複雑・ファジー小説
- 第2話 蒼色の彼女 ( No.3 )
- 日時: 2013/03/08 10:39
- 名前: 聖木澄子 (ID: b5YHse7e)
蒼色の彼女。
眼前に非日常を伴って現れたのは、青い髪をふわりと風に靡かせた、色白の少女——だった。
「貴方、」
ぽつ、と少女が呟く。次いで相変わらず見えない足場の上を歩いているような動きでこちらへと近づき、俺をじ、と見つめる。
「貴方がショウに轢かれたって人、かしら?」
美少女だった。青いロングストレートの髪は一点の曇りもなく風に揺らめき、その色白の肌はまるで一度も日の光を浴びたことが無いくらい透き通っていて。——そして何よりも、真っ直ぐに俺を見つめるその蒼の瞳が、一際俺の目を惹いた。澄んだ泉の奥底を覗き込んだような、俺とは違う……そんな、濁りの無い透明。
「ってちょっと、聞いてる?」
「え。あ、おう……多分、そうだ」
瞳が怪訝そうに傾げられる。我に返って頷くと、「そう」と彼女は豊かな胸の下で腕を組んだ。……ショートパンツから伸びる足といい、この美少女かなりスタイルがいい。やっべ、色々と目が離せねぇ。
「なら、このままこの列車に乗って、終点まで向かって。ここじゃ何だし、詳しいことは後で話すわ」
「お前、は」
「私はショウ——貴方をここに来させた張本人の代理よ。とにもかくにも、まずは死神界(ヘルヘイム)に行って。いいわね?」
「……はぁ」
俺の視線に特に頓着もせず、蒼色の少女は俺のわかったのかわかってないのかよくわからない返事を見ると、踵を返して列車の進行方向へと行ってしまった。……なんだったんだ今の。
だが確かに、その瞳の蒼は——一瞬で俺の意識を奪うほど、鮮烈だった。未だにあの深い蒼が、目に残っている。
「やべ、これ」
思考の中で渦巻く感情や早鐘を打つような心音——心当たりが無いなんてことはない。だがそれだけを信じきれるほど、俺は無垢ではなかった。
知らず紅潮していたらしき顔を手で覆う。いつぶりだろうか、こんな感覚。"あれ"以来、もうこんな感情になることはないと思っていたが。
「案外、わかんねーもんだな」
呟き、ぼすっとシートにもたれかかる。テストでひっどい点を取ったあと車に轢かれ、死んだと思いきや生き返り(?)蒼い少女と邂逅。なんというか、トラブルメーカーもびっくりの巻き込まれっぷりである。
ここまでくるともう流れに乗るしかない。なるようになれ。そう思いながら列車が進むのと並行して流れ行く星々を眺めていると、いつの間にか俺は、再び眠りに落ちていた。