複雑・ファジー小説

Re: 第二章・異世界勇者〔異世界武具屋〕新企画 ( No.248 )
日時: 2013/08/24 17:32
名前: 藤桜 ◆iyaXancGb6 (ID: K6n4/LVf)
参照:



 
 変形性カタストロフィー




 

 奇特な少女が、いた。
 真面目で大人しく素行も良く、目立たなく成績も悪くない、あまり他人の印象に残らない類の女の子だ。しかし、彼女は自らの所属する集団故に周囲から奇異の視線に晒され危篤の烙印を押された。

 造形学校、武具製造科所属。謚皇霞。

 決して数が多い学科ではないが、入るくらいで奇特と言われる学科ではない、問題はそこに女子が、小柄でおよそそんなものとは無縁な、儚げな少女が第一希望で入ったこと。

 「私は、武器という物の、人を傷つける側面に置ける武器を目の当たりにしました。その時、感動を覚えました。元々は酸化した土塊や石塊にすぎない物が、何故あんなにも鋭利に人を傷つける形を為したのか、何故あんなにも容易く人を両断し得たのか」

 彼女の自推聞の一部を抜粋してみた。
 彼女は、土塊が人を殺す神秘を熱弁した。他の学生には見られない熱心さで。

 「曲刀は、人を撫できることに適した形になっており…」

 人の多い往来の端により熱心に分厚い本を読んでいる彼女こそが、その奇特な少女に他ならない。長く重たげな黒い髪の彼女はその容姿一つ取っても没個性で、賑やかな往来に溶け込むことも、かと言って浮き立つこともなく歩いていた。

 「…わっ…」

 「あ、ごめんね?」

 あまりにも本に集中していた為に向から歩いてきた人とぶつかった。すみません、と謝ろうと視線を上げて、彼女は硬直した。
 緑色の服を着た軍人だった、小柄な皇霞と比べれば幾分か背の高い。その軍人の右肩に気付かずにぶつかったらしい。
 珍しい事だ、ぶつかることはしょっちゅうだが、軍人とぶつかったのは初めてだ。何せ、軍人というのは周りに注意して行動する事が習慣付いているから。

 「すみません…」

 掠れた声が出た。軍人はそれを脅えと解釈してか皇霞に笑み掛ける。

 「往来で本を読むのは気をつけた方がいい、危ないからね」

 言い切ると軍人は皇霞から「はい」の返事も聞かずにその横を過ぎ去った。何度見てもその黒髪黒目の軍人の右眼は異質な紅を称えていた。

 「葉擦さん!」

 直後、茶髪の、黒い軍服を着た青年が皇霞の脇を通った。失礼、と一言言って先程の緑の軍人に並ぶ。

 「はずれ、さん」

 黒い軍服の青年の言った言葉を反復する。綺麗な紅眼をした軍人の名前。

 二人の軍人はさっさと忘れても、皇霞にとって忘れがたい出来事。