複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.147 )
日時: 2014/04/21 21:58
名前: 咲楽月 ◆MawehM.pH2 (ID: bG4Eh4U7)

 劇場の周りは酷く静かだった。本当に"ゲーム"が行われるのかと疑うような。いや、どんなゲームかは知らされていない為、なんとも言えないのだが。
 遠くで子供が遊ぶ声が聞こえた。多分、この近くの公園からだろう。この辺りは人通りも少ないし、劇場は上から見ると半円なのでよく響く。劇場と言えども殆ど使われていないので、秋樹も此処に来たのは小4の時が最後だった。

「……ん、く、ふわあああ……。
 え、ちょ、おい、秋樹、何してんだよ!?
 古内さん(雪夜)まで居るし……。おい、なんの騒ぎだよ、秋樹!!」
 影太を担ぎ上げてここまで来たのだが、どうやら目を覚ましたらしい。暴れている。重い。五月蝿い。騒ぎなぞない。寧ろ、影太のその喚き声が騒ぎだ。半円形の劇場から声が跳ね返って木霊した。

「……もう、五月蝿えよ! マジで黙れっつの」
 それでも影太は人間なので、黙る訳がない。彼はその後も尚、下ろせ下ろせと喚き散らした。重い。ああ、重い。ひとまずその場に下ろすと、影太は飛び退いてまた、説明しろと喚く。ああ、五月蝿い。子供の声も掻き消されていく。チラシは見たのだから、察しろよと言わんばかりの目線を浴びせると、影太は口を開けたまま黙った。遅れて口を閉じると、どうやら察したらしい。なんとなく頷くと、影太は劇場の方に目を遣った。それからちらりと秋樹の方を見て、劇場に向かって歩き始めた。



*(影太視点)



 殺気を感じた。後ろから。きっと、秋樹からだろう。ああ、面倒なことになりそうだ。影太は頭を掻いた。正直、なんのことやらさっぱり解らない。でも、殺気と視線は感じた。つまり、何かをするため、又は何かをさせるために自分は今連行されている、という訳だ。その場合、流れに身を任せるのが1番だと思う。先に待っていることが悪夢でない限り。

 劇場の周りには誰もいなかった。受付は劇場と書かれていたので、てっきり外かと思ったのだが、違ったようだ。では、中か。物凄い視線を感じた。意味は、うん、解っている。影太は扉に手を掛けた。引くと———ガタンと音がして、開かなかった。奥へと押すと、古い洋館みたいな好きになれない音が響いた。

「お邪魔しまーす」
 なんとなく、そう言ってみた。特に深い意味はないのだが。後ろにいた秋樹、雪夜と共に足を踏み入れたその時。


 ぐらりと身体がよろめく。急な出来事で、手を付くことも出来ずにそのまま倒れ、脇腹を打った。

「うわっ!」
 強打した、とかそういう訳では無かったのだが、急な強い揺れに驚いて声を上げた。なんとか起き上がると、周りの様子を軽く見渡した。秋樹は背中を打ったらしい、寝返りを打って体勢を立て直していた。今思うと、揺れていてそう見えただけかもしれない。でも、なんだか違和感があった。

「……おい! もしかして、これ、……っ!」
 声の方を見ると、扉の取っ手にしがみつく雪夜の姿があった。バランスをとって、ふらつきながらも立ち上がると振り返ってこう言った。

「地震、とか、周りが揺れてる訳じゃない。"俺たちが"揺れてるん———」
 声が聞こえたのはそこまでだった。大きく波打つように揺れ、ガクンと顎が鳴った。ぐっと顔を上げると、周りの風景、いや、時空が歪んだように見えた。