複雑・ファジー小説

第4話 町並みと威圧感 ( No.5 )
日時: 2013/03/09 18:31
名前: 聖木澄子 (ID: b5YHse7e)

「つまり今まで俺が列車に乗って通ってきたあの空間は、三途の川みたいなもんだってことか?」
「ええ、そうよ。大体そんなものだと考えてくれていいわ。そして、あの列車は死者を運ぶ船ってところね」
 見えない足場を歩くということに半分慣れてきた頃、俺とレオは連れ立ってある場所へと向かっていた。そしてその道すがら、俺が先ほど通って来た場所、そして今現在いる場所——『次元の歪(じげんのひずみ)』について尋ねていたというわけだ。
 彼女曰く、ここはいわば死者の世界であり、俺が列車に乗って通ってきたのは死後の国へと通ずる連絡路、ということらしい。俺が今向かっている死神界(ヘルヘイム)と『次元の歪』との境界線は厳密には無く、それら二つは同じ空間にあるという。そして死んだ人間は列車に乗って連絡路を渡り、死神界とやらで沙汰を受け、次の生へと転生するというわけである。
 まぁ正直そんな日常と乖離した説明をされたところでキャパシティの大きくない俺の脳が完全に理解できるはずもなく、俺は終始「……はぁ」とか「ほぉ」とか気のない返事をしてばかりだった。それでもその話を疑う気にならなかったのは、今時分が置かれている状況が既に非日常であること、そして隣の少女が嘘を言っている風にはどうも見えなかったからだった。
「ほら、あそこよ。あそこに私たちのトップ——創造神(そうぞうしん)がいるわ」
 つ、とレオが指差した先へと視線を移す。そこには、いつの間にか夜闇の銀河に映える白い建物郡、そしてその先に圧倒的な存在感を持って佇む巨大な宮殿が見えていた。何故今まで気付かなかったんだろう——そう思うほどに、それらは在るのが当然という風に存在していた。
 驚きに思わず足を止めた俺を振り返り、レオはわずかに微笑して口を開く。
「これから貴方には、その創造神に会ってもらうの。そして手順を踏むことで、正式に"死神として"生き返る——そちらを選ばなければ、速やかに転生行きよ」
 そう、俺は死んだのだ。だからこそここにいるし、彼女と会いまみえることができた。……だが選択を誤れば、俺はあっさりとその生涯を終えることとなる。
 それは、嫌だった。
「その手順、ってのは?」
「簡単よ。一通り私たちのことについて説明して、死神入りを貴方が承諾さえすれば、後はこっちが儀式を開くわ。貴方は訊かれたことにただ返事をすればいい。それさえ終われば、晴れて死神入りよ」
 儀式、か。堅苦しいのは苦手だが、まあ致し方あるまい。ああ、と頷き答える。
「それだけで生き返れるならお安い御用だな。まぁ、死神が何をするかによるが」
「人によっては死ぬほうがマシかもしれないわね」
「……そんなにハードなのか?」
「内容によるわね。それについても後で話すから。こっちよ」
 建物の合間にできた街道を通り、他にも他愛のない話をしながら宮殿へと向かう。やがて星明りに照らされ眩い白を放つ巨大な建造物のもとへと辿りつくと、中へと通された。そして最終的にたどり着いたのは、白い扉の前。たん、と靴音が鳴り響く。
 ——威圧感と存在感を併せ持つそれの奥。そこに確かにとんでもない"モノ"がいると、感じた。

「……——ッ」

 扉以上にとんでもないプレッシャーが、その奥から放たれている。それは力を持つ者のみが放つモノであり、凄絶な経験をしてきた俺でさえここまで肌が粟立つような強烈で鮮烈な威圧は、受けたことが無かった。息が詰まる。思考が同じ場所を巡る。何故こんなところでこんなプレッシャーを受けなければならない? その必然性は? 隣の彼女からもプレッシャーは感じるが、扉の奥に潜むモノの比ではない。そしてそのあまりにも強引すぎるプレッシャーは、その中の繊細をさをもって俺にのみ注がれている。隣の彼女が平然としているのがその証拠だ。そんな生きているだけで災厄になるような化物が、この奥に——!
 ギィイ、と軋んだ音を立てて、俺と化物を唯一隔てていた扉が開かれる。そこにいたのは——