複雑・ファジー小説
- 第3話「存在理由」 ( No.68 )
- 日時: 2013/03/20 18:55
- 名前: せぷてむ ◆9FXqrrTuEc (ID: Z6QTFmvl)
- 参照: 少し、グロイかも知れないのだよ
絵に描いたように美しい笑みはきっと殆どの人が惚れてしまうようだった。が、誠はアンドロイド。人間ではないのだから私は惚れてない。そう思いたい。
「にしても、コレさえなければいいのにな」
右手首を見て誠は眉間に皺を寄せた。包帯で隠していたがそれでは何か不自然だ。腕を隠すと言ったらリストバンドぐらいだが……って、あるじゃないか。誕生日に買って貰った私の腕には大きいリストバンドが。
「ちょいと待ってて!」
ダッシュで自分の部屋に戻り、引き出しを漁る。整理していないせいで散らかっている。しかしリストバンドだけは大事に箱にしまってあるのですぐに見つかるはずだ。
「……あった!」
黒い手のひらより少し大きい箱を取り出す。その中にあったのは誕生日に買って貰った——桜が刺繍されている黒いリストバンドだ。
誠ならこのリストバンドが似合うだろう。大きくてあまり着ける事も無かったから良かった。
「誠! コレを着けて!!」
再びリビングへ走る。下の階あたりからクレームが来るんじゃないかと思うが気にしてはいけない。
「リストバンド?」
「そう、コレを着ければ隠せるよ」
「……そうだな」
早速着けた。丁度あのおぞましい部分は隠せれたようで満足のようだ。そして、かなり似合っている。似合いすぎている。良かったねリストバンド。似合う人に着けて貰えて。
「ありがとな」
本日2回目の笑顔。はい、いただきました。美味しすぎました。
「あー、さて、私はさっさと宿題を……」
ガシャッ——
「っ……」
すさまじい大音声で思わず耳を塞ぐぐらいの何かが壊れる音がした。外からしたようで私達はベランダに出る。お隣さんの人も同じくベランダに出ていた。
「あら、ナツミちゃんと誠くん」
とても顔の整った、優しい藍色の眼の人。思わず”女の人”と間違えてしまうぐらい綺麗な顔の人。誠が来てからもかなりお世話になった。そして、誰かに似ている。どこかであった誰かに似ている。
「あ、信さん。何があったんですか?」
「それが解らないのよ、ここ11階だし。何か落とされたのよ」
「なら、下に行くか」
私達は急いで1階へ行った。エレベーターに乗ったのだが意外にも時間がかかる。誠と信さんじゃ階段でも平気なんだろうけども、私は運動神経0なんで階段なんて無理だ。絶対。
エレベーターで1階についた頃には入り口付近に人だかりが出来ていた。その中にジュントの叔母さん——管理人が居て、何が起きたのか尋ねた。
「恐らく屋上からアンドロイドが落ちてきたのよ。早く業者が持ってかないかしら……」
屋上からアンドロイド?
疑問に思った。確かにアンドロイドは鉄の塊だ。でも、なんで屋上から落ちるのだろうか。主の命令か、それとも落とされたのか。気になって仕方ないので人だかりの方へ足を進める。
人を掻き分け、アンドロイドのもとへ移動する。幸い私は背が低いのですぐ移動できるのだが、誠達はそうはいかなかった。そして、可哀相な事に今度は彼らのもとへ人……女の人が集まった。男の人はヤレヤレと去っていったが。イケメン爆発しろって声が聞こえそうだ。
残された私とアンドロイド。倒れていたアンドロイドは——珍しい女形だった。あまり知らないけど女形アンドロイドはあまり生産されていない。確か——造りにくいからだそうだ。何で造りにくいのかというと……解らん。
アンドロイドは身体が壊れていた。腕からはパイプや銅線が飛び出していた。足と同体は離れている。流石に血は出ないようだ。が、幸い顔は壊れていなかった。シルクのように艶やかで美しい淡い緑色の髪に、小さな唇。鼻は高すぎず低すぎず、横から見れば完璧なラインを描いている。眼は——辛うじて開いていた。エメラルドのような綺麗な瞳……でも輝きは失われていた。
「……可哀想に」
ポツリとこぼした言葉にアンドロイドは反応したように思えた。