き顔だったのに〜」
それから、ナツミのおかげで朝霧さん——ワカナ、宇佐美——ユーマとも親しくなり、今では4人で居る事が増えた。そして、あの時わからなかった事が解った。
「ふんっだ」
「餓鬼かよ……」
「うるせえ、この鈍感!!」
「ハァ!? 私アンタより反射神経いいのに!?」
「そういうことじゃねぇえええ!!」
鈍感なナツミに俺の気持ちがわかってもらえる日は来るのだろうか……
オワレ