複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.136 )
日時: 2014/04/05 23:12
名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)
参照: なんか展開が早いような……?

「あ、秋樹。この死体は…… 加納くんだな」
「ああ。っていうか"英孝"のこと"加納"呼び未だにしてる奴久しぶりに見たわ」
 さも当たり前のように接する雪夜と秋樹。他人の家の玄関で未だに伸びている彼を誰も気に止めなかった。心配する声などあれば、彼らは驚くだろう。これが、日常なのだから。哀れ。

「雪ちゃんは人のこと渾名で呼ばないもんねー。あら、英孝」
「見事な死にっぷりだなー。遺言で『僕イケメン!』とか叫んでたらウケるけどさ。
 ……あ、駄目だな。こいつの一人称"俺"だった」
 いつの間にか、夏芽と春光も近寄って来ていた。彼女らも、また当たり前のように接していた。寧ろ、悪ノリしている。此処で止めようものなら、彼女らは唖然とするだろう。これが、普通なのだから。哀れ。
 秋樹が気絶した人を引き連れて来たとき(特に影太の場合)は、(影太と)雪夜に話がある時が多かった。影太は女子の家に行くことを拒否するので、秋樹は強行手段としてこれを用いていた。その状態を、彼ら4人は"死体"と呼んでいる。今回もその一例に過ぎなかった。

「んで、秋樹。何の用だ?」
「ああ、そうそう、これ」
 秋樹はウエストポーチから影太にも見せたあの赤いチラシを出した。何度も折り畳んでいるので、跡がくっきりと残っていた。

「ん? あ、それ、もしかして……」
 そのチラシを一目見て雪夜も何か思い出したようで、秋樹と死体を中に入れるように言うと、雪夜の部屋に駆けていった。



「広いね〜」
「金持ちだな。うん」
 道中。……と形容するのは可笑しいかもしれないが、雪夜の家は廊下が長い。一戸建てで2階は無いのだが、横に長いため広いのだ。
 秋樹は影太を背負って歩いていた。いつもこうしているだけあって、影太を背負うのは手慣れていた。ウエストポーチに足が引っ掛かるので、背負いやすいらしい。ただ、影太の重みでウエストポーチとベルトが契れやしないかということが心配ではあるが。

 雪夜の部屋は最奥にある。さっきクッキーを食べていた場所は雪夜の部屋ではなく、雪夜の部屋の"別室"だ。別室がある時点で、金持ちだということには最早誰も突っ込まなかった。



「……そうそう、これこれ」
 間もなくして、雪夜は一枚の紙を出してきた。そう、それはあのチラシと同じ物———否、それのコピーだった。

「母さんが会社でコピーを取ってきてな。秋樹が好きそうだなと思って取っておいたんだ。でも、不要だったようだな。持ってたんなら」
 雪夜は紙を小さく纏めると、ゴミ箱に投げ入れた。———と、ゴミ箱の縁に当たって入らない。雪夜は少し溜め息をつくと、四つん這いでゴミ箱に近寄って———いけなかった。秋樹は雪夜の手首を掴んで引き留めると、顔を上げてこう言った。

「———つまりお前、知ってたんだな? これ」
 ああ、と雪夜は頷いた。何の戸惑いも無かった。

「なら、話は早い。
 ———雪夜、俺と一緒に参加してくれないか?」
 雪夜はちょっと考えてから、いいよ、と応えた。秋樹とは幼馴染みな為、別に誘われるのは珍しい事では無かった。最近はあまり無かったが、異性が必要ならば有り得る事では有ったのだ。同性は、多分影太を連れていくつもりだろう。
 ゲームの開始は14:30。今は2時過ぎ。会場は徒歩10分のところにある劇場だったので、今から行けば丁度良いくらいだった。雪夜は、部屋の片付けを始めた。



「じゃあね〜」
「それじゃ、また来るわー」
 夏芽と春光を見送って、さて、と秋樹に目で合図すると、劇場に向かって歩き出した。