複雑・ファジー小説
- Re: 裏切りゲーム ( No.107 )
- 日時: 2014/04/01 23:19
- 名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)
メイは目を開けて、はっとした。顔を上げて、そのまま体を起こす。と、小さなハンカチが腰の方にずり落ちた。
やはり、そうだ。この番組と特集、そしてこのハンカチ、周りの光景に見覚えがあった。これは、そう、ゲームが始まる前の———
「ふにゃあ……。お姉ちゃん、おはよ〜……」
ああ、そうだ。ここで舞が下りて来て。私は、舞にこう言った筈だ。メイは振り向きながら恐らくあの時舞に言ったであろう言葉を言った。
「おはよう、舞。ハンカチ掛けてくれてありがとう。お隣さんからもらったご飯が有るから、着替えたら食べてて…… っ!!」
開いた口が塞がらない、とは正にこう言う事を言うのだろう。そこに居たのは舞では無かった。否、"メイの知る舞"では無かったと言うべきか。あの時と似たようなパジャマではあったし、行動も覚えている限り同じだったが、背が高い。前はメイの胸位まで有るか無いか位だったのに、今見ている彼女は頭のてっぺんがメイの目の高さにある。そして、髪が短い。ツインテールだった彼女の髪はショートボブと化していた。
メイが絶句していると、彼女は怪訝そうな顔をしてメイを見上げた。
「なあに、顔になんか付いてるの? あたし、今日部活あるから、早めに家出るからね」
「え、あ、ぶ、部活? う、ん、解った」
声変わりはまだしていないのか、前と同じような高い声だった。舞はアイロン台を出すと制服のカッターシャツにアイロンをかけ始めた。そう、メイと同じ制服に。
本当に、舞なのか。メイの中で疑惑が立ち始めた。雰囲気も、顔付きも、みんなメイの知る舞とは異なっていた。しかし、舞、と呼んだときには彼女は何の違和感も感じなかったようだし。まさか、浦島太郎のように、未来へ行ってしまったのだろうか。……そういえばさっき、「部活」があると言っていた。小学校には部活は無いし、中学生なのだろうか。お姉ちゃん、と呼んでいたことからすると、中1、又は中2の可能性がある。いや、双子の妹の可能性も———
「お姉ちゃん!」
「ひゃあっ!」
顔を上げたら、腰に手を当てた少女、舞が立っていた。舞はメイの目を覗き込むようにしてこう問うた。
「お姉ちゃん、大丈夫? さっきからボーッとしちゃってさー。あたし、もう行くから遊依兄ちゃんたち起こしてね。じゃあ、行ってきます!」
「あ、うん、行ってらっしゃい——— あ、ちょっと待って!」
メイは舞を引き留めると、生徒手帳を貸すように言った。今日は休むから連絡、と適当な理由を付けて一番後ろのページ———個人情報が書かれているところだ———を開いた。そこには。
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副弓 舞
2001/03/06 生
所属学級 1-C
所属部活 バドミントン部
上記の者を誠真中学校の生徒であることを認める。
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確かにそう書いてあった。
メイはそれを見ると何事も無かったかのように、1ページ前の連絡欄に自分が体調不良の為に休むと言うことを書き記し、舞に生徒手帳を返した。
「じゃあ、行ってらっしゃい、舞」
そう言うと舞はにこりと笑ってラケットを背負い直し、行ってきますと残して家を後にした。
がちゃりとドアの閉まる音がした。
メイは兄を起こすことを忘れ、その場に崩れ落ちるように跪く(ひざまずく)と、そのまま蹲って(うずくまって)震えていた。