複雑・ファジー小説

Re: 第二章・異世界勇者〔異世界武具屋〕 ( No.211 )
日時: 2013/06/19 20:33
名前: 通りすがりの俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: HR/cSb0.)
参照: https//

とにかく走れ、それが俺たちに課せられた使命だった。
とにかくとにかく、道が道と思えなくなるほどに走った。
頭の中には先程の化物の高笑いと自分たちを逃がしてくれたリックの顔が浮かぶ、その光景を召喚されし勇者、秋堂雄哉が自覚した頃には自然に笑いがこみ上げていた。

何が勇者だ、こんな学生の手では誰一人と救えない、寂れた街も、くたびれた顔をした兵士も、たった一人の人間も、だが彼らは自分のことを勇者と呼ぶ。それを鼻で笑いたい、自分は勇者なんていいものではなく愚者がお似合いである。あの化物を目の前にして体は震え固まった、それだけで戦場では死を意味するとわかる。こんなみんなが精一杯頑張って揃えてくれた装備は新品同様で自分とあっていないなんてすぐにわかる。

なんで、自分だったんだろうか、きっと勇者とかならもっとふさわしい人が大勢た、少なくとも俺が勇者だというのなら。今にも俺の足は止まりそうになる、勇者の補正があるというのにこのざまだ、確かに日本にいた頃よりははるかに走れている。走るなんてせいぜい5kmが限界だった、だからその倍近くは走れている今の状況を見たら「成長している」なんて思われるがこれは補正のおかげ、魔法が使えるようになったのも努力ではなく補正のおかげ、そう考えるといからものが逆流してしまいそうになる、それを必死に口で抑えて表情に出さずに息を整え冷静なふりをして美鈴たちに声をかける。正直吐き出したかった、吐き出して素直になりたかった。日本にいた頃は素直になれた、ただの学生Aだ、許された---だが今は違う、周りは期待の目で俺を見る、この状況を救ってくれる神として俺を見ている。
だから俺は

「スピード上げるぞ!」

弱音を吐かずに走り続ける、それが勇者として召喚された俺の役目、戦闘として活躍できないのなら救援を呼ぶものとしていち早くギルドに戻る必要があるのだ、だから頑張れると自分に嘘をつきほんの少しスピードを上げた。

---ついた、ギルドの大きな扉を走りの勢いに乗せて開く、そこにはギルドの規約を説明してくれたギルド長、セントリアが腕を組んで口角を釣り上げていた。

「きゅっ、きゅうえがリックりっくさん化物に襲われてりりっくさんが」

「まあまあ落ち着くが良い、既に伝わって戦力を集めておる」

走り続けて混乱していた雄哉の声を右から左に聞き流したセントリアは右手を何人かが立っている依頼板(依頼を記載しておくための物だ)の方へ向けた。全員が全員初対面である。だが強いという確信があった、それを確認して安心したのか急にまぶたが重くなり雄哉はそこに倒れふした。美鈴たちはギルドについたと同時に倒れていて扉には三人の汗だらけの体が死体のように並んでいた。それを中に入れてギルドに備え付けてある毛布をかぶせたあと、セントリア率いる一団は目にも止まらぬスピードでギルドから消え去った。



走れ、そう命じられて数分がたった、相変わらずスピードは緩められることなく後ろからなんかすごいこええ剣を持った騎士さんが少しチクチク背中をさしながら追い立てる。どうしてこうなったと言いたい。
さっきまで牢屋から出さなかったくせにいきなり連れ出されて「走れ」だ、ずっと動かなかったから少しなまり始めていた体力をゴリゴリと削ってくる。俺を含めて数人が走っていたのだが俺以外は既に肩で息をしている状態だ。一緒に走っている方々はどっかで見たような気がするなーと疑問に思っていて先ほどわかった。この人たち全員武具関係だったり加工系の職の方たちである。他の人が見られないところを見ると加工職人を欲しているらしい。確かに人から奪ったのをそのまま使っているようなところだ、加工技術が低いのだろう。

だったら布告起こす前に勧誘とかしとけよと思う。まあいろんな部族が混ざり合っている新しい国だから情報伝達もうまくいっていないのだろう思う。そんな時、背後から爆風と共に強烈な風が俺たち一段を襲って吹き飛ばされかけて転びそのまま地面に体をつけた、なんだと思い風が来た方に体を向けるとそれはなんといっていいのかわからない光景であることは確かだと理解した。

「砦が...襲撃を受けている?」

俺たちが今までいた場所が燃えていた、そんな幻想的とも言えるような光景に息を飲んだ「あそこにいた奴らはどうなった?」考えたくもない、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。すると背後から体制を立て直した騎士から視線を向けられてすぐに走り出す、世界一と言われている武具屋ガンジは現在も絶賛捕虜中であった。