複雑・ファジー小説

Re: とある天才のイミ ( No.58 )
日時: 2013/03/16 22:29
名前: せぷてむ ◆9FXqrrTuEc (ID: Z6QTFmvl)


「!」
 誠はまたもや驚いた顔をした。ほら、きっと心が在るからそんな顔をするんだよ。できるんだよ。

「……」
 急に真顔になり黙り込む。いきなりの事でどうすればいいのか焦ってしまう。私何か気に障るようなこと言ったのだろうか?

 誠はふぅ、と息を吐き出した。そして呼吸を整える動作をした。全てが絵になる動作で見とれてしまうほどだった。

「ナツミ……」

「はいっ!?」
 いきなり名前を呼ばれてしまったのだから声が裏返ってしまう。少し、恥ずかしくなる。


 誠は少し顔を伏せてからスッと右腕を差し出した。右手首には包帯が巻かれている。……ほどいて右手首を見てもいいと言うことだろうか。

「後悔しないな? この醜い右手を見ても」
「う、うん」
 パッと顔をあげたら生気のこもった目で私の2つの目を見る。彼の紅玉の瞳は綺麗だ、生気を宿しているからか世界で1番美しい宝石のように。
「なら、見てくれ……」

 おそるおそる、包帯を外す。包帯を外したら見えたのは——

「ッつ!?」
 彼が”機械”で在ることを表すかのように、細いパイプやらナニカの装置が見えていた。アンドロイドの皮膚がその右手首の部分だけ無かったのだ。
 ——おぞましい。気持ち悪い。見たくない。
 沢山の言葉が溢れてきた。でもその言葉の全てが彼を傷つけてしまう言葉だ。言い出しそうになるのを堪える。世の中には言っていいことと悪い事がある。

「醜いだろう? これのせいで俺は”不良品”扱い。”失敗作”と罵られ、処分されるはずだったのにそのまま売り物になった。売り物になった後も、他のアンドロイドからも罵られた。人間からも気味が悪いって言われた。ある人間なんて、気分を害したからって殴ってきたんだぞ? 勝手だと思わないか? おかげでプログラムがひとつ壊れたんだ。それは何かって? 営業スマイル(愛想笑い)だよ。だから笑わないんだ俺は! いや、笑えない。俺は他のアンドロイドとは違う最悪な出来なんだよ! ——そんな俺をどうして買ったんだ?」

 誠が此処まで喋るとは思わなかったし、なによりこんな事を思っていたなんて思わなかったから驚きで言葉が出ない。

「同情? 安いから? 唯一優れている顔? 性能?」
 まるで狂った人形のように聞いてくる。アンドロイドって一体何なのか理解できなくなってきた。

「心が在るなんてそんなわかりやしない! 証拠なんて何処にもないじゃないか! 俺を利用するために綺麗事を言っているのか?」

 なにかの羽目が外れたのか、今まで溜めてきたのであろう思いを全て吐き出す誠。その姿が先ほどまでの絵に描いたような美しい少年とは同一人物とは思えないほどの変わり様だった。


「違うっ!!」
 私は彼の言葉を否定するため声を荒げた。
「心が在るって言ったのは本当に思った事だッ!! じゃなかったら、なんでそんな悲しそうなんだよッ!! 綺麗事なんて正義のヒーローにでも言わせておけよ!! 私は、綺麗事なんか


 ——大嫌いだ」