複雑・ファジー小説
- 第11話 魔の術 ( No.12 )
- 日時: 2013/03/25 15:00
- 名前: 聖木澄子 (ID: b5YHse7e)
「んー、あと何が残ってたっけ」
相変わらず自分の机に座り足をぷらぷらさせつつ、エルがンーと可愛らしく小首を傾げた。と、アイルがふと思いついたように「エル様、歴史についてはお話されたのですか」と言う。歴史……よけいなことを。
「ああ、そだね。それがあった」とにっこり笑むエルを横目に、俺は内心げっそりしていた。日本史世界史は苦手科目である。
「んじゃー歴史の講師は——そうだなぁ、"あれ"もあることだし、ツバキにやってもらうかー。ちょっと待ってね」
あれ、とは。疑問として口に出す間もなく、彼女は懐からトレードカラーを示す紫色の携帯——ここでも電波は通じるらしい——を取り出すと、ぴょんと机を降りて部屋の隅へと引っ込んでいった。その間暇なので他の四人と話すことにする。
「なぁ、四人はそれぞれ戦うのに何使うんだ?」
「武器のことぉ? 私は弓よぉ」
俺の隣に腰掛けるマリアさんがおっとりという。弓、か。RPGによっては射るのに使う矢はどこから湧いてくるのか買わなくてもよかったり、ターン制であれば——どの武器でもいえることだが——番えるラグも無い。だが現実問題、矢は消耗品だし、番える際のラグもあるだろうし、少なくとも戦闘に使えるシロモノではなさそうだなと考えていたのだが。
「ふふ、弓ときくと大概の子がそういう顔するのよねぇ。弓もね、刀とかに負けないくらい、とっても強いのよぉ〜?」
う。バレていたのか。にっこりと笑むマリアさんに図星をつかれたことを密かに驚きつつも——この人、見た目や口調に反して案外鋭いのかもしれない——説明を待つ。
彼女曰く、矢は実際の矢を使うのではなく、自身の魔力を矢として生成、いや、顕現させ、番え、そして射るらしい。魔力の仕様用途は多岐に渡り、魔術だけがその用途ではないんだとか。
「そもそも魔術っていうのは、大気中に漂う魔力を体内に取り込み、変換して、炎や氷として外に放出することの総称よ。それとサイクルが同じならば、どんなことにだって応用できるってわけ。不思議じゃないでしょう?」とはレオの補足だ。植物の光合成みたいなものだろうか。
そのサイクルに則り、マリアさんは、魔力を取り込み変換して、雷や風ではなく矢という形で外に放出するというわけだ。それを番える弓も魔力製の弓を番えるための専用の弓らしく、『科学班』とやらのオーダーメイド品だそうだ。
「ああ、科学班っつーのは、化学薬品から武器、制服、果てにはアクセサリー作りまで手がける俺たちの支援をする班だ。他にも支援をする班はたくさんあるが、代表的なのがそれだろうな」
「へぇ……そういうショウは、何を使ってるんだ?」
さっきから気になっていたのだ。マリアさんは判明したとして、ショウやレオ、エルの武器。彼らはパッと見どこにも武器らしきものは持っていないようだし、何を使うんだろうか。
「ああ、俺か? 俺は銃だ」
銃。こちらもまた消耗品の弾薬やリロードの手間——は、ないんだろう。マリアさんの弓の例を鑑みそう考えていると、ショウは俺の考えを読んだか唇をゆがめた。
「俺はちゃんと弾薬を使ってるよ。魔力で生成なんて器用な真似はしてねぇ。転移魔術で、離れたところにある倉庫から弾薬を移動させてるだけだ」
「ショウは不器用だものねぇ〜」
くすくす、とマリアさんが微笑む。それに「うっせ」と返すショウを見つつ、俺は「ほぉ」と息をついていた。どうやら遠距離戦にも色々とタイプがあるらしい。魔力を扱うための技能の、個人差も。
「レオは? レオも遠距離系なのか?」
俺の後ろのソファのせもたれに寄りかかっていたレオを振り向き、そう問うと、彼女は「そうね」と答えた。
「遠距離系だけれど、私はもっと直接的よ。魔力そのものを扱う、魔術の使い手だもの」
「おいボウズ、気をつけろよ。レオはな、16歳——史上最年少で聖五位まで昇りつめた、正真正銘の"天才"だからな。うかうかしてると燃やされるぞ」
「そういってる貴方が燃やされそうなのには気付いてるかしら?」
コソリと俺に耳打ちするショウにひく、とレオのこめかみがヒクつく。次いで一瞬で目をそらした彼に諦めたように嘆息すると、彼女は一転、薄く笑んで掌を俺の頭上にかざした。自然、俺も上を仰ぐ形になる。
「魔術はね、"こういうもの"なの——」
——言葉と共に、掌で"渦"が逆巻いた。