複雑・ファジー小説
- Re: 【イメージ曲募集中】人魚姫の幸せ【シリアス】 ( No.23 )
- 日時: 2013/03/15 16:16
- 名前: 雄蘭【ゆうらん】 (ID: DzlMUhcv)
【No,Sixteen】
他愛の無い話をしている中、突然、ピピッと携帯の着信音が鳴り始めた。
如何やら携帯の持ち主は愛華の様だ。
慣れた手付きで、携帯をロングコートのポケットから取り出す愛華。
「…仕事の依頼?」
「ん、そうです」
「大変だね、"殺し屋"っていうのも」
「其れが仕事ですから」
「ツンツンしちゃってー」
「じゃあ、私仕事行きます」
「ちょっと、無視しな…」
「此処に料金は置いておくので」
「ちょっ…」
「では」
「…待ってよっ」
強く腕を引かれ、愛華は思わず店主の方に振り返った。
すると、何か生温かく柔らかいものが、愛華の唇に触れ、離れなくなった。
唇が重なり合う中、不意に愛華の口内に舌が侵入し、熱が広がった。
初めてでは無いキスだったが、愛華にとって其れは、細い糸を切るのには十分過ぎる行動だった。
「…っん……」
微かな吐息が薄暗いバーに響き、官能的な雰囲気を引き出している。
そんな時、愛華が力いっぱい店主を押し退けた。
「……はっ…」
「どーしたの?」
「…………———」
「寂しそうだったから俺が埋めてあげたのに」
「…ふざけんな」
「え?もう一寸大きい声で…」
「…最悪……」
決して大きい声ではないが、愛華の声は店主にも届いていた。
店主が一瞬だけ見た愛華の表情、何とも悔しそうで悲しそうな、とても複雑な表情だと、誰もが分かるだろう。
今にも涙が零れそうだった瞳は、しっかりと店主を捕らえており、憎しみが店主に突き刺さった。
「あ」
唇を指先でなぞりながら、愛華は駆け足でバーを出て行った。
一人残された店主は、近くに在った椅子に腰掛けた。
そして、小さく呟いた。
「…其処まで嫌だったのかよ」
少し罪悪感が篭められた声で、そう言った店主。
其の表情は、確かに何時もとは違い、とても苦しそうだった。
【もう世界が嫌いになって、此れ以上無い程】